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第三十六話 にゃんことわんことおばかさん

お待たせしました、コメディパートです。

コッコさんの出番はありませんが、それはまぁ次回への伏線ということで、次回からはもうバッキバキに出していくかもしれない今日この頃(笑)

それでは、どうぞ♪

 微笑む二人の少年と少女がいた。

 奇妙な宿縁を背負うことになるかもしれない二人だった。

 だから猫はお節介を焼くことにして、にゃーんと鳴いた。



 最初は真っ白なシーツでも、使う度にどんどん汚れていく。

 最初はなんにも知らないお子様でも、少しずつ色々なことを学んでいく。

 つまり、経験と汚濁は等価ってコトだ。どんなに否定しようとも、この世界に存在を続ける限り経験という汚れに侵されながら、あたしたちは生きていく。

 基本的にも応用的にも、生きるってのはそういうコトだ。

 生きるってのはわりと長いスパンで行われる活動のことで、それはまぁ星の瞬きとかそんなんに比べるとひどく小さくて短いものかもしれないけれど、極大やら極小の世界なんておかまいなしにあたしたちの世界(リアル)は今もこうして続いている。

 続いているのなら、戦わなきゃならない。

 それを否定した瞬間に人は誰にも認められなくなる。

 仕事ができなかろうが、ポカが多かろうが、努力することをやめた瞬間に人は認められなくなる。

「ふああぁぁぁぁ」

 欠伸をしながら時計を引き寄せて、あたしはいつも通りに起きる。

 朝ご飯は食べない。顔を洗って歯を磨いて、いつも通りの作業着に着替えた。

「じゃ、行ってきまッス!」

 それから一番の宝物である写真に敬礼をして家を出た。

 さて、それじゃあ小難しいことを考えるのはやめよう。今日も一日が始まる。

 せいぜい頑張って生き延びてやろうじゃないか。



 あのとんでもねぇ決闘っていうか怪獣超決戦から一週間、僕はそれなりの平穏を取り戻していた。

 美里さんはほぼ無傷だったし、京子さんも重傷に見えて怪我はそんなにひどくはなかったらしく、三日休んだらまたいつものように屋敷に戻ってきた。

 ただ、お互いになんだか色々と普段から思うところがあったらしく、顔を合わせると『キョーコさん』、『お嬢様』とネチネチとした舌戦を繰り広げることになった。元々、メイド長とコックさんというのは仲が悪いものなので、ある意味自然と言えば自然かもしれないけれど、見てるこっちとしては胃が痛くなるので勘弁して欲しい。

 ……ぶっちゃけ、喧嘩する前と比べると二人の仲が悪くなったと言えなくもない。

 まぁ、それは少しだけ打ち解けたということなのかもしれないケド。

「パパ。現実逃避してないで、こっちをちゃんと見なさい」

「…………はい」

 ボロッボロになった美咲ちゃんは、これ以上なく鋭い視線で僕を睨みつけていた。

 場所は僕の自室。ものの一時間でボロ雑巾のようにされた美咲ちゃんは、目を覚ますなりお説教モードだった。

「ええ、なんかもーパパには色々と感謝し切れないところがあるのは分かってるの。変な女学校に行かされなくて良くなったし、ママだってあれからなんか妙にご機嫌だし、私としては文句を言える立場じゃないことはよーく分かってるの。でも、愚痴くらいは言わせてくれてもいいと思うの。……本当になんつうことしてくれやがるんだこの野郎」

「………あー、ごめん」

 美咲ちゃんの愚痴を延々と聞きながら、僕はこっそりと溜息を吐く。

 美里さんがご機嫌なのは言うまでもなく、『僕で』ストレス発散しているからだろう。

 昨日は耳たぶを噛まれました。なんかこー唇ではむはむとする感じで。

 今日は耳に息を吹き込まれました。明らかに慣れた感じの甘い吐息でした。

 ……ホント、そろそろセクハラで訴えてもいいんじゃねーかと思います。

「パパ、ちゃんと聞いてる?」

「聞いてるよ。つまり、美咲ちゃんはものの小一時間でズタボロにされたのが悔しいってわけだ?」

「……それは否定しないケド、ママを本気にさせたのって、どう考えてもパパよね?」

「否定はできないね。肯定はしたくないところだけど」

「私としてはそれはいいのよ。……でも、パパは大丈夫なの? なんか……えらいことになってるような気がするけど」

 僕としては頭を抱えて悩みたいことを、美咲ちゃんは小学生らしい直球で言ってくれた。

「ママに京子さんに冥さん。……パパはもしかしてハーレムの建造でも狙ってるの?」

「美咲ちゃん、勘違いしちゃいけない。ハーレムっていうのは地獄と同意義語だ。そんなものを誰が作ろうと思うんだい?」

「そう? 私は美青年はべらせて毎日遊んで暮らしたいケド」

「………………」

 小学生のくせに、恐るべき発想だった。

 気を取り直すようにコホンと咳払いを一つして、僕は口を開く。

「ふと思ったんだけど、美咲ちゃんってもてるの?」

「もてないよ。女の子からはなんか色々もらったりするけど。パパはどうだったの?」

「もてないよ。女の子からは泥団子投げつけられたりしてたし。全員もれなくぶん殴ったケド」

「……意外と過激よね、パパって」

「まぁ、否定はしないよ。……っていうか、小学校の頃はあんまり女の子が好きになれなかったんだよね。群れるし、すぐ泣くし、嫌がらせは陰湿だし、集団でリンチするし、すげぇ痛かったから全員一人ずつ襲撃したら翌日先生に呼び出されるし」

