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現場写真”・“証拠写真

作者: 頭山怛朗

 おれは無趣味だ。

 無趣味の人生なんて面白くない。何か趣味を持たなければ、と思った。


 人殺しをしても捕まりたくない。捕まってしまったら無意味だ。なら、どうしたらいいか?

 死体を発見されないことだ。

 そうすれば“殺人”ではなく単なる“行方不明”になる。家出か失踪になり、警察も真剣に捜査をしない。仮に真剣に捜査をしたところで、おれの関係が“無関係という関係”しかなかったらおれが調べられることはない。

 小学校四・五年生の時伝書鳩を飼ったが、一匹猫に殺された。山に埋めてやろうとしたが地面が固くて鳩一匹の穴を掘るのが大変だった。やぶ蚊に刺され放題だったが、鳩を埋める穴一つまともに穴を掘ることさえできなかった。

 それを人間の死体を埋める穴を掘るなんて不可能だ。仮に苦労して掘ったとしても浅くて雨で表土が荒い流されるか、野良犬に掘り返されるかどっちかだ! 結果、死体が出て、化学捜査の結果逮捕されてしまう。

 でも、おれには獲物の死体を深く、深く埋める手段を持っている。



 おれは土建業をしている。主に公共事業を請け負っている。“公務員”というと目の敵にする人がいるがおれは彼らが好きだ。たまに民家企業の仕事を請けることがあるが、大抵、担当者が“一杯、飲ませろ”とか“ゴルフがしたい”と言う。ゴルフはしないし酒は弱いし、人付き合いが苦手なおれにとって耐えられない苦痛だ。でも、役所の人間はこんな要求はしてこない。支払いだって確実だ。民間企業みたいに遅れたりしない。

 ただ、すべてにきっちりしていないと駄目だ。とくに“現場写真”・“証拠写真”をきっちり撮っておかないと面倒なことになる。でも、おれはこのことは少しも苦痛ではない。写真が好きで何時もコンデジを持ち歩いている。“いいな! ”、“きれいだな! ”と思ったら思わず写真を撮っている。


 あの日、年度末が迫ったきたある日、K土木事務所の担当者から電話があって「昼一で完成検査申請書を持ってきて欲しい」と言ってきた。大急ぎで書類を作って“昼一”に土木事務所に行くと担当者は「帰った」ということだった。困惑していると隣の席の職員が「申し訳ない、彼は明日はくる。書類を机の上に置いておいて欲しい」と言われ言われるままにした。後で知ったのだが、小学校四年生の息子が体育の時間に鉄棒から落ちて怪我をして、学校から呼び出されたらしい。なら、しようがない。誰にでも“想定外”のことはおきるものだ。

 でも……。


 次の日の昼前、二人の刑事がおれを訪ねてきた。おれは二人を会議室に案内した。


 若い方の刑事の手にどういうわけかおれが昨日、土木事務所に提出した書類を持っていた。彼は付箋のついたページを開いておれの前に開いた。急いでいたのでよく確認しないで印刷した写真だった……。

 おれはすべてを理解した。

 誰にでも“想定外”のことは起きるものだ。

 そこにはコンクリート紛れの死体が写っていた。


 年かさの刑事がゆっくりと言った。「まさに“現場写真”・“証拠写真”ですね 」



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