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終末レコード埋葬ツアー  作者: ぬい葉


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1/1

プロローグ

 人類は近々滅ぶ。


 以前はたまに聞くぐらいだったその言葉は、今やもう毎日聞くようになってしまった。


 20XX年。


 各地では戦争が相次いで勃発。

 核を使う国も現れ、地球は更に汚染されていった。


 その結果、異常気象や環境問題がそれはもう凄い。

 夏は暑すぎるし、雨風は酷く強い、有害物質を含んだものもそこそこの頻度で来る。絶滅した生物なんて、もう数えるのが億劫なぐらいだろう。


 続いてAI問題が深刻。


 もはや止められない、現在地球の一部がAIの支配下に置かれている。アジア、北米、南米辺りの国の被害が特に酷いとか。

 あ、でもAIの方でも対立や環境の問題があって、最終的にはAIも滅ぶと言われてる。

 AIも電力が命だし機械、汚染物質の侵食とか災害なんかで終わるんだろう。


「あー、今日は週末、今年は終末。俺は終活、これはトンカツ」


 そんな地球上の生命滅亡まっしぐらな世界で、俺はトンカツを食べる。


「パサついているッ」


 知っての通り終末世界、最近では経済なんてまともに回っていない。


 品薄、物価高騰、倒産相次ぐ、どこの国でもこんならしい。


 トンカツ一つでさえ、買うのを躊躇う世の中。

 買ったとしてもパサパサしているし、中身も少ない!


「まぁ、日本はまだマシだよな」


 他の国は特に戦争で酷い。

 その分、日本はまだ戦争に参加していないから本当にマシなのだ、まぁ時間の問題だろうけど。最近中国の方からAI国家のロボットが流れてきていると言うし。


「あー、なんかもう大学も行かなくて良いよな~。やりたいことをしようかなー」


 最近では退学も考えている。二年間通ったけど、この終末世界じゃ金の無駄にしかならない。

 それにもう既に退学者は全国で大勢いる、みんな同じことを考えているのだ。大学の方からも消えていくし。


 いや、もうちょっと希望を持てよ!

 俺もか。


 ……よし、今日にて退学は決定じゃ。


「はぁ……やりたいことと言っても、大して売れない曲を作るだけだよなー」


 どうも底辺作曲家でーす。


「あー、何か残したいな~」


 このまま誰にも見つからずに終末を経験するのは嫌だ。


 折角大学を退学するんだから、何か偉大なことでもして、世に名前を刻みたいわ。


「今から総理大臣にでもなって、革新的な政策とか打ち出して世界救うか(笑)」


 無理な話である、もはや国一つがどうにかできる話じゃない。


「偉大で有名な作曲家になる」


 無理な話である、俺の実力を舐めて貰っちゃ困る。


 となれば、誰もやったことがないものをやるしかない。

 だけどそんなものあるのか?


「焦っても仕方が無い……」


 いや、焦らないと滅ぶぞ。


 ……ん? 滅ぶ?


 滅んだ後?


「ハッ!」


 そうだ、滅んだ後にまで曲を残す。これは誰もやれていないことだ。


 企画としては人類やAIが滅んだ後に焦点を当てる。

 新たな人類もしくは宇宙人に向けて曲を作るのだ。

 そして数百年、数千年持つ、レコードやらCDやらを作ってどこかに埋める。


 遥か遠い未来、新たな知的生命体がその曲を流して感動!


「おし、これで行こう」


 完全な自己満足だし、俺はその光景を見ることはできないだろうが、随分と面白そうではないか。


 早速曲を作ろう!



 ——大学二年生だった青年。【倉崎(くらさき)藍斗(あいと)】作曲中~。



『♪~』


「う、うぅ……」


 曲が完成した。

 しかしなんて感動的な音楽だろうか。自分で作ったが涙を流してしまう。


 この曲では地球の美しさと醜さ、全てを表現したつもりだ。

 テーマを知っているからこそ、より感動出来て困ったものだ。


「よし、次は数千年持つレコード、CDの制作を頼みに行こう!」




「ガァァーン……」


 はい、名のあるレコード、CD制作会社に片っ端から話を持ちかけてみたけど、全落ちでした。


 理由など分かっている。

 まず、最低でも数百年持つ物を作るという依頼自体が、この終末世界では嫌なもの。

 更に俺の出せる額が五十万だけ。せいぜいその六倍は用意しろと言われた。


 たっかッ!