「当たり前だと思うの」

 美咲ちゃんは真顔で言った。視線がちょっと冷たかった。

 実は呼び出しを食らった後にも色々と生臭い話があったのだけれど、そのへんは言わない方がいいだろう。子供の喧嘩にしゃしゃり出てきた親の不倫現場を押さえて脅迫した話なんて、純粋な小学生の前で言うもんじゃない。

 オチとしてはそれが全部母さんにばれてボコボコにされた程度だから、話としてもあんまり面白くないし。

 美咲ちゃんはゆっくりと溜息を吐く。

「まぁ、それはそれでいいけど……ねぇ、パパ」

「なんでしょう?」

「そこで冥さんと一緒にゲームやってる赤いの、なに?」

「………………」

 僕は思わず目を逸らす。

 ちらりとそちらを振り向くと、格闘ゲームに興じている冥さんは不機嫌そうなしかめっ面をしていた。

 どうやらかなり苦戦中らしい。苦戦中ということはもちろん相手がいるわけで、その相手はCPUではない。

 猫の瞳に真っ赤な髪の毛の少女は、楽しそうに遊んでいた。

 なんで彼女がここにいるかというと、母さんの幸せ光線にやられ命の危機を感じて脱走してきたらしい。現在自宅療養中の彼女にとっては、一日中父さんと母さんがべたべたしている光景はかなりきついそうだ。

 ちなみに、父さんは三キロ痩せたらしい。あんまり顔を合わせたことはないけど、死なないことを祈っている。

「あの赤い女の子は高倉望。妹という名目の友達……かな」

「それはもう知ってる。山口さんに教えてもらったから」

 なんだろう、この嫌な予感は。さっきから美咲ちゃんの口調に妙な迫力があるような気がする。

「あ、あの、美咲ちゃん? なんていうか……もしかして、望ちゃんとなんかあったの?」

「別になにもないわ。今日、道場にひょっこり現れた赤いのに五回ほどひっくり返されたりしてないからねっ!?」

「……そのへんは別に気にしない方が。母さんの娘だし」

「気にしてないもんっ!!」

 美咲ちゃん。わりと大人びているように見えて小学生。どうやらかなりの負けず嫌いらしい。

 まぁ、負けず嫌いだろうがなんだろうが勝てる相手と勝てない相手がいるのは仕方のないことだ。スタイル、相性、体調、実力、その日の気分、勝負ってのはそんな不確定なモノであっさり覆る。

 ちらりと二人がやっているゲームの方を見ると、冥さんの方には星がついていない。つまり、勝ちは一つもなし。

 恐ろしいのはそれが顔に出ているということ。冥さんはものすげぇ勢いで不機嫌になりつつあるようだった。

 と、僕の視線に気づいたのか、望ちゃんがこちらを向いて笑った。

「お兄ちゃんもやる?」

「や、僕はいいや。全CG出してストーリーを終わらせた時点で、あんまり興味もなくなっちゃったし」

「ぶー。このお姉ちゃんあんまり強くないから、面白くないんだもん」

 ミシ、とコントローラーに罅が入る音が響く。

 口元を引きつらせながら冥さんを見ると、にっこりと笑顔を浮かべていた。

 やばい、殺る気だ。

「おっとぉっ! なんだか急に僕はゲームをやりたくなっちゃったなぁっ! いやいや、そうだよね、たまにはいいよねっ!」

 あからさまでばればれだと分かってはいたが、僕は叫んでいた。

「そういうわけで冥さん。ちょっと代わってください。君のために僕が仇を取りましょう!」

「…………まぁ、いいですけど」

 不承不承といった感じで、冥さんはコントローラーを渡してくれた。

 やっぱり罅が入っている。とりあえずボタンが潰れていないことを祈りながら、僕はにやりと笑う。

「くっくっく、妹よ。この兄に敵うとでも思っているのか?」

「ふっふっふ、お兄様。この私の才能を甘く見ないほうがよろしくてよ?」

「完全なる敗北ってヤツを刻んでやるぜ」

「地を這うように生きるとよろしいですわ」

 僕は笑い、妹は笑う。

 そういうわけで、ラウンド1開始なのだった。



 基本的にはガードに徹し、相手の指の動きと戦術を読む。

 ゲームというものの性質上、基本的に『連続攻撃』にも限度があるように作られている。

 そして、どんな攻撃にも必ず隙は存在する。

 腐るほど手のあるジャンケンのようなものだ。いくら相手の動きが速かろうが、こちらが動かなければ攻めざるを得ず、ましてや相手は小学生。攻めるときの技が単調で見切りやすい。

