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:9

私はイギリスに来ていた。

イタリアのアレスコーニ家に長い間保管されていた宗教画を親戚の希望でとある教会に展示するためだ。

美園母さまの死以降、大伯母様は何かと私を信頼してくれているのか、今回のお使いに私を起用してくれた。

ついでにイギリスのパブリックスクールに席を置くクラウディオとロレンッオに会って来たらいいとまで言ってくれた。

彼らと別れたのは2ヶ月前だ。

毎日のようにクラウとは電話で話をしている。

それでも会いたいと思っているのが私だけでないことは彼の電話から分かっていた。

こんなに幸せでいいのかと明日が少し怖くなる。

それでも大伯母様の私を見る目は優しくなったし、高嶺パパも忙しい中、よく連れ出してくれる。

「クラウに会いたいかい?」

食事の席で尋ねれて頬が染まる。

「じゃあ、近々大伯母様に何かお使いはないか、尋ねてごらん?」

高嶺パパの言葉をクラウに伝えるとクラウも心当たりはないと言った。

頭が良くて、カリスマ的な雰囲気を持つ彼は生徒会に所属しているらしく多忙を極めているって言っていた。

それなのに、電話を欠かさずしてくれることが嬉しかった。


そんなある日のことだった。

私は、高嶺パパの言う“お使い”がないか大伯母様に尋ねた。

大伯母様は大きく息を吐いた後、こんなことを言った。

「あなたをクラウディオのパートナーとして美園が考えていたことは分かっています。あの子の頑固さも。一族皆が認めた訳ではないけれど、今のところ貴方以外がクラウディオの心を捉えるのは無理でしょう。それに、愛する娘の遺言を叶えてあげたいと思うのは普通のことです。」

大伯母様はそう言って、このお使いを私に任せてくれたんだ。


イギリスの空の下、クラウのことを思う。

美園母さまの死を受け入れて、2人きりで愛情を確かめ合った夜の素晴らしさを忘れない。

私はまだ14と若すぎるけれど、彼に答えたかった。

恐怖はなかったと言えば嘘になる。

けれど、お互い初めて同士ってこともあって、それでも彼は必死に私をリードしてくれて。

素肌を合わせることがとても気持ちいいことだとも彼が相手だからわかったこと。

後悔はしていない。

彼が色々なことを学んで帰ってくるなら、私も頑張らないとって思う。

大伯母様の期待にも添いたい。

兎に角、私にとって彼は、痛みと喜びを与えてくれたかけがえのない人なのだ。


一人で居たって頑張らなくっちゃ。

自分を守ってくれていた美園ママがなくなって、パパは落ち込みと悲しみを誤魔化すかのように仕事に夢中だ、自分のことで心配をかけるわけにはいかない。

生前ママは実母であるミランダママの実家に頻繁に手紙や電話をしていた。

ミランダママはパパとの結婚を期に実家を勘当されたらしく一切連絡を取っていなかった。

イギリスでは名のしれた伯爵家の当主である私の祖父は決してミランダママを許さず美園ママの送った手紙には返事を一通もくれなかったという。

財力のある家なら母さんの行方を知ることも彼女の行く末も知ることはできただろうけど私の存在は無視された。

家族との絆を大切にしていた美園ママはそれでも私の近況を知らせる手紙を送り続けていたみたいだけど、

「振り上げた手をどうやって下ろせばいいのか、ミランダの事件後もタイミングを逃してしまったんじゃないかな。」

そんなことをクラウは言った。

私はアレスコーニ家の人間としての生活もミランダママと暮らした日数を超えた。

だから私は何も気にしていなかった。

私の家族は、イタリアのアレスコーニ家だと胸を張って言えた。


クリスマス休暇に入る前のロンドンは肌寒く、吹き付けてくる風は頬をを刺すようだった。

「お嬢様、ホントにここで宜しいのですか?」

早めのクリスマス休暇を取ったメアリにイギリスの港まで同行して貰った。

イタリアでは、美園ママの信者で私の味方でもあった。

「空港に迎えが来てると思うのよ。」

自分は大丈夫だとメアリに言い聞かせる。

キョロキョロと辺りを見回していたら声がかかった。

「ベアトリーチェ様ですか?」

振り返ると若い男が立っていた。

「はい。」

丁寧な物腰だけど、ピアスを何個もあけている人だった。

私より5つくらい年上かしら。

「はじめまして、僕はアントニオ・ビラーシェ。アレスコーニ家のこちらでのタウンハウスの管理人の息子をしています。」

長身の彼に見下ろされたビーチェは一歩下がった。

「絵とベアトリーチェ様を無事教会まで届けるようにとオッタビア様から言い付かっております。」

「あ、はい、お世話になります。」

ビーチェは迎えを待つメアリと別れた。

そして、

彼女を知る者が元気な彼女の姿を見たのはその日が最後だった。



つづく

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