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未来予測1 僕の彼女の京子さん

ストライク・ボーナス。

解答が出なかったらこの話は存在せず、読者様はこの話を見ずになにが起こったのか予測しなきゃならないという最悪の事態になるところでした。

デス・ペナルティとはそういう意味です(ニヤリ)

 これは、別の物語である。



 いつも通りに目を覚ます。3DKのアパートで、僕はゆっくり目を開けた。

 なんのことはなく、いつも通りの朝。ちらりと時計を見ると八時を回っていて、大学がやべぇなとちょっと思ったりもしたけれど、よく考えなくても今日は日曜日。

「……って、もっとやべぇっつうのっ!!」

 慌てて起きる。毎週土、日曜日は、僕としては絶対に外せない用事があるからだ。

 慌てて洗面所に向かって顔を洗う。それからタンスを開けて適当に服をチョイス。髪をワックスで少しばかり固める。

 そこで、ようやく気づいた。

「……あの、なにしてんの?」

「見れば分かるだろ。飯作ってんの」

 台所で軽快に包丁を振るうのは、僕の彼女さんというか婚約者というか、将来の結婚相手だった。

 うっかりすると中学生、下手をすると小学生に見間違えられかねない彼女は、スタイル抜群の大人である。単に身長が低いだけなのだけれど、それを指摘するとフルパワーで殴られちゃうので、僕としては控えたいところだ。

「三時間ほど遅刻だ。まさか、あたしよりもゲームを優先してやがるとは想定の範囲外だぞ?」

「えーっと……」

 海釣りに出かける予定をすっぽかしてしまった。

 やべぇ、気まずい。昨日は五時まで徹夜すればいいやとか思ってサウンドノベルとかやったのが大間違いでした。まさか恐怖が最絶頂になった時に睡魔に負けてしまうとは思わなかった。恐るべし睡魔。

 そして、なにより一番恐ろしいのは、台所でご飯を作っている彼女さんだったりする。

「京子さん」

「なに?」

「怒ってるんだとしたら、色々と償いをしなきゃいけないなーと思うんですが、どうして欲しいですか?」

「や、別に」

 痛い痛い痛い痛い。心が痛い。

 別にとか言われたよ。それはそれで傷つくよぅ。

 うう……思った以上にへこむ。

「つーか、別に怒ってないし」

「へ?」

「寝過ごしたのはまぁちょっと怒るけど、海釣りとか磯釣りとかってのは、一人でもそこそこ楽しめるし」

「それはそれですごく寂しいと思う今日この頃」

「なら、時間は守りなさい。あと、魚の煮付け作ったから、朝食にしようか」

「……りょーかいしました」

 頭が上がりません。ホント……僕には勿体無いくらいの、彼女さんだ。

 なんとなく、ちょっと彼女の髪に手を伸ばしてみる。さらさらしていて、良い手触りだった。

「なに?」

「ん、ごめんなさい」

「別にいいってば。……まぁ、確かにちょっとは怒ったけどね」

「うーん……」

 そりゃ怒るよなぁ。遅刻が三時間だもんなぁ。僕ならその場で暴れかねないくらいに怒る。

 うーん……どうしよう。こういう時に経験の差が出る。どうしたらいいのか、よく分からない。

 怒ってないとは言い張ってるけど、こういう時の京子さんは非常に怒っている。

 この人、感情を出すのが下手なだけだったりする。屋敷にいる時は姉御肌の優しい人だと思っていたけれど、なんのことはない。単に、人と距離を取るのが上手かっただけのことだ。

 逆を返すと恋愛恐怖症。

 もっと逆を返すと、単純に意地っ張りなだけだったりする。

「……京子さん」

「ん?」

「ぎゅーがいいですか? ちゅーがいいですか?」

「愛してるって言え」

「好きです。愛してます。好きじゃないところはありません。世界で一番大好きです」

「………………うん」

 冗談のつもりだったのに本気で返されたので、照れて赤くなって黙ってしまった。

 かーわーいーいーっ!!

