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クラウディオとベアトリーチェの絆を深めたのは母、美園の死であった。
彼女は厳しい人だったが、確かな愛情で子供たちを育てた。
美しく、気高い彼女の魂がこの世を去った時、ビーチェはその悲しみから立ち直ることができないと感じていた。
母を2回も失ったのだ。
そんな彼女を支えたのがクラウディオだった。
双子の弟ロレンッオも優しかったが、それは家族愛というものだった。
彼女にとって心の支えになったのはクラウディオだった。
ベアトリーチェとクラウディオはまだ、14歳と16歳という若さであったが、確かな愛を育んでいった。
母を見送り、抜け殻のようになった父をロレンッオと慰める日々。
5人は確かに家族だった。
美園の亡骸は高嶺のたっての希望で白菊の隣、フランスの大地に埋葬された。
フランスからきた祖父は20年ぶりにイタリアの大地に足をつけ美園の埋葬のため、息子と孫達のためにきたと断言した。
大伯母と祖父は一言三言言葉をかわしたが、祖父は終始無言を貫いた。
「フランスに戻って来い。」
祖父の言葉に皆心が揺らいだが、アレスコーニのことを中途半端に投げ出せないと父は言った。
「そう言うとは思っていたがな。お前達もいつでもフランスに帰っておいで。」
イタリアに骨を埋める気のない祖父。
彼はアレスコーニ家が白菊にした仕打ちを許せないのだ。
大伯母はこのまま高嶺が孫達を連れてフランスに戻ってしまうのではと不安な気持を吐露しそうになったが、プライドが許さなかった。
「大伯母さま、ご安心を。途中で仕事を投げ出すことを美園は許してはくれない。しかし、時が経ち、事業をしかるべき者達に引き継げたら彼女との出会いの場所で余生は送らせてください。」
ベアトリーチェは父の母に対する愛情に涙した。
高嶺は仕事をしている方が気が紛れていいと仕事に打ち込み、息子達が寄宿学校に戻る日にも仕事に手を抜かなかった。
クラウディオとロレンッオは自分達が学校の間ビーチェに父を託したいといった。
ビーチェはアレスコーニ家の子女達と違い、近所の高校に通うことになっていたため、まだ父には近い位置にいる。
「ビーチェ、無理はしなくていいけど。 何でもいいから毎日連絡をして欲しいんだ。」
あくる朝に出発を控えたクラウディオの訪問。
「えぇ、分かったわ。・・・どうしたの?」
部屋の入口で立っているクラウディオは心なしか落ち着きがない。
「母さんが亡くなったばかりなのに不謹慎だと思う。」
「??」
「でもビーチェ…俺は君を愛しているんだ。」
ビーチェは立ち上がった。
「君が大伯母さまに、エリザベッタにも遠慮しているのは知ってる、けど信じて欲しいんだ 俺にはビーチェだけだと。」
一歩前に進むクラウディオはベアトリーチェを抱き締めた。
「私も愛してるわ、家族としてじゃなく。」
クラウディオがその言葉に破顔した。
「ビーチェ、」
「はい。」
「明日寄宿先に戻ったら俺は夏まで帰って来れないんだ。」
ビーチェは少し寂しい顔を見せたが直ぐ様微笑んだ。
「ビーチェ、その、約束として君が欲しいんだ、君を抱きたい。」
抱くと言う行為がどんなものなのかベアトリーチェにはまだ不確かだったが、自分にできることなら、あげられるものなら何でもしたかった。
ベアトリーチェ14歳、初秋の夜のことだった。
旅立ちの日、大伯母が意外な言葉を口にした。
「クラウディオの相手はビーチェとします。これは、私と美園の意志であり、何者も違えることはなりません。」
二人は大伯母に感謝し、クラウは後ろ髪を惹かれる重いで旅立った。
そんな二人を苦々しく見ているエリザベッタには気付きもしないまま二人は離れ離れとなった。
つづく