 まぁ、俺の予定だとレコード十枚、CD十枚で合計二十枚を作る予定だったから、妥当かもしれない。特殊な素材が沢山必要だとも言っていたし。

 ちなみになぜ二十枚かというと、出来たレコードとCDを世(・)界(・)各(・)地(・)に埋めに行く予定だからだ。まだ具体的な場所は決めていないが、余裕があるに越したことはない。

 けどまず作ってくれない。悔しいねぇ。


「トホホ……」


 今は家に帰っている途中。

 直接話に来いという会社があったから外出したのに、ちくしょうぅ……。


「あ、路地裏に来ちまった」


 トホホと歩いていたら、いつの間にか見知らぬ路地裏に。

 薄暗い、そういえばもう夕方か。


 最近は治安が悪いからね、早く出よう。


 そうして、そそくさと立ち去ろうとした俺。

 しかしその時あるものを見つけた!


「く、『草葉レコード製造店』?」


 なんということだ、近くにレコード店があるではないか!


 古びた外装、お店はあまり大きく無い。製造店と看板には書いてあるが個人だろうか?


「行くしかないな!」


 何はともあれ、話を持ち掛けなければ。


 まぁ、受けてくれると思わないけど——。




「良いぜ、受けるわ」


「……まじっすか?」


「あぁ、金も要らねぇ」


「詐欺?」


「失礼なガキだな」


「一応成人済みです」


「やかましいわ」


 なんと、ここの白髪だらけの店主さん、話を持ち掛けたら承諾してくれた。

 店内には色々な機械があるが、人はおじいさんの店主さんだけ、見るからに個人だ。

 それで数百年も持つレコードをタダで作ってくれると言うのだが。


 しかし、本当にそうでしょうか?

 話を聞いてみましょう。


「なんで俺のこの話を受けてくれるんですか? しかもタダで」


「数年前の俺だったら当たり前のように拒否ってただろうけどよぉ、最近思ったんだ。もう人類は滅びる、とな」


 ほほう、このおじいさんも悟っているようですねぇ。


「いやー、やっと気づきましたか」


「お前は何様だよ」


「もうすぐ滅びる人類様でーす!」


「調子のいいやつ……」


 まぁ、そんなことはさておいて、続きを聞きましょう。


「滅びるのが決定的で、近々だと言うのなら、面白そうなお前の企画に参加したかっただけだ、まぁ最後の好奇心だな」


「好奇心って言っても、最低でも数百年は持つレコードをですよ? いくら何でもタダなんて……」


「俺は金持ちだから気にすんな」


「……なるほど、じゃあ頼んます」


 おじいさんが本当に気にするなといった様子なので、じゃあ遠慮なく、とお願いした。


 これで詐欺だったらどうしよ。あ、そもそも金渡さねぇから実害ゼロやんけ。わらわら。


「おう、任せておけ。まぁ時間はかかるがな。それとうちじゃあCDは無理だからな、知人を紹介する」


「おぉ、なんてお優しいお人なのでしょう、感極まりですわ!」


「急に気色悪いから止めろ……まぁ、喜んでくれんなら良いけどよ」




「ということでやってきました、東京のどこかのCD会社!」


 いえ、ちゃんと分かります。新宿です。

 電車を使っての移動。一応東京住みの俺からしたらそんなに苦じゃない距離。


 今度はそこそこの大きさのビル。

 俺が全く知らない企業であり、草葉さんの従弟(いとこ)、國方(くにがた)さんと言う人が社長をしているらしい。


「これ、草葉(くさば)健郎(けんろう)さんからの物です」


 招待状って言うの?

 あのおじいさん、草葉健郎さんから貰った紙を受付に差し出した。


 すると受付の人はどこかへ行き、待つこと三十分。


 三十分!?