「じゃ、そういうことで心の底から打ち震える魂の補充も完了したところで、朝ご飯にしましょうか」

「……なんか腑に落ちないんだけどよ」

「じゃ、愛の証明として、ぎゅーしましょうか?」

「……や、それはいいや」

 顔を赤らめながら、京子さんは可愛いことをポツリと言った。

「なんか異様に安心するし……癖になりそうだから、いい」

「……………」

 その場で力いっぱい抱きしめたくなる衝動に駆られたが、僕はなんとか我慢した。

 ラブコメしてんなぁと、なんとなく思わなくもなかった。



 あの屋敷が売却されてから二年。元々管理人でしかなかった僕は、そのまま普通に独り暮らしを始めた。

 みんなそれぞれ散り散りになって、会う機会も少なくなったけど、京子さんとだけはこうしてちょくちょく会っている。

 ……っていうか、屋敷にいた頃から付き合ってたし。

 京子さんとは家が離れている。それというのも、屋敷で借りていた寮を京子さんはそのまま使っているためだ。一緒に暮らさないとも何回か言ったのだけれど、『なんか照れるからあと二年待て』とのこと。

 可愛いなぁ……自分の彼女さんながら、まじで可愛い。

 定期的にご飯作ってくれるふりをして、さりげなく月末のやばい時期を凌いでいるのも見逃しちゃうくらいにっ!!

「そういうわけで、お前に惚気話をしに来たわけだ♪」

「あっはっは、いい度胸だな親友。ぶち殺すぞ?」

 かつて委員長がバイトをしていた駅前の喫茶店。友樹に呼び出された僕は、のこのこと出かけたのだった。

 っていうか、京子さんが僕の布団で寝ちゃってるから一人で起きてても面白くないし。

「しかし『ぶち殺す』とか言っていいのかな、友樹。お前が当てにしてる社会倫理のレポートは僕の手中にあるんだぞ?」

「くっ……野郎。大学入ってから妙に知恵をつけやがって」

 歯噛みしながら、友樹は僕からレポートを受け取って、ページをめくる。

「……おいおい、こんなもんよくわかったな。お前はいつからこんなに頭が良くなったんだ?」

「いや、頭の出来は高校から変わってないよ。そのレポートも本の内容丸写しだからね」

「………………」

「実は僕も社会倫理はかなり諦め気味でね、もう面倒だから本を丸写ししたら思ったよりも高評価をもらってしまったってわけだ。……いやぁ、なせばなるもんだね」

「……お前の人生って、大体そんな感じだよな」

 意外と真面目な友人は、苦笑しながらレポートを鞄の中にしまった。

「……それで、どうなんだ?」

「ん?」

「いや、京子とはうまくやってんのか?」

「うまくやってるかどうかの自信はあんまりないけど……まぁ、そこそこ仲良くやってるつもりだけど」

「そーか。まぁ、仲良くやってるならいいけど……いやいや、お前ってばスタイルのいい年上好みだと思い込んでたんだけど、まさかロリコンだとは思ってなかったんでな」

「あっはっは、……いや、冗談抜きで殺してくれようか、親友。京子さんはロリじゃねぇ。童顔低身長なだけだ」

「ロリ巨乳じゃん」

「あっはっは、ウェイトレスさーん、ジャンボパフェ二つ追加。一つはこの馬鹿にぶつけるんで」

「ウェイトレスさん、俺にはチャーシュー麺とラーメンの麺抜きチャーシュー抜き味付け卵抜きほうれん草抜きで。アホみたいに熱いスープを脳天にかけられないと、自分がロリコンだという自覚芽生えない男がいるんで」

