第4章-1 星核の対立
古い制御装置の奥で見つかった“マグニの断片的な記憶データ”。
ユノはそれを胸に抱えながら、採掘キャンプへと戻った。
外では、昨日までとは比べ物にならない赤光が空を染めていた。
大気そのものがざわつき、地表の脈動は心臓の鼓動のように重く響く。
「戻ったのか、ユノ」
レオンが腕を組んで待っていた。
その背後には険しい顔の隊員たち、そしてセラ科学主任の姿もあった。
「話を聞かせて。あなた、遺跡で何を見たの?」
ユノは深呼吸する。
伝えるべき言葉が多すぎて、どれから口にすべきか分からなかった。
だが、マグニの声がそっと背中を押す。
——言え。
——この星を救うために、名を呼んだ。
ユノは口を開いた。
「この星……テルマは生きてる。
ただの灼熱の惑星じゃない。
私が聞いていたのは、幻聴じゃなかった……“星核の意志”だった」
沈黙。
その沈黙の底で、疑念と不安が絡み合い、重く沈んでいく。
「星が、意志を?」
セラの眉がわずかに動く。
科学者として、この言葉をそのまま受け入れることを拒む反応だった。
「データは?」
「証拠はあるの?」
「遺跡は危険区域なんだぞ……!」
隊員たちの声が重なる中、レオンだけがユノを見つめていた。
迷っていた。信じたいが、信じれば任務が揺らぐ。
ユノは握りしめていた古代装置の欠片を差し出した。
「これが証拠。
制御装置の内部に残ってた……マグニの記憶」
セラが装置を手に取ると、その瞬間——
かすかな振動がキャンプ全体を貫いた。
《……また、触れたのか》
マグニの低い声が、ユノだけでなく機器を通して微かに響いた。
隊員たちが息を呑む。
「今の……ノイズじゃない。言語データだ……!」
セラの顔から血の気が引いていく。
「ありえない……星核エネルギーが、言語を……?」
だが次の瞬間、切迫した警報が鳴り響いた。
《採掘拠点アッパー・デルタ地区でマグマ圧上昇。
臨界レベル到達まで、残り130秒》
企業本社からの自動アナウンスだった。
レオンが叫ぶ。
「おい、またかよ! これじゃ拠点が吹っ飛ぶ!」
ユノは走り出す。
胸の奥で、マグニの声が低く、苦しげにうなる。
——ちがう……
——わたしは怒っていない……痛いだけだ……
「痛い……?」
ユノは立ち止まった。
「マグニ、あなた、怒ってるんじゃないの……?」
返る声は震えていた。
——傷つけられている。
——昔も……今も……
——わたしを壊す者が、また来た……
“昔も……また来た”
その言葉で、ユノの背筋に冷たいものが走る。
企業が掘っているのは、ただの鉱石ではなく——
かつて星を守るために築かれた“星核制御装置の中心部”
その弱点を、誤って掘り進めている。
「セラさん、すぐに採掘を止めないと……!
ここを掘れば、テルマが——星そのものが死ぬ!」
セラは苦しげに顔をゆがめた。
「ユノ、気持ちは分かる。
でも企業本社は“続行”の指示を出している……!」
遠隔通信機から、CEOグラムの冷静な声が流れた。
《採掘中止は認められない。
レア結晶の回収が優先だ。星の“不安定化”は誇張だろう》
ユノは震える拳を握りしめた。
「誤解してるのは企業だけじゃない……
マグニも、企業を“昔の敵”だと思ってる。
このままじゃどっちも破滅する!」
それは、ユノだからこそ言える言葉だった。
レオンが深く息を吸い——
「……分かった。ユノ、行こう」
セラも続く。
「私も行く。データの真偽をこの目で確認したい」
そして3人は、崩壊が迫るデルタ地区へ走り出した。
その背後で、マグニの声が震えながら響く。
——ユノ……
——わたしは、こわい……
ユノは空を見上げ、強く答えた。
「大丈夫。私があなたの名前を呼ぶから」
「あなたは一人じゃない」
灼熱の星の上で、星核と人間と企業の誤解が交差し、
ついに運命の分岐点が姿を現し始めていた。




