:3
幸いにも頭はよかったフェリシアは大学に進学した。
少しでもクロフォード家に恩返しができることはないかと常に考えていた。
その間、息子は施設に預けられていたらしく、最初の頃は息子が淋しい思いをするなら大学を辞めたいと申し出たが叶えられず嫌なら今までかかった費用を全額返せと言われ諦めた。
そんな中、セバスチャンに言われ、時々屋敷に招かれたことはフェリシアとアルヴァンには一時の安らぎとなった。
フェリシアは相変わらず優しい前当主とその奥方に癒されたが、養父母に対する不平不満を打ち明けるつもりはなかった。
自分と息子を現在助けてくれているのは他ならない、養父母夫妻なのだから。
お金という生きる上で大切なものを与えてくれた養父母には感謝しているが、フェリシアにとってクロフォード家の老夫妻こそが心の両親だった。
彼らの息子であるアルベルトは、社交界では有名な実業家であり、貴族であった。
本人に引けを取らない美しい妻との間には、3人の子供がおり、長男はフェリシアよりも1つ下だったが、次代のクロフォード家を告ぐに相応しい人物だった。
しかし、突然現れたフェリシアとその息子の存在に険しい表情だった。
誰もが他人行儀で、自ら声をかけてくることもなかった。
(財産なんかいらない。)
アルヴァンと生活ができるだけの生活費だけでよかった。
大学を卒業し働くようになったら、養父母の財産は放棄して2人で慎ましく暮そうと思っていた。
淋しくても施設にいる息子には寮から電話や手紙をして週末は一緒に時を過ごした。
そんなある日、養父母が亡くなった。
交通事故による即死だった。
望まない財産が彼女の上に降って来た。
財産放棄をしようとしたら、前当主夫妻に止められた。
セバスチャン夫妻にも、そして、驚くべきことにアルベルト夫妻にも。
けれど、アルベルトの子供達は、相変わらずフェリシアには一瞥を送るだけで何も声をかけてこなかった。
「妹夫婦が亡くなった。妹夫婦には子供がいないため、フェリシアには彼らの家を継いでもらう必要があるが、彼女はまだ大学を出たばかりで家を守るには年若い。そこで、
フェリシアには、妹夫婦の家名であるバーグマンではなく、我クロフォード家の家名を名乗ってもらうこととする。」
家族会議での言葉にどよめきが起こった。
クロフォード家の前当主夫妻と現当主であるアルベルト夫妻は納得したような顔であったが、子供たちや親戚達は驚きと隠せなかった。
「理由については、今は述べることはできない。しかし、これは私を含め、ジェシカもアルベルトもミシェルも同意したことである。」
アルベルトの息子が立ち上がる。
「質問をしてもいいですか。」
うなずく父に息子が問う。
「クロフォード家の家名を名乗るということは、フェリシアは、お祖父さんの孫という立場ですか?と言うことは…父さんの子供、つまり、ぼく達の姉という立場になるのですか?」
アルベルトは当然と言う態度で言い切った。
「そうだ。フェリシアはこの時より、我娘。アルヴァンは我孫となる。アンガスこれ以上の質問は後ほど私にしろ。では以上、解散。」
独断で会議を終える父の姿に息子・アンガスは戸惑った。
妹のアンバーやジェイドはフェリシアの表情をじっと見つめていた。
(私は何も言える立場じゃない。けれど、どうして、そこまでしてくれるの?)
この時からフェリシアの新しい生活が始まった。
望まない財産は沢山の人を彼女の元に引き寄せた。
その中にはあからさまに彼女のことを悪く言う者もいた。
自分の価値は、お金や財産しかないのかと思ったこともあった。
記憶のある時から使用人として働いてきた彼女が使えられる立場に慣れるはずもなく、彼女は孤独だった。
つづく