「馬鹿でしょあんたらっ!!」

 ウェイトレスさんこと、山田恵子……いや、委員長はトレイを片手に青筋浮かべていた。

「お客様ァ……いい加減にこの場所を溜まり場にするのはやめてもらえませんかねェ? 正直やりづらいんで」

「友樹、和服も着てないくせにお客相手にこの物言いだよ。どう思う?」

「うん、そうだな。少々礼節がなってないかもしれないな。メイド服の着用を義務化すべきだろう」

「コーヒー一杯で五時間も粘られちゃこっちも商売にならないって言ってるのよ、このアホコンビッ!!」

 トレイでスパコーンと頭をはたかれる僕と友樹。

 うん、委員長は相変わらずだ。

 僕と友樹は高校時代の頃のように、にやりと邪悪に笑った。

「ところで委員長。いつ挙式だっけ?」

「いぃっ!?」

「ここのキッチンチーフと結婚するんだって? いやぁ、実にめでたいよな」

「引き出物はなにが欲しい? 僕としては将来の役に立つ、キングサイズのベッドなんてものをお節介に送りつけようと思ってるんだけど、友樹はどうする?」

「そうだなぁ……ああ、風呂場でも改装しようか。バスタブをハートの形にしたりして」

「なるほど、やるね友樹。ならばベッドもハートの形にしなくてはならないだろうね」

「ちょ……なんであんたらがそれを知ってるのよっ!?」

 顔が真っ赤だった。実に初々しくて可愛らしい。

 僕と友樹は顔を見合わせて、窓の外を見ながら同時に言った。

『強いて言うなら……そう、神様が教えてくれたんだよ。ハッキングとかで得た情報を』

「ハッキングで情報入手してる時点でどう考えても神様じゃないでしょっ!?」

 実に懐かしく、的確なツッコミだった。委員長を嫁にもらう人が実に羨ましい。

 ただ、今の僕には京子さんがいるんで、羨ましいとは思いつつも妬ましいとは思わない。うん、愛の力は偉大だ。

「まぁ、そういうことは置いておくとして。……結婚おめでとう、委員長」

「そうだな。結婚ってのは人生の一大事だ。夫婦仲良く暖かい家庭を築くことを祈ってる」

「……あんたら」

 委員長は式場でもないのに、ちょっと泣きそうだった。

 ……オチの前なのにね♪

「そういうことだから、僕がもしも万が一京子さんにふられて、十六年後に独身だったら委員長の娘は僕がもらおう」

「ハ、甘いな親友。それは俺のセリフだぜ。いや、むしろ息子が生まれてたら嫁に来てもらう」

「なんだと? しかし甘いな、親友。もしも息子だったらどうするつもりだ? ちなみに、僕には妹の婿という最終手段が」

「感動くらい素直にさせなさいよっ!! 心底馬鹿コンビっ!!」

 委員長はその体に似合わない怪力で、テーブルを持ち上げて僕らに向かってぶん投げた。


 

 久しぶりに高校に戻った時のような愉快な気分で、僕は家に戻ってきた。

 もう日は沈んでいたから、そろそろ夕食時。今日はなにを食べようかと思案していると、規則正しい包丁のリズムが台所の方から聞こえてきた。

 ちらりと覗くと、クパクパと美味しそうに煮立った鍋の中に、肉が投入されるところだった。

「すき焼きですか?」

「正確にはすき煮だね。焼いてはいないから」

「ちなみに、その牛肉は僕が特売日に買ってきたものなんですが」

「ケチケチすんなよ、坊ちゃん。あの親ばかにけっこーもらってんだろうが?」

「まぁ……そうなんですけどね」

 坊ちゃん。僕が屋敷にいた頃に、そんな風に呼ばれていた。

 ……うん、なんていうか、アレだね。

 ほんの少しだけ、痛い。

「……まだ気にしてんのか?」

「気にしてます。たぶん、一生後悔すると思います」

「損をした人間なんて誰もいない。冥も舞も陸も高校生になって、虎子は大学生、で、あたしはアンタの側にいる」

 その通りだ。損をした人間なんていない。みんな笑いながら、生きている。

 屋敷がなくなったってなにも変わらない。僕の力不足で屋敷はなくなっちゃったけど、それでも会おうと思えばいつでも会えるし、誰がいなくなったわけでもない。


 ……本当に、そうだろうか?


