表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

:4

ベアトリーチェは母に心配そうな目を向けた。

「けど、どうしても私達夫婦があなたを引き取る決心をしたことには納得してくれなくて。大伯母様の子供はただ一人、アレスコーニ家の当主であるビクトーリオには跡継ぎがいないから、アレスコーニ家の直系の血が途絶えることが怖かったのね、親戚筋にあたる私達を呼び寄せたわけ。フランスにいるお父様は、白菊母様のことでまだアレスコーニ家を許せないでいるから、仕事以外でこの家にくることはないと心に決めているようだけど。」

「おじい様は、アレスコーニ家にとって、跡継ぎだったの?」

「そう、それを捨てて白菊母様を選んで、フランスでかなりの苦労をされたようよ。おじい様が後を継がなかったことで大伯母様がアレスコーニ家を継ぐことになったの。そのために大伯母様は大好きな人との結婚も諦めたと聞いたわ。だから、大伯母様は我儘を通したおじい様を許せなかったのね、アレスコーニ家からの邪魔もあったみたい。だから、関りたくないの。けれど、ビクトーリオと高嶺は大学がこっちで同じでね、ま、それもアレスコーニ家の策略だってお父様は言ってたけど。そうそう、ビーチェ、あなたのお父様、お母様も一緒の大学だったのよ。」

淡い思い出になっている両親の顔を彼女は何とかして思い出していた。

「あの頃のことを語っている高嶺は辛そうだった。あの事件も、ビクトーリオの病気も。高嶺は何とかビクトーリオにあなたの御両親へのちょっかい止めさせようと働きかけていたみたいだけど、上手くいかなかった、友達の狂った感情を止めることができなかったって言ってたわ。」

部屋に高嶺が入ってきて、美園にキスをして話の続きを引き受けた。

「ビーチェ、お父さんとお母さんのことを知りたいかい?」

幼かったビーチェにはあまり元の家族の記憶がなかった。

あの事件が鮮烈過ぎて、薄れているのだ。

かすかに頷いた娘に高嶺は頷いた。

「お前の母さん…サンドラ、アレキサンドラはイギリス出身だ、実家には勘当されたって言ってたな、自分の力だけで生きてきたとても強い女性だ。そしてルチアーノは、とても優しいいい奴だった。チーズ農家を継ぐためにバイオテクノロジーを研究していたんだ。彼らは同じ学部で、俺にとっては酒飲み友達だった。2人は最初から惹かれあってた。2人の真剣な愛情に俺は憧れも抱いていた。だから、行き過ぎたビクトーリオがら逃げられるように手配した。その場所をビクトーリオが知っていたとは思えない。大伯母様はビクトーリオがサンドラを追いかけることに反対だったからね、彼は大学も途中でイタリアに帰って大学を受けなおした。お前の両親とビクトーリオが同じイタリアにいることは不安だったけど、その頃には、少し彼も落ち着いていたから、それに、ルチアーノ達の農場は田舎の方で、都会派のビクトーリオは近寄ることもできないからな。ビクトーリオは虫が嫌いでな、田舎はそれがあるから嫌いなんだってよ。」

ビーチェを見つめる瞳は優しいものだった。

「時が経って、俺と美園が結婚して、ビクトーリオの病気が分かった。あんなに取り乱した大伯母様は初めて見たが、美園を仇のように見る彼女を俺は許せなかったし、父さん、お前達のじいさんも嫌っていたからな、一族に骨髄移植に必要なドナー探しのための検査になんか参加してやるものかって思った。たとえ、ビクトーリオのためでも。けれど、美園に説得されて、検査を受けて、ためしに受けた美園がドナーだと分かった時、大伯母様は頭を下げて俺達に頼み込んだ。その姿勢に彼女の中で何かが変わったんだと思ったんだがな…。」

苦笑してビーチェを見る。

「ごめんなさい…。」

「ビーチェが謝ることはない。大伯母様は少し頑固で、振り上げた拳をなかなか下ろせないだけなんだ。」

父に息子は率直な質問をした。

「父さんは、このイタリアで何をするの?フランスでの暮らしはイヤだったの?」

美園と高嶺は顔を見合わせて笑った。

「そうじゃないな。俺にとっては、家族がいるところが生活の場だと思ってる。イタリアにきたのは、ビクトーリオと一緒にアレスコーニ家の持つ株とか物件を管理、で、会社の運営の手助けをするためだ。」

「父さんは、そんなビジネスできるの?」

息子の問いに美園は笑った。

「案外ビジネスは好きよね。才能もあるって氷室の大旦那様に言われたこともあるし。」

氷室家の会長は、日本の政財界においての重鎮に名をはせる人だった。

子供達の祖母に当たる白菊の実家である。

「氷室のじいじに?なら安心だね。」

「でも、フランスでの暮しを止めることになるとは思わなかったよ。」

ため息を吐く息子達に高嶺は言った。

「大きくなったら自分の好きな場所へ行くといい。お前達の未来は果てしなく広がっている。もちろん、ビーチェにも。」

この頃が、ビーチェにも家族にとっても一番幸せな時であった。



つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