 十回の戦いを終えて十回目の敗北を刻まれた時に、望ちゃんは思い切り僕を睨みつけた。

「おにーちゃん。ものすご卑怯なんだけど」

「あいにく、こっちは母さんのおかげでっていうか母さんのせいで『正々堂々』って概念を学べなかったからその辺は勘弁して欲しい。相手の土俵で戦うな。まともに組み合えば負け。とりあえず逃げろ。絶対的有利じゃない限り勝負は挑むな。……そういうコトしか学べなかったもんでね」

「………………」

 うわ、また尊敬の眼差しが痛い。テキトーなこと言っただけなのに。

 単純に攻撃のパターンが単調と言ってやれば良かったのかもしれない。

 僕が躊躇していると、望ちゃんはなんだかとても嬉しそうに、にっこりと笑った。

「まぁ、それはそれとして……さて、ここで問題です。どうして私は今日このお屋敷に来たのでしょうか?」

「母さんのラブオーラ(侵食率120%)から逃げるためじゃないの?」

「や……まぁ、それもあるけど」

 望ちゃんは苦渋に満ちた表情を浮かべた。額に流れている汗は、なんだか嫌なことを思い出したくないかのよう。

 それらを振り払うように首を振って、望ちゃんはにっこりと笑った。

「実は、今日はお兄ちゃんにお願いがあってやって来たのでしたー♪」

「帰れ」

「ひどっ! 予想以上にひどいよお兄ちゃんっ!? ほらほら、可愛い妹のお願いだよ? 兄貴として聞いてやるのが人情ってもんだと思わない?」

「んー……まぁ百歩譲ってそう思っておくことにしようか」

「なんか引っかかる言い方だけど……ま、それはそれとして望はここに行きたいの」

 そう言って望ちゃんがポケットから取り出したのは、可愛らしい一枚のポスターだった。


 わんにゃんかーにばる。県民会館にて開幕中。みんな、見に来てね♪


 僕はじっくりとそのポスターを凝視。それからゆっくりと思考を空回りさせてから言った。

「んー……さてさて、これはどうしたもんかな?」

「えー、嫌なの? お兄ちゃんは猫好きだって母さんから聞いてるよ?」

「猫は好きだよ。そりゃ大好きだ。でも、こういう見世物みたいな所に行くとみんな引き取って飼いたくなるからなぁ……」

「……そこまで好きなんだ」

「それに、猫も好きだし犬も嫌いではないけど、ああいう場所って何気なくゾウガメとかカエルとか売ってるしね。もちろんそういうのも嫌いじゃないけど、さすがにサソリはちょっと……」

「そんな隅の奥の誰にも目に留まらないコーナーまでじっくり見学しなくても……」

 望ちゃんは若干呆れ顔だったが、これはもう引くことができない僕の(サガ)みたいなもんである。

 ただ、ちょっと考える。

 僕の好き嫌いを考えないとしても、望ちゃんをこういう場所に連れて行くのはそう悪くはないだろう。兄としての得点稼ぎ以上に、今まで病気で難儀していたのならなおさらこういう場所に連れて行くべきじゃないだろうか。

 と、本当は一番行きたい自分に言い訳してみたりする。

「分かった。……それじゃあ明日、行ってみようか」

「わーい♪」

「日傘と手袋と常備薬とミネラルウォーターと携帯電話と緊急時の連絡先、それから自分で必要と思われるものを忘れちゃいけないよ? あと、今日は早く寝て体力は温存しておくこと。いいね?」

「お兄ちゃんって異様に口うるさいよね♪」

「黙らっしゃい、妹。不安要素はなるべく排除するに限るんだよ。……で、他に質問は?」

「何時に集合ですか? 有給休暇の申請はまだ間に合いますでしょうか?」

「十時くらいでいいんじゃないかな。有給は今ならなんとか間に合うと思うけど」

「パパ、おやつはいくらくらいがいいかな?」

「相場は三百円、多くて五百円が妥当じゃないかな。お昼ご飯とかも食べなきゃいけない……し」

 ……っておい、なんか今、余計な参加者が二人ほど増えたような気が。

「あの……冥さんと美咲ちゃんも行くの?」

「行きますよ?」

「章吾のために写真撮らなきゃ」

「……まぁ、いいけど」

 当たり前のように行く気満々の二人に気圧されて、僕は思わず頷いてしまった。

 僕が頷くと同時に二人は笑顔のまま立ち上がる。

「では、今日はこれにて失礼します。明日の準備があるもので」

「私もそろそろママが仕事終わる頃合だから帰るね。じゃあ、また明日」

 現在の時刻は午後の六時。美咲ちゃんはともかく、冥さんは深夜近くまで居座ることが多いのだけれど、どうやら今日はさっさと引き上げるつもりらしい。おそるべしわんにゃんパワー。その力たるやゲーマーにゲームを放棄させるほどだ。