 なくしたものが大き過ぎたような気がする。

 思い出せないものが多すぎるような気がする。

 今は幸せなのに、こんなに幸せなのに、心のどこかが軋みを上げている。

「……■■」

 不意に、名前を呼ばれて、僕は顔を上げた。

 そこには、不安そうにこちらを見つめる、エプロン姿の京子さんがいた。

「いっつもそうだよな、お前は。あたしが見てないところで、なーんか細々と悩んでるんだ」

「……そうですね」

「嫌だからな、絶対に」

「え?」

「あたしは、アンタと結婚して子供も五人くらい産んで、長々と幸せに生きるんだ。悩むのはアンタの勝手だけど、あたしの幸せを邪魔するんなら容赦はしない。……後悔なんて許さないくらいに、幸せにしてやる」

 そう言って、京子さんは背中を向けた。照れているのかご機嫌斜めなのかは、ちょっと微妙なところだった。

 うーん……さすがは京子さん。

 こっちが青臭い後悔をするのさえ認めてくれないとは、なんていう容赦のなさだろう。

 まぁ、そういう人だから惚れたんだけど。

「京子さん」

「ん?」

「不謹慎なことをしていいですか?」

「……あとにしなさい」

 京子さんはそう言うと、顔を真っ赤にしながら鍋に日本酒を入れていた。

 うん、超可愛い。

 僕は大満足しながら口元を緩めると、京子さん手製のすき焼きができるまで居間で待つことにした。



 不謹慎なことといっても別に何をするわけでもない。というか、なにもしない。

 これにはまぁ色々と事情があったりする。結婚までは清い交際などという時代錯誤のしょっぱいことは言うつもりすらない。……が、まぁ事情は事情。京子さんの心の準備とか、そういうものだったりしても、事情は事情だ。

 待つのには慣れているし、こうやってダラダラと二人で遊ぶのだって悪くはない。

 恋人らしいことなんざデートくらいしかしたことないケド、これはこれでまぁ悪くはない。むしろ楽しい。

「じゃ、ちょっとコンビニ行ってきますね」

「ん、杏仁豆腐でよろしく」

「はいはい」

 笑顔のまま手を振って、僕は外に出た。

 そのまま、少し歩いて駅前に向かう。

 駅前からタクシーに乗って、山の上の公園に向かう。

 山の上の公園でタクシーから降りて、僕はゆっくりと歩みを進めた。

 足を止める。久しぶりに見る顔に、僕はちょっとだけ愉快な気分になった。

「こんばんわ、美里さん」

「お久しぶりです、坊ちゃん」

 そこには、軽装鎧(ライト・アーマー)を身にまとった、美里さんが立っていた。

 腰には西洋の騎士剣。もちろん、伊達や酔狂ではなく全て本物。いや……むしろ、本物以上か。

「何の用ですか? 僕はこれからコンビニに行って、京子さんのために杏仁豆腐を買わなきゃいけないんですけど」

「……美咲が、いなくなりました。坊ちゃんなら知っていると……織が言っていました」

「あぁ、なんだ。そのことですか」

 僕は笑う。当然のように笑って、当然のように言い放った。


「美咲ちゃんなら、章吾さんをかばって死んじゃいましたけど?」


 美里さんから表情が消える。

「………………え?」

「美咲ちゃんは、章吾さんをかばって死んじゃいました。そりゃそうですよ、なんの準備も訓練もなくいきなり異世界に行って、なんとかしようって方が間違いだったんです。我流で鍛えてはいたみたいですけど、才能もあったみたいですけど、章吾さんくらい突飛な人じゃないと、あの世界じゃどうにもなりませんって。ましてや丸腰じゃ、ね」

 僕は笑った。なるべく邪悪に見えるように。

「単純なコトですよ。……貴女は自分のことだけでなにも見えていなかった。それだけだ」

「……やっぱり、貴方が」

「できるだけの手助けはしたんですけどね。……やっぱり、無駄に終わっちゃいましたよ」

「貴方が……貴方があの子を、あっちの世界に放り出したんですかっ!!」

「ええ、本人がそう望みましたから」

「ッあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 美里さんは剣を抜いた。がむしゃらに、全力で、剣を抜き放った。

