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どうしてと言う言葉は声にならなかった。
「前を通った時に魘されてる声がした。非常識かと思ったが・・・。」
汗ばんだ額を彼が撫でる。
その手に甘えそうになっていたことに愕然として、払いのける。
「・・・ごめんなさい。・・・ありがとう・・・。」
そう言った私に彼はとても苦しそうな顔を見せた。
「そんなにも似てますか?」
尋ねた私に彼は苦笑する。
「ええ、勘違いしてしまいそうだ・・・ベアトリーチェが大人になって現れたのかと思うほどに・・・。」
愛しいと思える存在。
その存在が居ることは人の心を強くする。
けど、この人は失ってしまったのだわ。
「悲しいですね・・・。」
彼はゆっくりとベッドに腰を降ろす。
「私は、何もかも失って一人だと思っていた時に、愛する存在を得ました。あの子がいなければ、きっと耐えられなかった。もし、あの子を失ったとしたら・・・あなたのお気持ち、察することができますわ。」
彼の眼が大きく見開いている。
「あの子?」
「はい、子供が居るんです。あの子は私の宝なんです。」
アルヴィンの顔を思い浮かべるだけで幸せな気持ちになれる。
けれど、この人は、私に似ているという女性の顔を思い出すたびに苦しむのね。
「結婚はされてないと聞いているが・・・。」
いつも聞かれる質問。
「はい、アルヴィンの父親は誰なのか、私には分からないんです。」
そして、向けられる目の冷たさ。
慣れてしまったな。
「14歳以前の記憶がありませんから。」
「えっ?」
「大きな事故に巻き込まれて、死ぬ寸前まで行ったようです。ここに・・。」
喉元の傷を見せる。
「気管切開って言うのをしてもらわないと息も出来ない状態だったんです。」
彼が徐に立ち上がった。
つづく