 二人の背中を見送って、僕は自室のドアをゆっくりと閉める。

 さてと……妹という名のイレギュラーはあるものの、今日こそはそこそこゆっくりできるらしい。

「お兄ちゃん?」

「ん?」

「…………えっとね、迷惑、だった?」

 それは、いきなりわがままを言って迷惑だったかという問いかけ。

 小学生にしては気を回しすぎる一言。

 僕は溜息を吐きながらゆっくりと望ちゃんに歩み寄って、ぺしりとおでこをチョップした。

「迷惑もへったくれもあるか、アホ妹」

「え?」

「迷惑なら速攻で部屋から叩き出してる。そうしないってことは、そうじゃないってことだ」

 それだけ言って鼻を鳴らす。遠慮をするのは日本人の美徳だが、小学生の頃からそういうものを発揮してはいけない。

 少なくとも、僕みたいに拗ねたり遠慮して生きちゃいけないのだ。

「望ちゃんが妹だとかそういうのは一切関係ない。友達で身内で家族なら、僕はなんでもしてやるよ」

「……それはもしかして、殺し文句?」

「冗談抜きでどつくぞ、妹。真剣なセリフを茶化してんじゃねぇ」

「やーん♪」

 やーん♪ じゃねぇ。っていうか、いつの間に僕にそこまで懐いたんだ妹。

 僕はそんなに魅力的な兄貴じゃねーぞ?

「なに言ってるの、お兄ちゃん。高倉家にとっては血の絆(縦)は共有できる汚点なのよ。それに十七年耐えてこられただけでも……尊敬に値するって言っても過言じゃないと思うの」

「それに関しては全面的に肯定しておこう。確かにアレだ。血の絆(縦)は汚点だな」

 かくて同じ悩みを共有できたところで、真剣というかアホみたいな話はこれで終わり。

「で、今日はどうするの? 一応部屋は余ってるけど」

「お兄ちゃんの部屋で寝る」

「ん、分かった。じゃあ僕はソファで寝るから、自由にベッド使っていいよ」

「一緒に寝る」

「却下だ小学生。お化けが怖い歳でもあるまいし、誰かと一緒に寝ようなんて甘い考えはゴミ箱に捨てなさい」

「い、一緒に寝たいだけだもんっ! ……勘違いしないでよっ!? お、おばけが怖いわけじゃないからっ!」

「………………」

「な、なによその目は。コーヒーだってミルクと砂糖たっぷりなら飲めるし、ピーマンだって平気で食べれるんだからっ!」

「…………ほほう?」

 なかなか可愛いことを言ってくれるじゃないか、妹。ちょっと君に好感が持てた。

「ちなみにこの屋敷、母さん曰く『買った時はやたら安く済んだ』そうなんだけど、どういうコトだろうね?」

「…………へ、へぇ。ソーナンデスカ?」

「ついでに言うと、この屋敷って時々誰もいない厨房から呻き声とか聞こえるんだけど、なんでだろうね?」

「ふ、ふーン? ぜ、ぜんっぜん、た、大したコト、なゐですヨ」

 望ちゃんの顔が見る見るうちに引きつっていき、血の気が引いて顔色が真っ白になっていく。

 買った時に安く済んだのは、父さんの脅迫だか誤魔化しだかよく分からないような交渉術のおかげだし、食堂から変なうめき声が響いたりするのは、京子さんが面倒見てる子猫三兄妹が寝ている時に寝言を言ったりするからなのだけど。