 動きは残像しか見えない。いいや、そもそも視認できる領域に彼女はいない。

 だが、僕はそれでも笑った。


「甘えんなよ、敗北者。甘やかすのは伴侶だけにしておけよ」


 絶対不可避の一刀を、僕は一歩後退するだけで、かわした。

「な………………」

「知ってる、その剣は『運命干渉剣・サレナ』。断ち切った相手の運命を上書きする能力」

 僕が知っている中で最高に凶悪な兵器。一筋でも傷を入れれば『いなかったこと』にすらできる、運命上書きの剣。

 卑怯極まりない武装だ。戦いという概念を原初から突き崩す、そういう剣。

 それでも、当たらなければ意味はない。

「美里さん、貴女はやりすぎた。剣の力に任せて運命を変えてしまった。……ああ、覚えていないがなんとなく分かる。僕の運命を上書きしたその剣のことを、なんとなくだが覚えているさっ!!」

 叫びながら反撃に出る。

 中空に手を突っ込み、今の状況に最適な武器を引きずり出すっ!

 次の瞬間に僕の手に握られていたのは、工具用にしか見えないハンマーだった。

「覚えておけ、敗北者。流れを軽んずれば、それ相応の報いを受けるもんだってことをなっ!!」

 速度差は明確。しかし……戦いにおいての大前提。どんな熟練者だろうが、絶対に従わなければならない掟が存在する。

 攻撃した直後は隙だらけになる。どんな人間だろうとも。

 振り下ろされた剣に、ハンマーを叩きつける。

 パキン、と音を立てて、あっさりと剣は折れた。

「………………あぁ」

 美里さんは膝を突いた。まだ健在だろう五体で僕を殺すこともできるはずなのに。

 敗北を認めて、膝を突いた。

 僕はゆっくりと息を吐く。そして、きっぱりと言った。

「嘘です。美咲ちゃんは生きています」

「………………え?」

「生きていますし無事です怪我もありません。本当は死んでてもおかしくなかったそうですけど、章吾さんは彼女を助けるためにある女の子に治療を頼みました。……対価は章吾さんがその女の子と結婚すること」

