番外編『弐』 死之守あくむの人間観察
骨休めすることにしました。
番外編。またの名前を『別視点の人間の人物紹介』とも言います。
まぁ、いつもよりライトなので肩の力を抜いてお楽しみください[笑]
別の視点。別視点。異形の眼のその先に。
ボクの名前は死之守あくむ。しのもりあくむと読んでほしい。性別は女。好物はカップヌードルと、誰かが作ってくれる手料理。好きな人は透君とボクが友達だと思える人間全員。嫌いなものは猫と透君。
対人恐怖症。人と触れ合えない。そういうハンディを背負っているくせに大して努力しなくても生きていくことができる。
生活は怠惰そのもの。基本的には一日中家に引きこもり、ハッキング行為を繰り返しては、世界と他人に迷惑をかけることを生きがいとしている。たまにいたいけな少年や少女を購入しては一日中裸にして愛でた後、一生遊んで暮らせるほどのお金と家をあげて解放するという、鬼畜なんだかそうでもないんだかよく分からないことをやってみたりする。
……結局のところ、生まれてから二十四年間ほど、ボクは退屈しているのだった。
「それでも、今日はそこそこ退屈していないのだった……みたいな」
ネットの情報を見ながら、ボクは少々『おしゃれ』というものをやってみる。
ボクは基本的に見目麗しいと表現される女だ。怠惰に生きてはいるけれど、身だしなみなんかには結構気を使っている。男性のような純粋な力はないけれど、その男性を魅了する術くらいは女として心得ているのだ。
だというのに、透君にいくら媚を売ってみても「お前はなんつうか性格に反比例して見た目だけは無闇にいいからなァ。唯一の長所だ、大事にしろよ。あ、あと今日の夕飯はキムチ鍋だからさっさと着替えろ」などとひどいことを言われる。
おまけに、今日家に来るはずの友達は「まぁ、あくむさんは性格は甘ったれではっきり言って最悪だけど、見た目だけはやたらにいいですからね。あ、あと今日の夕飯はカレーですから、さっさと着替えてください」などとひどいことを言われる。
……むぅ、よく考えると二人ともほとんど同じコトを言っているのは気のせいだろうか?
「まぁいいや。それはそれとして……っと」
適当にパソコンを操作して、今日も今日とて観察記録を再生する。
これが今のボクの生きがいになりつつあるが……私は今『人間観察』に凝っている。
観察の対象は金持ちなくせに心は全然金持ちじゃない、一人の少年だ。
ボクの友達でもある、一人の少年。
「……あくむは友達のプライベートを覗き込む、不埒な女なのだった」
そんなつまらないことを呟きながら、ボクは自分で作った面白観察記録に見入っていた。
映像の中では、今日も今日とて彼はメイドのパンチを食らってのけぞっていた。
うん、実にいい角度と吹き飛び具合。この動画データを効率よく収集するために、データチェックと更新を自動で行うことが可能なデータベースまで構築してしまったほどだ。
さてさて、それじゃあ、今日もいつも通り観察記録のまとめでもしていきましょうか。
お屋敷編
ボクが最近ハマっている人間観察の主人公。彼のことを、ボクはキミとかキツネくんと呼んでいる。
彼こと通称キツネくん。屋敷の主人。
本名は忘れた。つり目と眼鏡が特徴的なそれだけの少年。厳しいだけが取り柄の、それだけではない少年。
高校二年生。わりと笑顔が綺麗で、寝顔が可愛かったりする、ごくごく普通の男の子。
人心掌握に長けているようで全く長けていない。ぶっちゃけ部下には舐められっぱなし。ごくごく一部のマニアックな女子にはもてるようだが、基本的に女の子にはもてない。悪辣かつ冷徹な人物評価を下す、ボクの友達。
