序話
「湾洞さんは『神様』っていると思います?」
「なんだ、急に」
「いいから」
「神はこの仕事の領域外だ」
「いえ、個人としてですよ。いると思います?」
「……いてもいなくても、どちらでもいい」
「興味がないってことですか」
「興味ならあった。考えてもわからないということに気付いただけだ」
「どういうことですか?」
「神はそれぞれの心の中にいます、とか言われたら、それ以上はもう何も言えないだろ」
「……言われてみればそうですね。いてもいいし、いなくてもいい」
「それが『信仰の自由』だろう」
「お師匠さんもそう言っていましたか?」
「いや、婆さんは『世界そのものが神』と言い切っていた」
「オタクみたいなセリフですね」
「似たようなもんだろ。信じたいものを信じているだけだ」
「なるほど。では、やっぱり他人に神を信じさせようとする行為は、邪道ですね。宗教の押し付けとか」
「筋で言えばな。結果として救済になることもあるが、見えないものを信じさせるのは、信仰ではなく、説得か洗脳だ」
「なるほど。あの、うちの店って、パワーストーン売ってますよね」
「……石屋が石を売って何が悪い」
「ストーンの部分じゃないですよ。パワーの部分です」
「言っただろう。結果として救済になることもあると」
「それにしても高すぎませんか」
「金持ちしか買えないようにしているだけだ」
「借金して買ったのに効果がないっていうクレームが来てます」
「……」
「私のほうで返金処理しときますね。救済になっていないので、やむなしです」
「吉峰」
「はい」
「その、なんだ、ちょっと働きすぎなんじゃないか」
「全然です。昔の私とは違いますからね。この仕事、すごく楽しいですよ」
「……そうか。そういえば、秋野のオヤジが次の依頼人を寄こしてきた」
「お、次は『何』ですか?」
「──海星、だそうだ」