 ちなみに、寝言を呟く子猫を見て妙ににこにこしている京子さんをうっかり見かけたのは、僕だけの秘密だ。

 まぁ、それはそれとしてウチの妹は病弱だけあってかなり取り扱いに注意が必要らしい。下手なコトを言うと倒れそうだ。

「分かったよ。そこまでお化けが怖いなら一緒に寝てあげようか」

「だ、だから違うってばっ! お化けが怖いわけじゃなくて……」

「まぁ、怖いものがあるのは当然のことだから。僕は幽霊とか妖怪とか宇宙人とか全然怖くもなんともないけどね」

「なんかさりげなく馬鹿にされたような気がするケド……じゃあ、お兄ちゃんの怖いものってなぁに?」

「女性の尖った拳」

「……へたれ」

「それ以上言ったらこの屋敷で一番広い部屋の真ん中に煎餅布団を敷いて寝かす」

「やだぁお兄様っ! 私が格好いいお兄様のことをヘタレとかそういう風に言うわけないじゃない♪」

 調子の良いことを言いながら、余程一人で寝るのが嫌なのか、望ちゃんは僕の腕にしっかりとしがみついている。

 ……やれやれ、参ったねこりゃ。

 目に浮かんだ涙とか。

 やたら細い手足だとか。

 少しばかり震えてるところとか。

 甘やかされて育ったと言えば簡単だけど、つまり甘やかした環境じゃなかったら生きていけなかったということ。

 僕はゆっくりと溜息を吐いて、望ちゃんの頭を撫でた。

「お兄ちゃん?」

「分かったよ。今日だけは一緒に寝てやる。……ただし、一つだけ条件がある」

「……条件?」

「怖いものがあるのは仕方ないけど、それはいつか絶対克服しろ」

「なんか妙に迫力があるけど、もし克服できなかったらどうなるの?」

「母さんみたいになる。分かってるとは思うけど、母さんは未だにおばさんとお祖母ちゃんが怖くて逃げ回ってるような人だから」

「分かった。絶対に克服する」

 望ちゃんは真っ直ぐに僕の目を見据える。その目はいつになく真剣だった。

 僕は見た目にはにっこりと笑う。

「じゃ、そういうことで夕飯は中華三昧ということで」

「へ?」

「幽霊はが苦手なのはともかく、ピーマンくらいはちゃんと食べれるようになっておかないとね♪」

「ちょ、ちょっと待ってお兄ちゃんっ! わ、私ピーマンだけは食べちゃいけないってお医者様から……」

「お医者様から話は聞いている。食べちゃいけないものはとっくに把握済みだ。嘘は良くないなぁ、妹。大丈夫だよ、このお屋敷のコックさんの食事は超美味しいから」

「や、だから……ちょっ、ふえええええええぇえぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 泣きそうになっている望ちゃんの体をひょいっと抱え上げて、

 僕はそろそろ夕食を食べることにした。



 ちなみに望ちゃんは夕飯を食べた後に電池が切れたように眠ってしまったので、遊んだりからかったりすることはできなかった。ちょっと残念だったけれど、まぁ規則正しい生活を心がけなきゃいけない半病人なのだから、それは仕方ないだろう。

 そして、翌日。僕らは戦場に立っていた。

「はい、そういうことで今回は猫や犬を見て癒されようとそういう企画なわけだ。分かってるかな、みんな。僕はこれ以上ないくらいに分かりまくっているZEッ!!」

 開会十分前に会場に到着した僕らは、会場に設置された椅子に腰掛けてコンビニで買ったサンドイッチなどを頬張りながら今日のプランを立てていた。

 参加者は、妹こと望ちゃん、冥さん、美咲ちゃんとあともう一人。

 くっくっく……完璧な布陣だ。このメンバーならば知り合いに会っても『僕が来たがったわけじゃない。頼まれて仕方なく来たんだ』ということを全面的にアピールできるだろう。

「そういうわけで、みんな準備はいいかなっ!?」

「はーい、いいよお兄ちゃんっ! あと、はっちゃけ過ぎでちょっとうざいですっ!」

「はっはっは、妹。普段の僕なら怪談百選程度で許してやるところだが、今日は特上に機嫌がいい。よって今の暴言に対しては不問にしてやろーかと思うんだケド、どう思う?」

「ワー、オニイチャンッテ、チョーヤサシーイッ!!」

 震えながら空ろな瞳で社交辞令にもなっていないことを言う妹は、なんだかプルプル震えていた。

「はい、坊ちゃん」

「なんだい、冥さん?」

「今日の閉館は何時なのでしょうか?」

「うん、実にいい質問だ。今日の閉館は午後の五時。今が午前の十時だから、僕らはなんと七時間も猫や犬を見て心を癒すことができるんだよっ!」

「まぁ、それは実に素晴らしいですねっ!」

 冥さんもいつになくかなりのハイテンションだった。白いセーターに動きやすそうなズボンというえらく色気のない服装ではあったけれど、まぁそれはそれとしてスタイルのいい彼女にとっては色気のない服装ってのはかって素材を生かしてしまうことになってしまうことは、僕とあと一人くらいが知っていればいいことだと思う。

 と、ここでようやくその一人が手を上げる。

「……あのー、坊ちゃん」

 カーディガンにロングスカートというわりとおとなしめな服装の舞さんは、なんだかちょっと顔を赤らめて手を上げた。

「なんだい、舞さん」

「もしかして、今日はずっとこのノリで行くんでしょうか? 私としてはこういう超絶的なハイテンションはちょっとついていけそうにないので、どこかでギアを下げてもらえるとありがたいかと」