ちなみに、彼に言わせると私の人物評価は5点。見た目がいいだけで性格は最悪。絶対に嫁にしたくない女の子ダントツ二位とのことだ。つくづく失礼な少年だと思うが、否定できないのも事実なのがちょっと悲しい。
普段は優しいが、怒ると『意識的に人格を切り替える』という人間業とは思えないようなことをやってくれる。怒った後はものすごく容赦がなくなる。冷徹無比。暗黒青春時代。烈火にして絶対零度。厳格にして容赦なし。
和服趣味。和服の似合う女性が大好きらしい。
過去に色々と面倒なことに巻き込まれたせいか、彼はある意味ではものすごくストイックというか、冷めている面がある。
そのことを彼自身は自覚していないが……なんというか、見ていて楽しい『歪み』ではある。
まぁ、それはいいだろう。それは彼が乗り越えなければならない壁だと思うから、ボクから言うべきことはなにもない。
……友達を失いたくないというのも、あるけれど。
……図星を指摘して怒られたくないというのも、もちろんあるけれど。
……せめて、ボクや透君のようにはなってほしくないと、願っている。
あと、尋常ならざる和服好きはなんとかした方がいいんじゃないかと、本気で思っている。
黒霧冥。双子の片割れ→恋するメイドに精神的クラスチェンジを果たした少女。
A型、16歳。ショートカットにカチューシャ。垂れ目にふっくらとした顔立ち。そこそこどころか最近ではかなりの勢いで発達してきた体躯をメイド服で包んでいる。成長期の純粋培養で天然ちゃん。なんだか昔は色々と辛いことはあったようだが、誰かに甘えるということで、それを克服することを覚えた少女。
空倉家筆頭にして殺戮者。剣士ではなく剣使い。主人である空倉舞には絶対服従……だった。
最近のヒットはレトロゲームという、本当に奇特な少女。甘いものと動物が好き。
趣味は寝ることと園芸らしい。
頭の回転は速いが、知識が足りないため色々と聞いてはいけないようなことを聞いてしまうことがある。屋敷に来た当初は舞の真似をして凌いでいたが、最近ではむしろ知らないことを隠さずに聞いて覚えようとしているらしい。……えてして、そういう人間の方が化ける可能性を持っているのは、私の気のせいだろうか?
尊敬する人は屋敷の庭の主とメイド長。将来がかなり危ぶまれる。
会ったことも話したこともないが、屋敷の中では一番ひたむきで可愛いとキツネ君は言っていた。
がんばれと思わなくもない。
黒霧舞。双子の片割れ。元主人な少女。
A型、16歳。ショートカットにカチューシャ。つり目にふっくらとした顔立ち。そこそこ以下な体躯をメイド服で包んでいる。笑顔が似合う女の子。笑顔が虚飾な女の子。重度のシスコン。妹ラブ。とりあえず妹が幸せならなんでもいいらしい。
誰かに似ている彼女。苦境を笑顔で叩き潰して誰かを守ろうとしているところとか、特に。
空倉家筆頭にして戦術士。戦況支配者。従者を従えて戦場を蹂躙する……はず、だった。
おしゃれ全般に興味がある今時の女の子。甘いものは好きだが猫はあまり好きじゃない。甘いものより実はおっさんくさいものが好み。たたみいわしとか日本酒とか風呂あがりの牛乳とか。……キャラクターに合わないので人には見せないのだが。
頭の回転は冥同様に速く、仕事も速い。……が、キツネ君曰く悪巧みは向いていないらしい。
なんでも、性根は真面目で規律に厳しく、優しくて悪ふざけが好きな女の子なんだとか。
わりと純情らしい。
いいツッコミをしてくれると絶賛していたが、それは女の子への褒め言葉としてはどうなんだろう?