「お待たせしました、倉崎藍斗様ですね」


 受付の人が、背中が大きく曲がったおじいさんと一緒に戻ってきた。あれが社長か。


「待たせて申し訳ないのー」


「三十分ですよ、長いですッ!」


 あまりに長く、そしてあまり申し訳なさそうにしていないおじいさんを見て、ちょっとした愚痴を言ったところ。


「うるさいわい!」


「……は? 逆ギレかよ?」


 怒鳴られた。


「うるさいって言う方がうるさいんですぅ!」


「……ふん、ワシ拗ねた。CD作ってあげない」


「私が悪うございました」


「それでよし」


 まぁ、初対面で愚痴る俺にも非はあるよな。

 というかそれが全ての原因じゃないかッ。




「五十万ねぇ、せめて百万かのぅ」


「百万かぁ~、まぁそれでも安いよなぁ」


 白を基調とした広々としている応接室に案内されて、少し苦いお茶を出された俺は早速、怒鳴りおじいさんこと社長さんに話を持ちかけていた。


 まぁ、当たり前にここはタダとは行きませんでした。あの健郎おじさんが異質だってはっきりわかんだね。

 とはいえ、最低数百年持つCDを百万円で十枚も作ってくれると言うのだ、他と比べたら安い。


「で、どうなんじゃ? 百万は」


「く、うぅぅ……お願いします! ただし、三回払いで!」


「おっけー」


 どっかでバイトをするしかない。

 ただし、最近はどこも賃金低くて、長時間労働が多い、いわゆるブラックな所が増えていると聞く。

 こえーなぁ。



 かくして、俺は地獄のバイト生活へと足を踏み入れた。

 ちなみに両親にお金を貸してくれと頼もうとしたのだが、ちょうど強盗の被害にあって死んじゃってたらしい。終末やね。

 相続手続きとかしたくて役所に行ったけど、なんか今できないとか言われた。

 色々と手続きが滞ってるとかなんとか。おい、何やってんだ!


 そして、食料費や光熱費やらが重たく、節約のため俺は晴れてホームレスに。


 あれ? なんでこんななってるんだ?


 the end.



「とはならないんだなぁ」


 実のところそんなに苦ではない。

 そもそもどうせ死ぬのだ、もうすぐ、多分ね? もしかしたら神様が現れて、人類生存エンドになるかもしれないけど。まぁないだろう。


 それにお金はあるし、貯金の為に仕方なくホームレスになってるだけだ!


 親のことは……まぁ、泣きはしたけど、これもどうせ終末の精神でやってる。


 家も親も無くなって、それでも何かを残そうとするのって、とてもカッコいい! 自分でもそう思う。


 まぁ、だからもっと、楽しく前向きに行こう。



 それから毎日星を見ながら眠る日々。

 それを一年近く繰り返した。ちなみに夏と冬は地獄だった。特に夏、俺よく生きていたと思う。


 まぁなんやかんやありながら、一年の間にレコードもCDも順調に出来ていき、俺は出来次第貰っていった。

 完成品はどちらも硬そうなケースに包まれていた。色んな物質を組み合わせたりしたんだって、中には純金とかも使っているとか。


 同時に世界各地を回る準備をし始める、大きめのカバンやスーツケースを買ったり、服や保存食も調達していった。

 あとホームレスだからレコードたちが取られないように色々対策のグッズを買ったり。金が飛ぶぅ~。


 あ、そういえば世界各地、戦争やらAIやらで危険だけどどうしようか。


 まぁ、なんとかなるだろう! 護衛とかその辺で見つかるさ。




 ——ドオォォン


「ひえー」


 はいどうも、季節は秋、ホームレス生活一年の藍斗です。秋と言ってもまだ暖かいが。


 はい、そしてなんと今日遂に、日本も戦争に強制参加させられました!


 AI国家が日本各地に空襲をしたのです。東京も被害を受けています。

 更に空襲と同時に人型ロボットも降りてきて、今各地で自衛隊との戦闘が勃発しています。


 おい、防衛どうなってるんだよぉぉ!


