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:7

「つづき」をと言ってくださった方がいたので、Upをしてみました。

3/18加筆修正しました。

何故自分はここに居るんだろう。

向かった先は研究所だと思っていた。

それなのに、私は大きな屋敷の一室に通されていた。

アレスコーニというイタリアの名門の屋敷に。

その大きな家は歴史を感じさせる建物で内装も素晴らしい。

呆けている訳には行かない、これもお仕事だ、お仕事・・・。


戸惑っていると奥の扉が静かに開き、車椅子に乗った一人の女性が入ってきた。

祖母ほどの年齢で、何処から見ても上品そうな方だった。

その夫人は部屋に居る私を見るとその緑色の瞳を大きく開かせた。

「ああ・・・な、なんてこと・・・。」

静かに呟かれたイタリア語。

今回の仕事を引き受けた時に猛勉強した私にも聞き取れた。

出迎えてくれたあの人は英語だったし、不安だったのよね。

大きな瞳から溢れる涙を見て何故か心が痛む。

どうして、泣いてらっしゃるのかしら・・・。

思わず駆け寄り、夫人の手を取った。

「あ、あの・・・大丈夫ですか?」

片言のイタリア語は思ったよりもスムーズに口から出た。

大きなエメラルドの指輪をした手を取ってしまった私は、ハッとなって手を離そうとしたけど、婦人に掴まれてしまい、離す機会を逃してしまった。

「ええ、ええ・・・大丈夫ですとも・・・。クロフォード家の皆様はお元気?」

名門同士、知り合いでもおかしくはないだろう。

私は脳裏に渋い顔をした義理の両親と兄弟達の顔を思い浮かべた。

彼らにしてみたら、私を家族とは思っていないだろう。

「ええ、元気にしております。・・・あの・・・。」

彼女も私の手を握りしめているのに気付いたのだろう、手を名残惜しそうに離してくれた。

「ごめんなさいね。」

彼女はオッタヴィア・アレスコーニ。

アレスコーニ家の前当主をされている方だった。

表舞台からは引退して、今の当主はクラウディオさんだと前もって仕入れた情報。

その現当主があんなに美しい男の人だとは思わなかったけど・・・。

「・・・本当に良く来てくれました。」

「あ、はい。」

彼女から、アレスコーニ家とクロフォード家に因縁があることを初めて聞かされた。

それは、私も知らなかったこと。

義祖父母も教えてくれなかったクロフォード家の秘密でもあった。


義祖父がとても可愛がっていた娘、義父の妹の方の駆け落ちにアレスコーニ家の方が協力したようで、その事がビジネスにも影を落としていたと言うことらしい。

義父の妹・・・私には、ほぼ初耳なことだ。

駆け落ちの相手は、大学で知り合った人で上流階級とは全く縁のない人だったらしい。

そのことにあの優しい義祖父も義祖母も大反対。

なんでも、恋人はイタリアの山奥で畜産に関る仕事をしていて大学卒業後は、実家を継ぐことを決めていたらしい。

遠く離れたイタリアで、今までとは違う生活をすることになる娘を心配しない親はいない。

けれど彼らの娘の意志は強く、ほぼ絶縁状態になってしまったと言う。


しかもアレスコーニ家にとって大切な跡継ぎが、大学時代に彼女に懸想したこと、行き過ぎた行為(今で言うストーカー行為)をしたこともあったようで、間に立たされ、駆け落ちに協力したとされるのが、クラウディオさんのお父さん、アルフォンスさんだった。

「私は色々なことが見えてなくて、心の狭い当主だったの。」

名門の当主、しかも女でありながら上流社会で生き残っていくために彼女は随分と苦労をして、冷徹な判断もしなくちゃならなかった。

「もともとアルフォンスの父と私は仲が悪くてね、彼はイタリアを捨ててフランスに渡り、アルフォンスとも疎遠だったの。跡取りのビクトーリオが主として頼りがないことは分かっていたけど、認めたくなかったのね・・・それに、誰が見ても優秀なアルフォンスは、アレスコーニを助けるつもりはないって言ってね、イタリアに来てくれないし、ビクトーリオがクロフォード家の娘におかしな行為をしている何て信じられないことを言ってくるし。アレスコーニ家はめちゃくちゃになってしまったの。今思えば、私の視野が狭かったことがアレスコーニ家を支えるに値しないことに繋がっていたのに、私はクロフォード家のお嬢さんの責任だと思い込もうとしてたのね。」

色々な経緯があって、クロフォード家は駆け落ちを手助けしたアレスコーニ家を、アレスコーニ家も大事な跡取りを誘惑したとされるクロフォード家の娘に対してよい印象を持ってなくて。

遺恨を残し今日まで来てしまった。

「けれど私達アレスコーニ家は、クロフォード家に対して大きな借りがあるの。今回の協力でそれが改善されるとは思えないけど、少しでも力に慣れたらって、クラウのこともあるし・・・。」

大きな借りというモノが何なのか私には分からないけど、真剣な瞳の中に見える光が希望に満ちているのは分かった。



つづく


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