流れ者と旅人
この話は、意図的にではありませんがたぶん日本の身分差別のことも思って書いたのかもしれないです。日本に限らずかもしれませんが。できれば、そういうことを少しでも頭に置いて呼んで頂きたいです^^
楽園の西に存在する土地、カサブランカ。
カサブランカは楽園の中でも一番あれている土地だった。
そこにいる人は、三種類に分かれる。
金を使い、人達を自分の道具とさせる者―――――「貴族」。
食料も服も何もかもがない者―――――「流れ者」。
そして、貴族のいいなりになる者たち。彼らはもはや機械のように動くだけだ。
たまに訪れる旅人も、見て見ぬふりをする。
旅人も、大雑把に分ければ流れ者の一部だからだ。
貴族には、逆らえない。
それが運命であるかのように、長年の間カサブランカはそのままだった。
でも、一人だけ。
意思の違う旅人が存在する。
その旅人の名は――――――――――――リウル。
楽園の神話に出てくる、勇者の名だった。
「あー………なんだこの流れ者たちは。」
リウルはそこに広がる光景に眉をひそめた。
やせ細った人達。老若男女問わず座り込んだり、狂ったように笑っていたり、何かを探すように土を掘っていたり。
まさに、地獄のような所だった。
リウルはここがカサブランカだとすぐに察した。
噂通り。
一人一人近付いてみると、なんの反応も示さない者がほとんどだった。
目を見ると、みんな助かりたいという気持ちが視える。
かわいそうだと、思った。
―――――俺は、全員を助けることができねぇ…。
悔しい。
もう少し力があれば、と思う。
食料をおいていくこともできない。
おいていったところで、流れ者が食料を巡って争いを起こすだけだ。
「………!……聞いてんのか!」
流れ者の様子を見て回っているうち、不快な貴族の声が聞こえてきた。
声のする方に目を向けてみると、ちょうど貴族が少年――――リウルの3歳ぐらい年下――――を平手でぶつところだった。
「なっ…あンの貴族…!」
慌てて駆け寄る。
「目上の人にぶつかったら、なんて言うもんなんだよ!あぁ!?」
リウルが来たことにも気付かない貴族の話を聞いていると、どうやら少年が貴族にぶつかって何も言わずに去ろうとしたことが貴族のかんに障ったらしい。
「……………心せめぇな…………。」
呆れて呟く。
貴族は気付かないようだが、少年は気付いたようだ。
目が合う。
リウルはため息をついて、恭しく貴族に礼をした。
「貴族様。」
「…なんだ、お前は。」
当然のように、訝しげな目でリウルをじろじろと見る貴族。
舐めるような目が気持ち悪い。
「彼の説得、私が行ってもよろしいでしょうか?」
「見たことのない顔だが……。ふん、まぁいい。やってみろ。」
貴族は偉そうに鼻を鳴らすと、少年をリウルの方へ突き飛ばした。
よろけて転びそうになる少年を、慌てて支える。
体重的に軽すぎる。
リウルが少し眉をひそめると、貴族が嘲笑する。
「勝手に転ばせておけばいいものを。」
少年が貴族を睨みつけた。
………なかなか勇気のあるやつだ。
「少年。」
「…なんだよ。」
案外普通に返ってきた言葉に、少し驚く。
少年と呼ばれるのに抵抗はないのだろうか。
「付けられた名前の方がもっとひどい名だからな。」
聞いていないのに、思考を呼んだかのように少年はそういった。
どんな名だろう、とつい考えていると、少年にそれよりも、と睨まれた。
「あんたも、貴族の仲間だったんだな。」
違う、とは言えなかった。
貴族がいる手前、違うと言ったら少年の説得を中断させられてしまう。
黙っていると、少年はそれを正しく理解してくれた。
「…言えよ。」
年上への態度ではないが、不思議と腹は立たない。
こっちのことを理解してくれてるからだろうな、とリウルは思った。
「俺はリウル。な、少年。流れ者でいるの、つらいか?」
少年と貴族が、何を言い出すんだろうという目でリウルを見る。
少年が口を開こうとすると、ふと誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。
「………!芦流ー!」
きょとんとしていると、目の前の少年が慌てたように声を上げた。
「わっ、おまえっ、鏡流!?」
芦流と呼ばれた少年は、呼び声の本人を見て驚愕を顔に浮かべる。
芦流が鏡流と呼んだところを見ると、知り合いのようだ。
「えっと…少年?」
リウルが声をかけると、なぜかうなだれている芦流が低い声で紹介した。
「…こいつ、鏡流。俺の双子の弟だ…。」
「芦流、何があったんだ!?こいつが何か悪いことしたのか!?」
こいつとさされたリウルは、少し慌てる。
「や、違う!」
「…鏡流、勘違いするな。悪いことしたのは貴族だ。」
「…ん?貴族?なんだ、またか。この人貴族じゃないもんな。」
芦流の説明のおかげで、リウルは安心した。
というか、この鏡流という少年。
お調子者というか、世話焼きというか、いろいろと忙しそうなやつだ。
「…つーか、鏡流!!」
芦流が急に大声を上げた。
「なんだよ。」
さっきの芦流みたいな反応。
双子なんだなぁ、しみじみ感じた。
「その名で俺を呼ぶなっていっただろ!?」
「そんなことか?芦流だって、俺のこと鏡流って呼んでんじゃん!」
芦流…この名前に何かあっただろうか?