「じゃーもうキャラ的に要らないからさっさと帰れよ」

「予想以上にひどすぎるっ!?」

 僕の冷徹極まりない視線と言葉に恐れをなしたのか、舞さんはさすがにショックを受けたようだった。

「あ、あの、いくら私が普段から坊ちゃんを嫌いって公言してるからってそれはないと思うんですよ。ホラ、なんていうか女の子ってデリケートな生き物ですし?」

「別に嫌いなら嫌いでいいし、デリケートならそのへんは考慮するケドさ、冥さんが行く所行く所について行こうとするのは正直ウゼェと思うんだ、僕は」

「ち、違いますよっ! 今日は偶然お休みで、冥ちゃんに誘われたからここまでやって来たわけで、いつもみたいな過剰反応じゃありませんよっ!!」

「そうなの? 冥さん」

「違います。舞ちゃんが無理矢理くっついてきました」

「冥ちゃんっ!?」

 髪の毛を逆立ててショックを受ける舞さん。あまりのショックにちょっと泣きそうになっているのが実に可愛らしいと思うのは……まぁ、僕の気のせいというコトにしておこう。

「ほ、本当に今日ばっかりは違うんですよっ! 私だって今日は一人でショッピングとか行きたかったのに冥ちゃんがどうしても来てくれって……」

「舞さん、もしもそれが事実だとしても普段の挙動が挙動だから説得力はないと思うの」

「小学生にまでたしなめられたっ!?」

 あまりのショックにへたり込む舞さん。ついでに、その舞さんをたしなめた小学生こと美咲ちゃんは、ゆっくりと溜息を吐いて僕を見つめていた。

「ねぇ、パパ。ちょっと改めて思ったんだけど、聞いてくれる?」

「なに?」

「パパって、やっぱりもてるんじゃない?」

「それは絶対に違うから」

 きっぱりと否定ながら、僕はちらりと時計を見る。

 どうやら、そうこうしているうちに既に開会時間になりつつあるようだった。



 望ちゃんの世話は美咲ちゃんに任せることにして、僕らはゆっくりとわんこやらにゃんこを眺めて幸せな気分になることにした。

 というか、元々が飽きっぽい小学生と純粋に猫好きな我々とでは猫を愛でる時間が段違いなのである。小学生に付き合っていたら猫の可愛らしさとか犬のいじらしさとかを満喫する前に会場を全て回ってしまいかねない勢いなので、僕らは僕らでマイペースに回ることにしたのだ。

 ちなみに、美咲ちゃんが望ちゃんをなんとなく嫌っている件に関しては以下のようなやりとりによってあっさりと解決した。

『で、パパ? 私にこの赤いのの世話をしろって言うの?』(美咲ちゃん)

『嫌なのかい? 望お姉ちゃん』(僕)

『……お姉ちゃん?』(美咲ちゃん)

『望ちゃんはどう? このお姉ちゃんに案内されるのは嫌かな?』(僕)

『んーん。美咲お姉ちゃんはわりといい人そうだから、別に嫌じゃないよ』(望ちゃん)

『だ、そうだ。頼まれてくれるかな? 望お姉ちゃん』(僕)

『……ん、まぁそこまで言われちゃ仕方がないかなァ』(美咲ちゃん)

 頬を掻きながらくすぐったそうに笑う美咲ちゃんだったが、あれは絶対に嬉しかったに違いない。

 一人っ子専用奥義、『兄妹じゃないけど年下の子にお兄ちゃんまたはお姉ちゃんと呼ばれると、自分がなんだかものすごく頼られている気分になる』。まぁ、つまり兄弟姉妹が欲しかったという感情の代替行為のようなものなのだけれど、僕にも身に覚えがあるのでよーく分かる。

 兄貴や弟は別に要らなかったケド、苦しみを肩代わりしてくれる姉か、可愛い妹が昔は欲しかった。

 ……まぁ、昔の話だけど。

 と、僕が昔の思い出に腰まで浸かっていると、不意に幸せそうな声が響いた。

(ペルシャ)さんは可愛いですねぇ」

「うん、(ペルシャ)さんはもこもこして可愛いね」

 ほんわかする冥さんに相槌を打って、僕らは十分ほど凝視し続けた猫に別れを告げる。

 そして、三歩歩いて別のケージの中で疲れたように丸まって寝ている次の猫を見つめる。

「猫さんは大変ですねぇ」

「今日は人がたくさんいるからね」

 猫が不意にこちらを振り向いて「にあぁ」と鳴いた。

 そう思うんだったらトイレの時くらいは放って置いてくれと聞こえたような気がした。

(ダルメシアン)さんは可愛いですねぇ」

「うん、(ダルメシアン)さんは例外なく可愛いね」

 ほんわかする冥さんに相槌を打って、僕らは十分ほど凝視し続けた猫に別れを告げる。

 そして、三歩歩いて別のケージの中で丸まっている次の猫を見つめる。

 もらってくださいと書かれた不細工な三毛猫は、子猫ながらもふてぶてしく僕らを睨みつけていた。

「不敵な目つきですねぇ」

「そーだねぇ。猫らしくふてぶてしいねぇ」

「可愛いですねぇ」

「そうだねぇ」

「おりゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 響く裂帛、轟く気迫、普段は絶対に見せないような鋭い蹴りが僕の頭に炸裂した。

 ぐらりと一瞬世界が歪むが、僕は自分の足で踏み止まる。もしもこの蹴りを出したのがコッコさんか美里さんなら間違いなく倒れていただろう。

 頭を振りながら、僕は蹴りを放った人物に思い切り怒鳴りつけた。

「なにしやがんだ、この阿呆姉っ! 人の至福の時間を邪魔するんだったら本気でしばくぞっ!!」

「クソうるさいですばか坊ちゃんっ! 坊ちゃんに私の気持ちなんてちくしょう羨ましいし冥ちゃんはともかく坊ちゃんまでうっかり可愛いとか思ったことなんて絶対に認めませんよっ!」