がんばれと思わなくもない。
梨本京子。屋敷のコック。伝説の彼女。
O型、20歳。童顔低身長スタイル抜群というありえない生物。ある意味伝説。ぜひ愛玩したい。
なんか伝説らしい。そっちの方はネットワークの存在しない世界の話なのでよく分からないけれど、キツネ君が持ってきたビーフシチューは実に美味だった。また食べたい。むしろ招きたい。愛玩したい。罵って欲しい。
キツネ君が好きらしい。
知り合いからの聞きかじりなのだが、どうやら彼女は『自分を子供扱いせずに大人の女性として扱った男に無条件で惚れる』ことにしているらしい。……もっとも、見た目が見た目なのでその条件を満たす男は現在キツネ君を含めてたった二人しかいないとか。『惚れることにしている』というあたり、なんかもう恋とか信じてなさそうな感じ。
ある意味ハードボイルド。見込んだ男は死んでも助ける、真の『漢』。
キツネ君には話してないが、『人間』としての相性はキツネ君と最高みたいだ。
男と女の間にあるのかないのかは知らないけれど、友情を育む相手としてはこれ以上の存在はいないとか。……友情が愛情に発展するのか、あるいはそのままの状態で友達として過ごすのかは……まぁ、ボクの知ったことではないけれど。
地味なスキルを極限まで鍛え上げたが故に伝説となった彼女。
橘美里。メイド長。母親っつーか未亡人。
血液型不明。28歳。ほっそりとした体つきに反し、出るところは出て引っ込むべきところは引っ込んでいる美女。腰まで伸ばした髪の毛を、お団子にしてまとめている。温和な微笑を絶やさない菩薩のような女。特技は合気道五段。勝負事になると途端に容赦がなくなる。屋敷内で一番エプロンドレスが似合う人。
最初に話を聞いた時は、どんな人造人間かと思った。
大人な大人。話し上手の聞き上手。柔和な笑顔が特徴的で、怒らせると世界で一番怖いらしい。
話を聞いていくうちに、ああ、人造人間の話なんだと思った。
ガラスの工芸品が好きらしい。ある意味では屋敷の最高権力者。
ボクがそれはどこの世界の完璧超人なんですかと聞くと、彼はにっこりと微笑んで言った。
ああ見えて、娘さんにはめちゃめちゃ甘いみたいだけどね、と。
……どうやら、世界に完璧な人というのはあまりいないらしい。
歌姫。詳細不明。
新木章吾。執事長……だった。現在消息不明。
A型。24歳。鍛え上げられた肉体を執事服の下に隠したパーフェクトにーさん。ツンツン頭。なにをやらせてもそつなくこなし、弱点は色恋沙汰だけというある意味ではとってもバランスが悪い人。とにかく運が悪く、女運も悪い、『天は人に二物を与えず』を地で行く人。かわいそうなくらいに運が悪い。普段の態度からプライベートに至るまで、厳しすぎる態度のせいか女性の受けがめちゃめちゃ悪い。そりゃもう洒落にならないくらいに悪い。女性に嫌われる男。
眼鏡の生徒会長とか、そういうマニアックな男が好きな女性には異様なまでにもてる。
高校時代の透くんを注意する生徒会長兼風紀委員長だったらしい。仲が悪そうに見えて実は良かったとか。色々な噂はあるけれど、透くん自身が高校時代のことを語りたがらないので詳細は不明。
ボクの数少ない友達の一人でもある。……向こうはきっとそう思っていないだろうケド。
完璧なる執事。不幸な女性を見捨てることなく、その重荷全てを背負い、異世界に旅立った本物の勇者。
大善牙。
……ホント、どこでなにしてんのかなぁ、章吾くん。
竜胆虎子。ドタバタメイド。同級生。
血液型不明。17歳。要領が異様に悪い女の子。高身長で手足は細く、走ればこけるし階段から落ちるし、ちょっと急げばドアを吹き飛ばす。微笑ましいを越えて、はっきり言ってうざったい女の子。
キツネくんが大絶賛するほど笑顔が純粋で綺麗。なんでも、小学校の頃に虎子さんが数人にいじめられてたのがうざったくて、いじめっ子を陰険な手口でいじめ返したところ、ものすごい勢いで怒られて、両腕を折られたとかなんとか。
後日、ちゃんと謝ったら綺麗な笑顔で許してくれたらしい。それ以来のファンだと言っていた。
……つくづく、あのキツネくんは趣味が悪いと思う。
空倉陸。執事見習い。
A型。14歳。いつもなにかにつけてツンツンしている男の子。とりあえず納得できないことがあると反論せずにはいられない思春期の男の子。顔が可愛いらしく、屋敷の女の子にからかわれまくっているらしい。
キツネくん曰く素晴らしきツッコミ担当。つくづく、ボクの友達はなにを考えているのか分からない。
章吾くんに拳で調教されたせいか、なんだか最近は丸くなりつつある。勉強はあまりできないが、赤点を取ると双子の姉さんとメイド長に殺されそうになるから必死で勉強しているらしい。
趣味はない。趣味に没頭するくらいなら寝る。もしくは勉強する。でないと殺されるんだそうだ。
好きな女の子のタイプは……とにかく殴らなくて優しい子らしい。
実に不憫だと思う。頑張れと心の底から応援したい。
橘美咲。熱血小学生。
血液型不明。12歳。普通じゃない小学生。やたらしっかりした小学生。肩まで切り揃えた髪とどこか遠くを見つめる瞳、子供っぽさの中に闘志を秘める横顔が特徴的。見た目は可愛いけど、そう思わせない誇り高さがある。
心に炎を秘めているらしい。キツネくん曰く、とても小学生とは思えないほど達観してて大人びてるけど、やっぱり小学生なんだよね、とのこと。
章吾くんに惚れているとかなんとか。
あの人もつくづく女運がないとしか思えないけど、もしかして八年後くらいに期待なんだろーか?