芦流たち兄弟のケンカを見ていたリウルは、少しだけ首を傾げた。
「そんなのどうだっていいだろうが!お前は抵抗ないんだろ?」
「あるよ!ないわけないだろ!?」
「――――――――――あっ!!」
リウルは、芦流・鏡流の名を思い出した。
結構有名な名前だ。なんで忘れていたんだろう。
「神話の、破壊神か!」
芦流と鏡流は、呆れた目で見ている。
「なんだよ、わかんなかったのか?」
「有名な名前だぞ。忘れるとかアリかよ。」
言い返す言葉もない。
なんですぐ思い出せなかったんだろうとうなだれるリウルに、芦流が自嘲気味に語る。
「そうだよ、芦流と鏡流は双子の破壊神だ。神話に出てくる破壊神は、一度楽園を滅ぼそうとするんだ。……な、リウルは勇者の名前だよな?だったら、俺たち破壊神を倒してくれよ!」
鏡流も、何も言わずに頷いた。
2人とも、その名は嫌っているようだし。
でも。
「無理!俺、ただの旅人だし。」
リウルはそう叫んだ。
鏡流が声を荒げる。
「そこでオチつけるなよ!ナイフぐらいもってんだろ!?」
「ばーか、持ってねーよ。」
リウルは鏡流の伸びすぎた髪の毛をかき回して、笑った。
「な、芦流。さっきの質問の答えは?」
「…………?さっきの質問…………あぁ。」
芦流は泣きそうな顔で、こう言った。
「嫌だ。貴族に使われるのは嫌だ。それに、流れ者でいて良かったことなんてない!誰も話そうとしなかった。無視され続けた!」
リウルは、その気持ちを痛いようにわかって、わかったからこそ、こう言った。
「なんだ、喜べよ!」
長い沈黙が落ちる。
「…………………は?」
鏡流が、なんの感情も読めない目をしてリウルを見る。
リウルはまた笑った。
「お前、貴族に使われたんだろ?」
首肯。
「貴族が嫌いなんだろ?」
また首肯。
「だったら、その貴族にならなかったって喜べよ。」
すぐ側に貴族がいたけれど、リウルは気にしなかった。
でも、と芦流が叫んだ。
「………喜べるかよ!」
「俺らは破壊神の名を持ってるんだぞ!?それで怖がられて、喜べるわけないだろ!」
鏡流も叫ぶ。
あーあ、と空を仰いだリウルは芦流と鏡流の頭をなでた。
「破壊神って言うんだったら、この腐ったカサブランカを破壊してくれよ!」
なでられた2人は顔を見合わせる。
そんなこと言われたって、できるわけがない。
それこそが、2人の名前はただの「名前」であることの証拠だ。
「リウル、お前…」
芦流が呆然とリウルを呼んだ。
リウルはそれに安心させるように笑いかけて、言った。
「芦流、鏡流。破壊神の結末を知ってるか?」
「…確か、正義の女神ジャスティスに破壊の力を取られて終わり…じゃなかったか?」
鏡流が思い出すようにして答えた。
「正解だ。それに、続きを作ってやればいいんだ。」
「続き?」
芦流が首を傾げる。
その仕草は芦流の年として当たり前のような仕草で、なんだか可愛らしかった。
「そうだ。たとえば―――――――」
―――――正義の女神ジャスティスに破壊の力をとられた元・破壊神芦流と鏡流は、真逆の力を手に入れる。
創造の神となった2人は、新しい国を作ろうと、敵対していた勇者と旅を始めた―――――
「ってのは、どうだ?」
芦流と鏡流は目を輝かせていた。
「…続きは?」
鏡流が急かす。
リウルは首を振って、不敵な笑みを浮かべる。
「あとは、本人たちが考える番だろ?」
本人たちは、顔を見合わせて笑った。
「黙って聞いていれば、貴様らー!!!」
「ぅおっと。」
すっかり忘れていたが、貴族がいた。
急に飛びかかってきた貴族をすれすれで避ける。
どうやら貴族は、相当ご立腹のようだ。
顔を引きつらせるリウルの服の裾を、くいくい、と引っ張る者があった。
「芦流!」
「逃げようぜ、リウル!」
これはまた。
すっかり元気になった芦流と鏡流は、逃げる気満々だ。
「よし!逃げるか!」
目を合わせてタイミングを取り、芦流・鏡流・リウルは全速力で逃げた。
楽しい。
三人は、そう思った。
後に、三人の名は楽園中に知れ渡る。
流れ者を助ける英雄として扱われるようになる。
身分の差別をなくそうと努力する者となる。
カサブランカも、そのうち他の土地と同じくらい、もしくはそれ以上の自然豊かな土地となることは、まだ誰も知らない。




