第2章‐2 星核のうねり
ユノが“星の奥”へ引き込まれ、
マグニと本格的に対面するパートを書きます。
「まだ正体は掴めないが、確実に繋がり始める」
光に包まれたユノの身体は、まるで重力の方向を失ったように宙へと浮かび上がった。
熱も、痛みも、息苦しさもない。
ただ、柔らかな光の波が皮膚を通り抜けていく感覚だけが残った。
(ここ…どこ……?)
足元が消えていた。
眼下には漆黒の空間が広がり、赤い渦のような光が幾筋も立ち昇っている。
宇宙空間ではない。
もっと“内側”だ――惑星の内部を抽象化したような風景。
――ようこそ。
声は、頭ではなく、心臓から響いてくる。
ユノはゆっくり振り向いた。
そこに“人影”のようなものが立っていた。
形は曖昧で、輪郭は熱気のように揺らぎ、
内部にはマグマがゆっくり流れているような赤橙の輝きが見えた。
しかし確かに“目”だけはあった。
深い炎色の、孤独を宿した瞳。
(あなたが……マグニ……?)
声に出したつもりはない。
だが、影は静かにうなずいた。
――その名は、お前が呼んだ。
――我はこの星の核に生まれ、星と共に在り続ける者。
ユノは息を呑んだ。
(星の……意思体……)
――お前は、星の脈動に触れた。
――だから、ここへ来た。
光の波がユノの周りをさらりと撫でる。
皮膚よりも深く、内側へ浸透するような感覚。
(どうして私なの……?)
――選ばれたのではない。
――聴こえたから来た。ただ、それだけだ。
ユノは胸の奥がざわめいた。
(聴こえたのは……偶然? それとも私に何か特別な……)
――問いはまた後でいい。
――今は、見せる。
マグニの“瞳”が光を増した瞬間、
空間全体が脈動を始めた。
赤い渦がユノの周囲を巡り、
ひとつの“映像”を描き出す。
そこには、巨大な都市が映っていた。
空に浮かぶ塔、マグマをエネルギーに変換する装置。
かつて栄えていた――古代文明のテルマ。
(これ……昔の……?)
都市は繁栄していた。
しかし次の瞬間、映像が切り替わる。
星核が黒く染まり、
地表全域でマグマが暴走し、
都市が飲み込まれてゆく。
――かつて、この星は滅びた。
――“星核”が奪われたからだ。
(奪われた……?)
――エネルギーを求めた文明は、星の心臓を削りすぎた。
――星は耐えられず、崩壊した。
ユノは、それが未来の自分たちに重なるのを感じた。
(じゃあ、この星も……?)
――今も同じことが起きている。
映像が再び変わる。
ユノたちの採掘拠点、運び出される赤橙の結晶――《グラナイト結晶》。
――その結晶は、星核の一部。
――奪われれば、星は再び死ぬ。
ユノの心に冷たいものが広がる。
(……でも、採掘会社はそんなこと……)
――知らぬのではない。
――知ろうとしないだけだ。
マグニの声は、静かだった。
怒りよりも、諦めに近い響き。
――ユノ。
――お前に、ひとつ頼みがある。
ユノは思わず息を飲む。
(……何?)
マグニの身体が揺らぎ、光が星のように散る。
――遺跡を、起動してくれ。
――星を守る最後の装置を。
ユノの胸が強く脈打つ。
(私が……?)
――お前にしかできない。
光がさらに強くなる。
視界がまた揺らぎ始める。
――急げ。
――地表で、お前を探す声がする。
(カシア……!)
ユノの視界が白に包まれた。
――また会う。
――選択の時が来る。
そう言い残すように、マグニの姿が消えた。
次の瞬間――
ユノは遺跡の床へ、膝から崩れ落ちた。
「ユノ!!」
「生きてるか!?」
カシアと隊員たちが駆け寄ってくる。
しかしユノの耳には、まだ星の鼓動が微かに響いていた。
マグニの声とともに。