……章吾くんはろりこんさんだったのですか?
日常・学園編
獅子馬麻衣
血液型不明。年齢詐称。身長は低め、見た目は完璧な女の子。女装がものすごく似合う。でも男。
普通の中学生。普通じゃない中学生。笑顔は虚構。悪党の中の悪党。
絶望踏破死屍王真衣。絶望の付き人にして異形。世界制圧同盟No42。
世界制圧同盟は透くんの敵。……つまり、私の敵だ。
キツネくんは友達と断言していた。
底抜けの善人だと思う。
桂木唯
AB型。十六歳。剣士。絵描きさん。基本的にはぼんやりした印象の子だけれど、その心には激しい炎が宿っている。
剣士としての能力は高いが、決して超一流にはなれない。
好きなものに限って極められない因果な性分の持ち主。
本名は有坂四季。かの有名な有坂家の直系少女。類稀なる才能を有する才女。天才。だからこそ孤独。
今は、可愛い誰かと一緒に暮らしながら、絵を描いて、高校にも通っている。
キツネくん曰くふられちゃったそうだ。
……たぶん向こうもそう思ってる。
清村要
A型。十六歳。シスター。現在下半身不随な彼女。
車椅子に座りながらふてぶてしく笑う彼女。
今は先輩やら恋敵やらに世話されながら、楽しくやっているとか。
章吾くんに惚れてる女の子。
幸せになってほしい。
三条院アンナ
血液型不明、年齢十七歳。キツネくんの友達。ほんわかした女の子。
三条院家の一人娘にして愛娘。愛玩動物よろしくわがまま放題育てられたとかなんとか。
キツネくん曰く、借りがたくさんあるからちゃんと返さなきゃならないらしい。
……相手は三条院みたいな大きいところなんだから、借りっぱなしでもいいような気はするケド。
なんとなく、キツネくんの苦手なタイプっぽい。
天敵と言い換えてもいいかもしれない。
有坂友樹
O型。十七歳。キツネくんの友達。白い髪にピアス、そして馬鹿みたいに整った美形。女垂らしの彼。彼は女垂らし。付き合っている女性全てと折り合いをつけている男。後腐れなし、浮気も許される。現在付き合っている女性の数はおおよそ12人。女として一つだけ意見を言わせてもらうなら、本当に死んだ方がいいかもしれない男の子。
有坂家直系にして跡継ぎ。ある意味最悪のコンビネーション。
キツネくんとコンビを組ませると冗談抜きで世界が獲れるが、キツネくん曰くあいつとは絶対に組まないとのこと。
友樹少年は女の子に優しく男の子にもそこそこ優しいが、キツネくんは特定の女の子に優しく男には厳しい。
どっちにしろ性質が悪いと思うのは、ボクの気のせいだろうか?