「本音がだだ漏れてんじゃねーか! テメェ本当にいい加減にしろよっ! こっちは昨日からここに来るまで一睡もしてねーんだよっ! 楽しみにしてたんだよっ!」

「小学生ですか、アンタはっ!!」

「姉さん」

「なぁに? 冥ちゃん」

「黙れ」

「冥ちゃんがぐれたっ!?」

 ものすげぇ剣呑な目つきで睨みつけられて、舞さんは今にも泣きそうだった。

 そんな小動物のような姉を虫けらを見るような冷たい目で見つめながら、冥さんは溜息を吐く。

「お姉ちゃん。なんかもうキャラ的に要らないから、さっさと帰るなり荷造りして遠くに引っ越すなり、二度と私や坊ちゃんに近づかないなりしてくれませんか? でないとストーカー規正法違反で訴えます」

「……うう、ツッコミどころが多すぎてどれから突っ込んでいいのかよく分からないけど、姉をストーカー扱いして訴えるのは良くないと思うし、いきなり敬語になって他人行儀になるのもかなり寂しいと思うし、『どっか行ってくれねぇかなぁ』っていうのが如実に態度に現れてるし、さりげなくキャラ的に要らないっていうのもどうかと思うんだケド」

 ツッコミどころ全部にきっちりツッコミを入れてくれる、律儀な姉だった。

 最近は、ツッコミにおいて舞さんの右に出るのは僕を含めて誰もいねぇんじゃないだろうかと思う今日この頃だったりするのだが、当然のごとく妹さんはそんなコトは一切気にしないわけで。

「舞ちゃん。じゃあ、一つだけお願いを聞いてくれる?」

「な、なにかな?」

「二階に爬虫類ふれあいコーナーがあるから、私たちが全部見終わるまでそこで待っててね♪」

「……いや、鳥類までは触れるけど、変温動物はちょっと」

「だって、姉さん邪魔だから」

「……でも、えっと」

「姉さんは邪魔なの」

「……だから、その」

「邪魔」

「………………」

 舞さんはとうとうなにも言えなくなり、がっくりと肩を落として、犬と猫のおまけのように集められた爬虫類やら両生類が満載の二階に向かって歩いて行った。

 見ていてかわいそうな上に背中がすすけて見えた。哀れが行き過ぎて涙も出てこない。

「あの……冥さん。いくらなんでもかわいそうじゃない?」

「でも、『ばかしらが観察日記』には『調子こいてる子はいじめて伸ばそう』って書いてありました」

「……その観察日記を書いてる人は、さぞかし奇特な精神構造の持ち主なんだろうね」

 そういうことを言うとなんだか背筋に寒気が走るのだけれど、それは気のせいだと割り切っておく。

 それはそれとして、僕は少し考えて口を開いた。

「まぁ……なんつーか、舞さんもきっと寂しいんだと思うよ? なんか最近冥さんは舞さんに冷たくしてるみたいだし。……ちょっとウゼェのは否定しないケド」

「坊ちゃん」

「ん?」

「舞ちゃんはいじめられてる時が一番可愛いのです」

「………………」

 確信犯だった。冥さんは意図的かつ悪質ないじめっ子だった。

 なにより、そんな冥さんよりもちょっと納得しそうになってしまった自分が一番恐ろしい。

「えっと……つまり、冥さんは舞さんのことが大好きなんだね?」

「はい。そういうことを言うと舞い上がって天井知らずにデレデレしてくるんで、絶対に言わないようにしていますけど、基本的に舞ちゃんのことは好きですよ」

「……なかなか複雑だね」

「複雑ですね」

 冥さんはそう言いながらも、ふてぶてしく居座る三毛猫から目が離せないようだった。

 まぁ……なんつうか、この子もこの子で可愛いよなとか思ってしまうのは男の性なわけで。

 と、不意に冥さんはこちらを振り向いて、口を開いた。

「坊ちゃんは、舞ちゃんのことどう思ってますか?」

「非常に面白いと思ってる。普段はそつがなくて優秀なのに、冥さんのことになると急に歯車が狂ったかのように空回りしだすところとか、特に」

「坊ちゃんも私と似たようなものですね」

「………………う」

 否定できないのが悲しいところだった。

「そういうわけなので、フォローの方はよろしくお願いします」

「了解。……じゃ、すぐに慰めに行ったら逆効果だから、とりあえず一時間くらい放置でいいのかな? 僕もまだ猫とか犬とか見てたいし」

「はい、そうしてください」

 冥さんは口の端をほんの少しだけ緩めて、柔らかく微笑んだ。

 僕も口元を少し緩めて、穏やかに笑った。



 三毛猫は顔を上げて、にゃーんと鳴いた。



 ………………回線が一時だけ回復しました。

 ……最後の道に繋がるように。貴女の力を貸してください。

 CALL DELETE CALL DELETE ………………。


 Q.条件がある。あのぼんぼんの本当の気持ちが知りたい。

 A.彼は彼女のことを『反面教師』のように思っています。

 Q.根拠は?