 つまり、そういうことだ。

 章吾さんはいつも通りに美咲ちゃんを助けて、帰って来れなくなった。

「あの人らしいっちゃらしいんですけどね、まぁ馬鹿すぎるというか……なんというか」

「……じゃあ、今のは」

「ただの八つ当たりです。そんなつまらない剣で運命を変えられたことに、虫唾が走っただけのことです」

 僕はいつも通りに笑いながら、美里さんに背を向ける。

「まぁ……でも、そのつまらないもののおかげで、本当に大事なものが見つかりましたけど」

「……坊ちゃん」

「じゃあ、そういうことで。あとで美咲ちゃんの入院先、送っておきますね」

 手を振って歩き出す。

 歩きながら吐きそうになる。

 なにもかもがハッピーエンドにはならない。世界はそんなに甘くない。

 僕に出来ることだって、そんなに多くはないんだろう。なにかができるかもしれないと……そう思えるけれど。

 それでも……僕にとっては、分不相応なことだ。

 自分で言ったとおりだ。僕には大切なものがある。幸せにしなきゃいけない人がいる。

 それで十分だ。……あの人にふられたらうっかり自殺しかねないくらいに、僕はあの人を好いている。

 うわぁー……自分で言っておいてなんだけど、なんつう重い愛情だ。正直ドン引きする。

 自分で自分に心の中でツッコミを入れながら、山の上の公園から徒歩で駅前まで戻った。

 駅前のコンビニで杏仁豆腐を買って家に戻った。タクシーを使わなかったので往復で三時間かかった。

「ただいま」

「ん、お帰り」

 京子さんは布団に寝転がりながら、テレビを見て欠伸をしていた。

 彼女の隣に腰掛けて、僕もテレビを見ることにした。

「なぁ」

「はい」

「なにがあったかは、聞かない方がいい?」

「はい」

 洞察力の鋭さには、もう驚かない。僕は多分そういう顔をしている。

 ヘタレてどうしようもない、今にも泣きそうな顔をしているのに、違いない。

 京子さんはゆっくりと溜息を吐いて、僕の顔を覗き込んだ。

「あのさ、つまんないこと言っていい?」

「なんですか?」

「昔、あたしの目の前で友人が死んだ。頭が卵みたいに吹っ飛んで、即死だった。死に物狂いで逃げ出して、逃げた先でも敵が現れて、あたしは何度も反吐を吐いて思った。……あいつらがあたしの友達を殺すなら、皆殺しにしてやろうって」

「………………」

「殺した。目に映って弾がある限りは全員皆殺しにした。元人間とか関係ない。全員容赦なく例外なく一撃で撃ち殺した。最初は手が震えた。五回目からはそこそこ慣れた。数え切れないくらいになった頃にはなにも感じなくなった。そういうもんだと思って割り切って殺し続けた。……仲間でも怯えるやつがいたね。なんでそんな作業みたいに撃てるんだって」

「………………」

「血に汚れてるとか、そーゆーことはどうでもいい。こっちもあっちも死に物狂いだった。死に狂ってた。でも、あたしは例外的に殺しすぎた。守りたいがために殺しすぎたから結局戦争が終わった後は、同じ場所にいることすら無理になって、こっちに逃げてきたのさ」

「………………」

「大げさでもなんでもなく、なにかを守るってのはそういうコトだよ」

 そう言って、京子さんは再びテレビの方を向いた。

 誰よりも誰かを守りきれずに、誰よりも誰かを守った彼女は、そんなコトを言った。

 全力を尽くして誰かを守り切ったお前は、それ以上のなにを望むのかと、そんな風に聞こえた。

 口元を緩める。目を閉じる。ゆっくりと息を吸って、今の言葉を心に焼き付けた。


 悔いはない。僕は彼女を愛している。


 それだけは、なにを失っても断言できるだろう。胸を張って言えるだろう。

 口元を引き締める。目を開く。ゆっくりと息を吸い込んで、今の気持ちをそのまま口にした。

「京子さん」

「なに?」

「愛してます。世界で一番」

「………………うん」

 京子さんは顔を赤らめながらも、嬉しそうに笑った。

 とてもとても嬉しそうに……笑っていた。



 未来予測1『僕の家族の京子さん』END




 ・・・・未来予測終了。物語の結末は以下の通りです。


 世界制圧同盟:壊滅

 新木章吾:未帰還

 山口コッコ:ロスト


 以上が、現在MAGIUSが弾き出した未来予測です。

 運命改変が起きています。どこかで運命が上書きされました。

 この未来予測より、現状の問題点を抽出してください。

 報告をこれで終了します。


・前提条件

1:運命を改変したのは干渉剣を持つ橘美里である。

2:その結果として、主人公と京子がラヴラヴになった。

3:その結果として、章吾が帰還できなくなった。


・問題(難易度、上からスイート、ツッコミ待ち、ムリ)

※スイートを突破すれば、この未来予測は消失します。

1:過去をどのように上書きすれば主人公と京子がラヴラヴになってしまうのか答えよ

2:桂木香純が現状でどの程度強いのか、具体的な順位で述べよ。

3:新木章吾が己に課している誓約(ゲッシュ)を述べよ。

はい、そういうわけで考えましょう。

これからなにが起こるのか。どこを改変すれば主人公と京子さんがらぶらぶふぁいやーな状態になってしまっうのか、ちょっと考えれば分かるはず。

……ちなみに、二番目、三番目の問題は完全なる裏設定。正解者にはエスパー称号進呈。


……と、思った矢先にスイートランク(問題1)はあっさり攻略されてしまいました。

橘美里ルートが開きました。でも、掲載はちょっと待ってね。

作者の執筆速度にも限界があるからね(笑)

この話に関しては次の話の掲載と同時に消滅予定。

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