委員長
山田恵子さん。キツネくんが崇拝する女性の一人。
アルバイトを始めたらしい。
……あんまり注目していなかったので、感想とかも特にないなぁ。
……我ながら、かなりひどいかもしれない。
番外編(というか、人外編)
死神礼二
死神家筆頭。デスサイズを持つ男。
髑髏面の、なんか異様にかわいそうな人。飄々としているが、色々と面倒なものを背負っているみたい。
そのあたりはちょっと共感する。
柔らかな髪の乙女
黒幕。尻尾を掴ませない巧妙な女。
世界で一番わがままな女。欲しい物は意地でも手に入れる。
彼の敵。私の敵。
キツネくんがどう言うかは分からないけど。
芳邦鞠
有坂家メイド。楚で凛々しい顔立ちに黒縁眼鏡、飾り気のない典型的なメイド服と手には日傘。瞳の色は黒。髪はセミロングの黒。体型は細身で背丈があるという、女の私から見ても羨ましいくらいな大人の女性。
刃物を高速で振り回すと、キツネくんは言っていた。
そんな危険人物とはさっさと縁を切ってしまいなさいと、お説教したくなった。
どうもキツネくんも章吾くんと同じで女運が微妙にないような気がするのは……気のせいだろう、たぶん。
傍観者
白い彼の恋人。見てるだけな彼女。端正な顔立ちだが頬に傷のある少女。サングラスに茶髪、皮のジャケットにデニムのジーンズという服装で、右手だけに黒皮の手袋。独りで生きていける弱い存在。
あどけない態度で章吾くんをたぶらかした悪魔。
ボクと双肩を並べられるほどの駄目女。
斬滅姫
白い彼の恋人。関係ない彼女。名前はセツナ。どう書くかは不明。
有坂の関係者には、謎な人が多すぎる。
友達になるまでが容易じゃないけど、友達認定されると情に厚い。
極度の方向音痴。角を一つ曲がるとパニック。
対極の黄金。
存在抹消
世界になかったことにされた男。
極致の一点突破。その点でのみ世界最強を凌駕する。
灰色の元絶望。
全存在の敵。
世界最強
世界で一番強い女。
最強。特殊なものなど何一つ持たないが、あらゆる能力が最高であるが故に最強。
全存在、特に美少年と美少女の味方。
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「………………ん?」
見慣れないデータが表示されたかと思った次の瞬間に、不意に映像がブレる。
プツンと画面がブラックアウトし、ボクが二週間ほど愛用した手製製パソコンは最短の寿命で力尽きた。
いや……これは寿命じゃない、か。
「なるほどなるほど、寿命じゃないな。いやいや全くもってこれだから人間観察はやめられない。……まったくやってくれやがるじゃないか、あの女」
うんともすんともいわなくなったパソコンを前に、ボクは深々と溜息を吐いた。
パソコンは趣味の領域なので、いっそのことスパコンを使えば相手を補足するのは楽勝極まる。警察庁の方々は犯罪を監視するために街中に隠しカメラを設置して常時見張っているという税金の無駄遣いをしてくださっているのだから、それに便乗するのも良し。……どのみち、このボクから逃げることなんて、絶対に不可能だ。
ネットと言わず、電気が通っている場所なら、どんな場所だって探索し捕捉し追い詰めてやる。
友達に怒られないように、叩き潰してやろうか。
「まぁ、青春時代のボクじゃあるまいし、そんなコトはしませんけどね」
既に動画データはスパコンの方にバックアップ済み。ネットで調べたおしゃれの方法は印刷済み。なんら支障はない。
インターフォンが鳴る。ボクはちょっと口元を緩めて、ゆっくりと立ち上がる。
向かうのは普段はあまり向かうことはない玄関。非常に高級な造りのドアはボクにはちょっと重いため、自動ドアにしてある。ぽちっとボタンを押して、ボクの友達を迎え入れた。
「じゃんっ! そういうわけで、今日はキミが好きな和服……を?」
そこにいたのは、ボクの友達ではなかった。
