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フェリシアの章:5

3/18加筆しました。

「イタリアに?」

そう告げられたのは、急だった。

10歳になったアルヴァンは、名門の寄宿学校に入って週末にしか帰ってこないため、今私は一人で暮している。

亡くなったバーグマン養父母の家は私にとってよい想い出ではなかったし、広すぎた。

使用人も私が後を継いだと分かると次々に辞めて行き屋敷にいる意義が見出せなかったのだ。

それは仕方ないと思う。

幸運にも遺産が転がり込んだ、元使用人って感じだから。

お金と言うのは、色んな人を呼び寄せることを知った。

決して自分を見てくれない、私の後にあるお金に興味があるという人の多さ。

私に気に入られたいがために、アルヴィンに近付く人もいて、人間不信になりそうだった。

自分には相応しくないこの大きなお屋敷をどうにかしたい。

そう私は新しく養父となってしまったクロフォード家の御当主に持ちかけた。

クロフォード家の財産でもあるバーグマン養父母の家を売ってしまいたいと考えていることに新しく兄弟となったアンガスは言い顔をしなかったけど、御当主はため息を吐いた後こう言った。

“好きにするといい。”

呆れてしまっているような声だと思った。


屋敷はかなりの金額で売れた。

バーグマンの家は、とても歴史的に貴重な屋敷らしく、その調度品も付けて売ってしまったせいかもしれない。

けれど、売って欲しくないものなどがないか尋ねた時もクロフォード家の御当主は何も言わなかったし、義祖父母に言われて温室のバラの苗だけは新しい家に貰うことにした。

その金額の半分は、私みたいに身寄りのない子供たちのために寄付をして、残りの半分を別の施設に寄付、残りをアルヴァンに残すことにした。

1/4だけどかなりの金額で私には十分過ぎるほどだった。


24歳の私は、そんな必要はないと言ったにも関らず、新しく養父となってしまったクロフォード家当主の言葉に甘えて屋敷は処分して、こじんまりとした古い洋館を買った。

バーグマンの家を処分するにしても外聞的にも私を養女にした方が何かといいのだと誰かに聞いた。

親子二人で暮らすには十分だし、愛する草花を十分に育てられる庭もある。

一緒に暮したらどうだと義祖父に言われたけど、クロフォード伯爵家に住むことは出来ない。

許されないだろう。

養父の息子、つまり私の義弟になるアンガスや妹達が自分を疎ましく思っているのは分かっていた。

働かざるもの喰うべからず。

そう言う考えであることは義祖母から聞いた。


義祖父は厳しい中に優しさがある人だけど、義祖母は何から何まで優しい人だった。

何度も一緒に住もうと言ってくれた。

けれど、私はこれ以上甘えるわけにはいかない。

素性もわからない、過去すら知らない、子持ちの女に暖かい家と寝る場所を与えてくれたのだ。

それに、アルヴァンの教育に関しては、感謝しても仕切れない。

そんな自分はクロフォード家に迷惑を掛けないということを目標に生きている。

義理とは言え、弟や妹達が出来たことは嬉しかったけど、彼らは私なんかとは比べ物にならないほど忙しい。

つまり、彼らは働いているのだ。

家のために。

それなのに、自分には運良くと言うか、転がり込んできた亡き養父母の遺産がある。

そして売却した屋敷のお金だってそうだ。

悠々自適に暮せる訳だけど、自分と言うものを認識してから常に働いてきた私としては、何かクロフォード家のためにしたかった。

イタリア行きは、私にとって、アルヴィンにとってもクロフォード家に馴染むためにも必要なことだった。

「アレスコーニの所有する研究所に依頼した農薬の成分検査をいち早くこちらにもって帰ること、そして、今後のビジネスにおいてもアレスコーニ家とクロフォード家は協力体制をとりたいと考えている。その辺を踏まえてだな・・・その、頑張って欲しい。」

言いよどむ養父。

いつものような歯切れのよい言い回しではないことが気になった。

しかし、私としては、クロフォードの家に対する大恩を返せる切欠になると考えていた。

たまに訪れるクロフォード家でアルヴァンが肩身の狭い思いをしないために私は頑張らないと駄目だと思っている。

アレスコーニというお家の研究所に行って、結果を聞いてくるのと同時に、彼らと仲良く、ようは好印象を持ってもらえるように努力する。

少し胃の痛い感じはあるけれど、母は頑張るっ!

その思いで一杯だった。


けれど、イタリアの地に立って、目の前の当主を見た瞬間、私の決意は揺らいでしまった。

綺麗な男の人を見たのは初めてだと思う。

たなびく黒髪と緑の瞳。

端正な顔は、どこか外国の血が混じっているのかエキゾチックにさえ思えた。

空港で私を見た彼は明らかに戸惑っていた。

それは、似ているという彼の人が、彼にとってとても大事な人だったからだろう、奥さんかしら。

そんなことで少し心が痛んでいるなんて。

どうしてかしら・・・。

彼を見ると心が痛くなる。

泣き出してしまいそうな心をグッと堪える。

意味不明の悲しさに支配されないようにしなければ、明らかに怪しい人間だ。


アレスコーニ家と関っていくことで私の何かが変わる。

そんな予感に胸の不安が膨らむ。

アルヴィン・・・母は、早くも後ろ向きです。



つづく

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