出会い
「朝方のワインは素晴らしい。マリー、君もそう思わないか?」
「葡萄ジュースですけどね。」
「気分というものだよ。」
皆様ごきげんよう。相変わらず我が同居人は私に冷たい。
我が同居人であり最愛の人でもあるこの女性の名はマリア。私はマリーと呼んでいる。
彼女は俗に言う二重人格である。
といっても記憶は共有しているらしく二つ目の人格が出たあとは落ち込んだり恥ずかしがったりで部屋から出てこなくなったり…してしまうのだけれどそこも可愛い。
彼女の可愛さは言葉にしきれないし、少し時間がいやかなり時間が必要とされるのでここでは省こう。
それでは彼女との出会いについて話そうか。
ちなみにこれは私の頭の中で語られていることなので彼女には聞こえていない。
しいていうなら変人を見るような目で見つめられてはいるけれど…
いつものことだ。
彼女、マリーとの出会いはそう…仕事中のことだった。
その時の依頼はよく覚えていないが、私はターゲットの主催するパーティに参加していた。
その時の私は冷血…というのだろうか、誰も寄せ付けない様な男だった。
まだ若かったのだろう、周りをすべて敵と考えていたのかもしれない。
そんな私に声をかけてきたのがそう。マリーだった。
「楽しくありませんか?」
今でも覚えている。
淡い薄紅色のドレス。鈴のような声。他者のオーラには敏感な私でも嫌な感じがしなかった。
「あまりこういう場は得意じゃない…」
だから早く立ち去れ。そんな意味も含めて発した私の言葉に彼女は微笑んだ。
「仲間ですね。私もです。父様たちは嬉しそうですけど…私この家の人と婚約するそうなんです。」
彼女の手は小さく震えていた。
「政略結婚?っていうんでしたっけ。貴族の娘なんてみんなそんなものですけどね。…あ、ごめんなさい。こんな話。えっと、楽しんでくださいね!」
そういって去ろうとした彼女。
「え…?」
それを引き止めたのは私だった。
自分でも驚いていた。彼女の腕をつかみ引き寄せてしまったのだから。
「君は本当にそれでいいのか…?」
「え…でも父様が…」
「君の答えを聞いている!」
今思えば政略結婚なんて珍しくはない。
ただの気まぐれだったのかもしれない。
けれど…私は彼女といたい。
そんな感情ははじめてだった。
「わ、私は…結婚なんてしたくない」
か細い声。彼女は泣いていた。
「な、泣くな!ほら…」
慌てて渡したハンカチを受け取ると彼女は笑ってくれた。
「優しいですね。貴方は。私の意思を聞いてくれたのは貴方がはじめてです。」
「…私とこないか。」
考えるよりも先に言葉が出ていた。
「え…?」
戸惑う彼女をみて我にかえる。
「いや…すまない…今のは忘れ「いいですよ。」…へっ!?」
我ながら間抜けな声が出たものだと思う。
「貴方とならなんだか楽しそうです。…攫われるのなら…貴方がいい。」
そう微笑んだ彼女はとても輝いて見えた。
「…よろこんで。」
…それから彼女とは共に過ごしている。
ちなみにこの口調は彼女の好きなミステリー小説を共に読んでいたらいつの間にかこうなっていた。
彼女は大喜びだったのでよしとしよう。
と、いうことで…
「マリー、ワインのおかわりを。」
「葡萄ジュースですよ。」