皮肉げな瞳に、いつも緩んでいる口許。黙っていればハンサムと言える顔立ちなのだが、人を食った態度のせいでそうとは感じられない。灰色のロングコートの下はYシャツにスーツのズボンという訳の分からないいでたちで、その二つともよれよれである。唯一、ロングコートだけはパリっとしていた。
彼は……相川透は、心底不機嫌そうに、ボクのことを見つめている。
「……元気そーだな、あくむ」
「や、やぁ……その、久しぶりというか、お帰りというか」
「誰がこんなゴミ溜めみたいなところに帰るか、ぼけ。ちったぁ掃除しろ」
ぺしっと頭を叩かれる。それなりに痛い。
透くんはまるで敵のようにボクを見つめると、嫌そうに深々と溜息を吐いた。
「……ったく、あの坊主から連絡を受けてみればこれかよ。めんどくせぇ」
「連絡って?」
「知るか、馬鹿。勝手に想像するなり電話するなりしろよ。ついでに言わせてもらうと、その着物の着こなしだとあの坊主は烈火のごとく怒るぞ。ぶち殺すぞくらいは軽く言われる」
「……これ、そんなに駄目かな? 男の子が喜ぶようにちょっと着崩してみたんだけど」
ちょっと胸元とかが見えたり強調される感じで、漫画なんかを参考にしながら、着てみたのだけれど。
ボクがそう言うと、透くんは呆れたように顔をしかめて、手を振った。
「やめとけ。無駄な配慮だ。男には絶対に譲れないものが一つくらいはあるもんだ。俺だって、お前が胴着とかセーラー服とか着てたら、嫌がらせのようなセクハラを慣行する。そのくらいに怒る」
「……以後気をつけるよ」
透くんの『セクハラ』という四文字は非常に恐ろしいので、ボクは気をつけることにした。
……基本的にSだからなぁ、透くんは。
まぁ、そういうところも、好きなんだけど。
「なんか言ったか?」
「……ん、ちょっと嬉しかっただけ。しばらくこっちにいられるんでしょ?」
「こっちにはいるが、ここにはいねーぞ。普通に家に帰るっつうの」
「そりゃ残念。またボクは一人寂しくここでコンピュータ様のお相手をしてなきゃいけないのか。ちょっと死にそうだね」
「死にたきゃ死ね」
「冷たいね。冷酷だと言い換えてもいい」
「俺はお前のもので、お前は俺のものなんだから、大体そんなもんだろ。俺は自分には厳しいんでね」
「相変わらず嘘吐きだねェ」
「お前こそ捻くれ者もいいところだよ」
彼はいつも通りに口元を歪めると、ボクに向かって手を差し出した。
「ほれ、帰るぞ」
「……ボクも?」
「遠慮しないで合理的に考えようぜ、あくむ。ここで一人でいるのと、家に帰って暖かい食事を食べて昼寝するのと」
「帰る」
ボクは躊躇なく手を取った。いつも通りに。
彼は笑う。いつも通りに、皮肉げに。でもちょっと嬉しそうに。
「それじゃあ……帰るぞ、あくむ」
ボク以外の誰にも聞かせないぶっきらぼうな口調とは裏腹に、彼は優しく、壊れ物を扱うように。
ボクの手を取って、笑っていた。
ボクの娯楽が終わらない限り、ボクが飽きない限り、きっと観察日記は終わらない。
意味なんてないしただの娯楽。友達にばれたら絶縁ものだけど、趣味なんだから仕方がない。
意味はないかもしれないけれど、本日最後の更新データを打ち込んで、ボクは仕事場を後にすることにした。
さて、それじゃあ……今日は家に帰ろう。
彼と一緒に家に帰ろうと、そう思って、笑った。
最終更新
山口コッコ。庭師メイド
駄目なお姉さん。お姉さんぶるお姉さん。
可愛いけど、ドメスティックバイオレンス。
そういう人なんだよねぇと、キツネ君はちょっと恥ずかしげに笑っていた。
そういう人はかなり駄目なんじゃないかなぁと、私は思った。
けれど、まぁ、ボクと透くんの関係も似たようなもので。
……ボクも、人のことは言えないらしい。
番外編『死之守あくむの人間観察』END
骨休め。インターミッション。ある人類災厄の人物紹介。もしくは、バカップルの人物紹介。
次回は風邪引きさん編。お楽しみに♪