 俺のいる場所ももう安全ではない。

 よって、今日から旅に出ようと思いまーす。


 ということで一旦新宿行って、CD会社の様子を見に行こう。新宿は確か空襲の被害受けただとか。




「うわ、まじか」


 焦げ臭いにおい、遠くで鳴るサイレン。

 逃げ惑う人々の波に抗いながら、なんとか國方さんの会社に辿り着いたのだが。


 会社は瓦礫の山となっており、辺りは炎に包まれていた。運悪く直撃を受けたようだ。


 周囲に人は見当たらない。いや、正確には誰かの死体は見るのだが。


 國方さんはどうなったのだろうか。


「いや、考えるのは止めよう」


 俺はすぐに帰ることにした。

 國方さんは死んでいるかもしれないし、もしかしたら生きていて、もう避難しているかもしれない。


 ただ、探す勇気も余裕も無かった。


「CD七枚、ありがとうございました」


 國方さんの会社から受け取ったCDは合計七枚。目標の十枚には辿り着かなかったし、お金も一部返して欲しい気持ちはある。

 でもちゃんと最後まで作り続けてくれたことには感謝をしなければ。


「そうだ、健郎おじいさんを見に行かないと」


 辺りでサイレンが鳴り響く、また空襲だ。


 まじで世も末だな。




「うわぁ」


 俺の寝泊まりしている地域、東京の中野区に戻ると、そこでも死体がチラホラ見えた。AIロボットの死骸もある。


 遠くでは自衛隊員が避難誘導していたり、銃を発砲するような音も聞こえてくる。


「これ、健郎おじいさん大丈夫か?」


 やられてたらどうしようか。


 俺は不安を胸に、健郎おじいさんの元へ向かっていった。




 もう随分と見慣れた路地裏。

 その一角にある、『草葉レコード製造店』。


 看板は戦争など知らないのだろう、いつも通り店名を提示している。


 いや、そんなことよりも。


「扉が開いて……」


 健郎さんのお店の扉が開いたまま。


 いや。


 壊されていた。




「あーね」


 嫌な予感を抱きながら店に入ると、いわゆる血の臭いを感じられた。

 俺が入っても酷く静かな店内。そして荒らされた跡。


 お店の奥へ行くと簡単に全てを知ることが出来た。


「死んでるやん」


 白髪だらけの髪は、赤く染まっている。


 工房に横たわっており、至るところから血を流している。呼吸もしていない。

 そんな健郎おじいさんを、俺は見た。


 大方、AIにやられたのだろう。

 弾痕が工房の地面や壁に残っている。


「くっそ~」


 何とも言えない。


 強いて言うのなら、世界は残酷だ。


 一年間の付き合い、そのうち会ったのは五、六回程度しかない。


 だけどそこでちょっとした世間話をしたり、終末について語り合ったりはした。

 そして俺の企画に参加してくれた初めての人だ。


「……」


 ふと近くの机を見た。

 そこには依頼していたレコード、その外装が一箱、置いてあった。


「これで五枚目、か」


 中を覗くと、そこにはレコードが一枚入っていた。完成品だ。


 恐らく最期まで作り続けていたんだろう。


「ちょっと、十枚作る前に死なないでくださいよ~」


 CDもそうだが、目標数には届かなかった。

 その前にこんなことになるなんて。


「はぁ……クッソ……」


 これが本当の終末世界か。分かってはいたが容赦がない。


「ありがとうございました、健郎おじいさんの思いは無駄にしません」


 返事など無いが、言っておかないと。


「あ、そうだ」


 机にあったこの一枚、ここに置いていこう。


「日本には西日本と東日本に置きたいからな。ちょうどここは東日本ってことで。影の英雄的存在の健郎おじいさんには、このレコードと眠って貰うぜ!」


 俺なりの感謝の表しかた。


 まじであの世で安らかに過ごしてくれ。


 そうして俺は『草葉レコード製造店』を後にした。




「レコード四枚、CD七枚か」


 合計、十一枚。


 当初の予定の約半分じゃねぇか。

 まぁ、良い。


「まずは西日本のどこか」


 まぁ、大阪、奈良、京都あたりに埋めたいか。

 世界遺産やら絶景やらが多そうだし。

 どうせならそういう素晴らしい場所に埋めたいからな。


 奈良の大仏の近くに埋められたレコードとか面白そうだ。


「いや、CDの方が枚数が多いから、次はCDだな」


 うむ、じゃああとは特に思いつかないし。次は奈良の大仏近くにCDを埋めに行くとしましょうか。



 そうして俺の長いようで短い、終末ツアーが本格的に始まったのであった。


「というか公共交通機関、動いてるか? あと護衛欲しい」


 とても先が心配である。

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