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「え?」

二人の交際についての許可を求めること、それを口にするはずだった美園が放った言葉にビーチェや息子達には衝撃を受けた。

「もうすぐ、私はこの世を去ることがわかったの。」

その場で美園は自分の命が短いことを公表した。

驚き、思考が止まる家族達。

高嶺は苦しそうな表情を見せているだけだった。

「この体がここまでもっているのが不思議だと言われたわ。明日にも死ぬかも知れない体だと精密検査で言われたの。思っているほどに痩せてないし、辛くもないのに。まぁ、最初は痛かったけど今は大丈夫。きっと痛み止めが効いているのでしょう。この意識がはっきりしているうちに、ビーチェが幸せになるためにはクラウディオが必要だと確信しました。大伯母様、私の遺言です。息子とビーチェの婚約を許してください。」

子供達は、特にビーチェは涙を瞳一杯に浮かべて食事の席を立つと美園の元に向かい、手を握って首を振っている。

「二人も母さまを亡くすのはイヤだ。美園母さま、ビーチェの前から消えちゃイヤだぁ。」

クラウとの婚約を認めてもらうことなんか、今のビーチェにはどうでもよかった。

ただ、愛する人をもう二度と失いたくないという気持ちだけが前に出て、幼子のように泣きじゃくっていた。

周囲に居る者は思い出した。

ビーチェが一度全てを失っていることを。

普段は厳しい大伯母もビーチェの姿に心を打たれた。

いつの間にか子供達は皆で美園を囲んで立っていた。

泣きじゃくるビーチェを静かに涙を流しながらクラウが抱きしめている。

ロレンッオは母親の肩に手を置いて泣くのを必死にこらえている。

「ビーチェ…これからは、クラウが一番にあなたの支えになるの。貴方は強い子よ。大丈夫。母さまはいつだって、ビーチェの傍で見守ってるわ。アレクサンドラだって、ルチアーノだって…。」

美園の言葉に大伯母が叫ぶように言った。

「許しませんよ、美園。あなたは私の娘同然、親の私より早く亡くなるなんて、許しません。」

衝撃の告白に力が入らないのだろう、体はビクトーリオが支えている。

「美園…僕は、君に命を救われたのに、僕は君に何もしてやれない…。」

後悔の言葉。

彼の隣には、彼の愛する妻が居て、やはり泣いている。

普段、ビーチェに辛くあたっているエリザベッタも美園の告白には衝撃を受けたらしくうなだれていた。

「私は、家族に恵まれなかった。1人で必死に生きてきた。そんな中、高嶺に出会って、絆の大切さや人を愛することを知った。彼は私に家族を与えてくれた。可愛い息子達、ビーチェ、そして、本当の母さまのような厳しさと抱擁で私を支えてくれた大伯母様。こんな幸せがあっていいのかって思えるほど、幸せだった。」

高嶺は部屋からそっと出て行った。

「私の気がかりはビーチェのことだけ。けど、彼女には私が信頼するナイトがずっと傍にいると約束してくれた。お願い、お母さま、2人の婚約を許してやって。ビーチェにも幸せになる権利を与えてやって。」

真剣な美園の顔。

オッタヴィアは精一杯の笑顔を見せた。

「このオッタヴィア、これから先、何があっても貴方の愛する子供たちのことは守りましょう。けれど、一日でも長く、一分でも、一秒でも長く生きなさい。死ぬのには早すぎます。よいですね。」

大伯母は凛とした姿勢で立ち、涙の後も隠さず、一人部屋を去っていった。

もう食事会どころではなくなっていた。

「クラウ、ビーチェよかったわね。」

「よくない、よくないよ~!」

抱きつくビーチェ。

彼女を引き取ってからまだ数年、彼女は14歳だ。

母親だってまだまだ恋しい年頃だ。

「ビーチェ、いつか、抱きしめる力も無くなってしまっても、貴方が母さまを抱きしめてね。」

ビーチェは顔をスクッとあげた。

泣きはらした目が痛々しいが彼女は言い切った。

「いやっ!」

「えっ?」

「抱きしめるのは父さまの役目だもの・・・だから、ビーチェは父さまを支えるの。絶対、父さまは母さまがいなくなったら、泣くよ?力抜けちゃうもん。だから、ビーチェが支えるの。クラウとレンッオと一緒に。でも、父さま大きいでしょ?だから、もっと、クラウもレンッオもおっきくならないと、父さまを支えられないわ。…だ、だから、母さまは生きてなきゃだめなの。」

支離滅裂になってきた彼女は泣き笑いの顔である。

美園は子供たちと一緒に大広間を出た。

出たところで高嶺が立っていた。

瞳が潤んでいる。

「聞いてた?高嶺。」

「…あぁ。」

「ちゃんと、最期まで、抱きしめていてね。」

気がかりだったビーチェのことに安心できたのか、それから数日で美園は歩けなくなった。

その後、数日、彼女はいつも笑顔で過ごし、自然と寝入ることが多くなった。

「母さん。」

双子がベッドサイドに訪れた。

「2人とも来てたのね。母さまが言いたいことが言えるうちに…。」

痛み止めによる眠気があるのだと言う母の表情はとても穏やかだった。

「何があっても留学して、色々な知識を手に入れて、愛する人を守れる術を身につけて帰ってらっしゃい。クラウ、貴方が大切にしなきゃならないのは誰?」

「ビーチェ、ベアトリーチェだよ、母さん。」

こくりと頷くのも僅かだ。

大きく息を吸い、美園はロレンッオを見た。

「ロレンッオ、貴方は少し捻くれ者だから、本当に好きな、愛する人を見つけるのは難しいかもしれない。けれど、きっと貴方だけの相手が見つかるわ。見つけたら、きっと幸せにするのよ。」

「捻くれ者だなんて、酷いな母さん。母さんに似たんだよ。」

美園はその口角を少し上げた。

「ビーチェ、貴方はクラウを幸せにしてあげて、クラウが貴方を幸せにしてくれるように・・・幸せは、きっと見つかる。私が高嶺と出会えたように…。」

その言葉を最後に彼女は深い昏睡に入った。

愛する夫、子供達に見守れながら、美園は穏やかな笑顔のままこの世を去って行った。




つづく

とりあえず、今日はここまで。

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