表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『INFPの魔王が始める世界攻略』  作者: まこーぼ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/39

第4章:温泉と友情の湯けむり会議


 魔王城の中庭には、かつてないほど穏やかな空気が流れていた。


 早朝五時三十分。

 私は、聖女セレスティアに叩き起こされるよりも早く、自らの意志で目を覚ましていた。

 奇跡ではない。明確な目的があるからだ。


「……おはよう、イグニス」


 私がパジャマ姿で中庭に出ると、巨大な深紅の影が動いた。

 古の炎竜イグニスだ。

 彼は(性別は不明だが、便宜上『彼』と呼ぶ)中庭の噴水に巨体を沈め、気持ちよさそうに鼻息を漏らしている。


『おはようございます、ヴォルクス様』


 イグニスがテレパシーで応える。

 彼が少し身じろぎすると、噴水の水面が波立ち、湯気が立ち上る。

 そう、ここは今や「天然(ドラゴン加熱式)温泉」となっているのだ。


『今朝の湯加減はいかがいたしますか? 昨夜は少しぬるめがご希望でしたが』


 イグニスはISFJ(擁護者型・慎重)だ。

 献身的で、思いやりがあり、相手の細かい要望を察して尽くすことに喜びを感じるタイプ。

 ドラゴンという最強種族でありながら、中身は「世話焼きのお母さん」に近い。


「うん……今日はちょっと熱めでお願い」


『かしこまりました。摂氏四十二度設定で加熱いたします』


 ボォォォォ……。

 イグニスが水中に顔を沈め、微量の炎を吐き出す。

 コポコポと泡が立ち、水温が絶妙に調整されていく。

 完璧だ。全自動給湯システムよりも優秀だ。


 私はガウンを脱ぎ捨て、タオル一枚になって温泉に入った。

 チャポン。

 温かいお湯が、寝起きの身体を包み込む。


「はぁぁぁ……極楽……」


 私は思わず声を漏らした。

 イグニスの横っ腹(鱗が温かくて岩盤浴みたいだ)に寄りかかり、空を見上げる。

 まだ空には星が残っている。


『……ヴォルクス様、お背中流しましょうか?』


 イグニスが気を遣って聞いてくる。


「ううん、大丈夫。イグニスもゆっくりしてて」


『はい……。でも、何かあればすぐ仰ってくださいね。タオルをお持ちするとか、冷たい牛乳をご用意するとか……』


 甲斐甲斐しい。

 彼は自分の巨体が迷惑にならないよう、常に縮こまって気配を消そうとしている。

 最強のドラゴンなのに。


「イグニス、そんなに気を遣わなくていいんだよ。私たちは友達なんだから」


『と、友達……!』


 イグニスが感極まって、鼻から蒸気を噴き出した。

 プシューッ!

 熱い。熱湯がかかった。


「あつっ!」


『も、申し訳ありません! つ、つい嬉しくて……!』


 イグニスが慌てて前足で私を扇ごうとするが、その風圧で私が飛びそうになる。

 ドタバタしていると、中庭の入り口から冷ややかな声が飛んできた。


「……朝から何やってるのよ」


 ジャージ姿のセレスティアだ。

 彼女は腰に手を当て、呆れたように私たちを見下ろしている。


「あら、奇遇ね。私も早起きしたのよ。……ランニングの前に、ひとっ風呂浴びようかと思って」


 彼女の手には、お風呂セット(シャンプー、リンス、ボディタオル)が完璧に準備されている。

 ちゃっかりしてる。

 彼女もこの「ドラゴン温泉」の虜になっているのだ。


「いいよ。一緒に入ろう」

「混浴!? バカ言わないで!」


 セレスティアが顔を赤くして怒鳴る。


「リリスに仕切りを作らせてあるわ。イグニス、尻尾で真ん中を区切ってちょうだい」


『は、はい! 仰せのままに!』


 イグニスが太い尻尾を浴槽(噴水)の中央に沈め、即席の壁を作った。

 セレスティアは「ふん」と鼻を鳴らし、向こう側に入浴した。


 チャポン。


「……ふぅ。……悪くないわね」


 壁の向こうから、彼女の安堵した声が聞こえる。

 こうして、魔王と聖女とドラゴンによる、奇妙な朝の入浴タイムが始まった。

 平和だ。

 このまま時間が止まればいいのに。


 しかし、私のINFPセンサー(不吉な予感を感じ取る能力)が、微かに警鐘を鳴らしていた。

 この平穏は、嵐の前の静けさではないかと。


 その予感は的中する。

 数時間後、この温泉に「招かれざる客」が現れることになるのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