第3章−4 《企業との初遭遇:誤解の衝突》
巨大な影が、太陽を遮った。
ソラリスの輸送船が街の上空に停泊し、
腹部のハッチがゆっくりと開く。
そこから降下してきたのは──
黒い外骨格スーツに身を包んだ特殊部隊だった。
胸のロゴは《S.E.C.A.》──
ソラリス・エネルギー企業軍《監査局武装部隊》。
街の広場に着地した瞬間、
赤い粉塵が舞い、熱気がねじれた。
ラヴィはアストラと共に、高台からその様子を見下ろしていた。
「アストラ……あの部隊、本気のやつ……?」
「うん。本気だよ。
“資源の保護”って名目だけど、実際は確保が目的だ。」
「私を……? それとも星の子を……?」
アストラは少しだけ考えた。
「両方だね。」
ラヴィは拳を握った。
怖い。でも、逃げる気持ちはなかった。
そのとき──
広場に、ひとりの男が降り立った。
黒い外套。
表情ひとつ変わらない鋭い瞳。
オルド・キリアン。
ソラリス戦略監査局《黒い帳簿》。
特殊部隊が周囲を固める中、
オルドは地図を広げるような動作で手の端末を操作し、静かに言った。
「《星の声を聞く少女》──
ラヴィ・コーラ・ミール。
ここにいるはずだ。」
ぞくり、とラヴィの背が震える。
「……私の名前……なんで……?」
アストラが小さく呟いた。
「企業が本気で動くってこういうことさ。
“ラヴィという個人”ではなく──
“星を動かす鍵”として、データ化されている。」
ラヴィは息を呑んだ。
オルドは周囲の住民に向かって、落ち着いた声で宣言する。
「この星は現在、《企業保護領域》となった。
住民諸君は安全が確保されるまで待機してほしい。
我々は“暴走するエネルギー体”の保護を行う。」
住民たちがざわつく。
「暴走……?」「誰のことだ……?」
「またマグニの揺れか?」
「企業が守ってくれるなら……」
ラヴィの喉がひりついた。
「……私、暴走体って……思われてるんだ。」
アストラは肩に手を置く。
「誤解されるのは初めてじゃないだろう?
だけど、今の君なら──向き合える。」
ラヴィは深呼吸し、高台を降りた。
アストラもゆっくり続く。
広場に向かう途中、地面が微かに震えた。
星の核の胎動が、ラヴィの胸に響いてくる。
——コワレル。
——ツレテイカレル。
——タスケテ。
ラヴィは足を止めた。
「……星の子が怯えてる……!」
アストラはうなずく。
「急ごう。」
ふたりが広場へ出ると、
ラヴィの登場に、人々のざわつきが大きくなる。
「ラヴィ!?」「大丈夫なのか!?」
「企業の人が探してるぞ!」
「やめろ、近づくと巻き込まれる!」
そのざわめきを断ち切るように、
オルドが振り返った。
冷たい視線が、ラヴィを射抜く。
「……君が、“星と交信する少女”か。」
ラヴィは勇気を振り絞り、進み出た。
「私を……“暴走体”だなんて言わないで。
私は星を壊したりしない。
星の声を……赤ちゃんみたいな“子ども”の声を聞いただけ。」
オルドの眉がわずかに動いた。
興味か、警戒か、その両方か。
「星は、子を産むなどしない。」
「するよ! だって、昨日、聞こえたんだ……
“生まれたい”“怖い”って……
ずっと、ずっと震えてた!」
広がる沈黙。
そこへアストラが一歩前に出た。
「オルド特務官。
あなたたちが探してる“エネルギー体”は、
確かに存在する。でも暴走させたのは──」
アストラは空を指差した。
「あなたたち収集部隊が、
無理やり《リング・ヴォルト》を開こうとしたからだ。
星の胎動を乱したのは、そっちだ。」
周囲がざわつく。
オルドは微動だにしない。
「……ふむ。
興味深い仮説だ。
ならば──証拠を見せてもらおう。」
そして、人差し指をラヴィへ向ける。
「君だ。
“星の声”を聞けるというのなら──
我々に、真実を証明してみせろ。」
広場の空気が、緊張で凍りついた。
ラヴィは一歩踏み出し、胸に手を当てる。
——いまこそ、誤解を正す時。
深呼吸。
「……いいよ。私が証明する。」
オルドの目が細くなる。
アストラが小声で言う。
「ラヴィ、落ち着いて。
君ならできる。」
ラヴィは目を閉じた。
星の脈動が胸に流れ込む──
赤い糸が広場全体を包み、
人々の心臓の鼓動、地面の震え、空気の流れ……
その奥で。
——ウマレタイ。
——オカアサン。
——タスケテ。
ラヴィの瞳がゆっくり開く。
赤い光が、やさしく溢れた。
「聞いて、オルドさん。
この星はね……新しい命を産もうとしてるの。
私が聞いた声は、嘘じゃない。」
静かに、しかし確かに──
企業の“誤解”が揺らぎ始めた瞬間だった。