 A.1、彼が彼女に対する好き嫌いについて言及することを徹底的に避けていること。2、彼女が彼が恋愛対象とする、つまり好みの女性のタイプからは大きく外れている人だということ。3、彼が本音を語れる人たち、すなわち有坂友樹、空倉陸、黒霧舞、死之森あくむ、獅子馬麻衣たちとの会話から推測するに、彼は彼女のことを嫌いではないし好きだし尊敬もしているけれどその生活態度には大いに問題有りと思っていること。……以上の根拠より、上記の回答を提出します。

 Q.よく分かった。それで、キミはあたしになにをさせるつもりかな?

 A.貴女の心に決着を。それ以上は望みません。


 ……了解したよ、親友。

 そういうことなら、あたしの思いを伝えに行こう。いつも通りに思い知らせよう。

 いつ如何なる時もそうであるように、幻想を排除して、現実を見せてやろう。

 正義の味方とか援軍が、都合良く助けに来ると思ったら大間違いだ。



 隊長と呼ばれる彼女は、今日は独りきりだった。

 いつもならお節介な仮面男が適当なことをしゃべりながらケラケラ笑って、生真面目な彼女はそれに真面目に受け答えをするというわけのわからない図式が成り立っているのだが、今日は独りだった。

 独りきりで、隊長は『彼』に銃口を向けていた。

「………………」

 スナイパーライフルのスコープを覗き、引き金に指をかけ、それでも彼女は引き金を引けない。

 殺してらっしゃいという命令に彼女は逆らうことができない。少なくとも自分の中では、あの柔らかな髪の乙女の命令に逆らうことは害悪である。

 生まれた時から今まで十年。彼女はそれが普通だと思い込んでいたし、自分の主のためならなんでもするつもりだった。普通なら生まれなかった命。廃棄されていた人間。人間じゃない化け物を生かしてくれたのは、他でもないあの少女だったからだ。


 やめとけよ。多分、隊長にそういうのは向いてない。


 死神と呼ばれる彼の言葉を思い出す。

 彼女は頭を振って思考を切り替える。彼の言葉が心の底から本当に自分のことを思いやっているのはよく分かっていたが、それでも彼女は引き金を引かねばならない。

 それこそが彼女の全てであり正義だった。世界の正義とはかけ離れているかもしれないが、自分には恩義に報いる義務がある。そう思っていた。

 それに、彼にだけは言われたくないと隊長は思っていた。

 殺しをした後の彼の顔を見るのはとても辛くて悲しくて苦しい。

 楽しそうな彼の顔を見るのはとても楽しくて嬉しくて胸の辺りが軽くなる。

 だから……せめて、少しでも彼の負担が軽くなるように。


「けど、嫌なことを進んでやるのは絶対に間違ってると思うッスけどねぇ」


 声が響いた。

 能天気でお気楽でお調子者で、どこまで行っても悩みとは一切無縁。そんな響きの声である。

 隊長はゆっくりと振り向いて、そこに女らしくない誰かを見た。



 登場人物がやたら多いと不評を買っているこの物語において、最後の人物が登場する。

 彼女は女の子である。ただし、その辺にいる普通の女の子ではない。

 おでこ丸出しの三つ編みで、元気なことだけが取り柄と言えなくもない。

 常に機械工学者などが身につける作業着を着用し、常に鉄骨の仕込んだ安全靴を履いている。

 己を誇りもせず、蔑みもせず、あるがままにそのままに生きている。

 天真爛漫が作業着を着ているような少女で、簡単に言えば猫のような性質を持っている。

 名前も姿も性格も性別もなにもかもが嘘だったが、ただその心だけは本物である少女だった。


 彼女の名前は、刻灯由宇理(こくとうゆうり)


 彼の怨敵にして彼女の宿縁。

 この物語最後の登場人物。そういう概念を、大昔のゲームや漫画はこう形容する。

 刻灯由宇理。彼女こそがこの物語における真のボスであった。

 


 第三十六話『にゃんことわんことおばかさん』END

 第三十七話『終わりの始まりと始まりの終わり』に続く

※由宇理さんはあくまで『真のボス』であり、前回出題した問題の『ラストボス』とは考え方が根本的に異なります。あらかじめご了承ください。

※だから、解けるかこんなもんとかそういうツッコミはなしの方向でお願いします(笑)


はい、そういうわけで番外編含むといつの間にやら次で五十話になってしまいます、僕の家族のコッコさんつヴぁいっ! ここまで書けたのも読者様の応援の賜物です、本当にありがとうございますっ!


と、いうわけで命題2オープン。正確には『《命題2群》オープン』。今回は難易度はクソみたいに楽勝ですが、千差万別の解答が出揃うこと間違いなしだと思います(笑)


……まァ、笑って解いていられるのも最初のうちだけだと思いますが(ニヤリ)

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