第4話:「ドラゴンの襲来と、共有された孤独」
定例報告会という名の「拷問」を終えたヴォルクスは、廃人のようになっていた。
玉座の上でぐったりとしている彼を、私は無理やり立たせた。
「さあ、次は……」
私が次のスケジュール(魔法訓練)を告げようとした時だった。
ウゥゥゥゥ――ッ!!
非常サイレンが鳴り響いた。
私が設置させた、最新鋭の魔導サイレンだ。音量は完璧。でも、タイミングが最悪ね。
空が急に暗くなる。
窓の外を見ると、巨大な影が城を覆い尽くしていた。
「ドラゴン……!」
私は杖を構えた。
古の炎竜イグニス。この地域で最も危険なモンスターの一体だ。
ヴォルクスが書いた手紙が、逆鱗に触れたに違いない。
あんなナヨナヨした手紙を送るから!
「魔王様ーッ! ドラゴンです!」
ガインが飛び込んでくる。
ヴォルクスは玉座の影に隠れようとしている。情けない。
私は彼の手を引いてテラスに出た。
逃げるわけにはいかない。迎撃するのよ。
ズドォォン!!
ドラゴンが中庭に着地した。
熱波が顔を焼く。
私は即座に防御結界を展開しようとした。
しかし。
「……ううっ……うぐっ……」
ドラゴンが泣いていた。
溶岩のような涙を流して、子供のようにしゃくり上げている。
(……は?)
私は思考停止した。
何これ。罠? 精神攻撃?
ヴォルクスが恐る恐る前に出る。
「……イグニス……?」
『……ヴォルクス……様……』
ドラゴンが羊皮紙を差し出した。あの手紙だ。
『……読みました……。わかって……くれるんですね……私の気持ち……』
そこからは、信じがたい光景が繰り広げられた。
世界を滅ぼす魔王と、最強の竜が、互いの「引きこもり願望」について熱く語り合い、共感し合っているのだ。
「怖いよね! みんな無神経だよね!」
『そうなんです! 勝手に討伐とか言ってくるんです!』
……何を見せられているの、私は。
呆れを通り越して、頭痛がしてきた。
これが魔王軍のトップ会談?
ただの「陰キャの傷の舐め合い」じゃない。
でも。
ヴォルクスの顔を見て、私は言葉を飲み込んだ。
彼は笑っていた。
怯えた笑顔でも、作り笑いでもない。
心からの安堵と、共感を浮かべた、穏やかな笑顔。
(……こんな顔、できるんじゃない)
私は杖を下ろした。
彼には、友人が必要だったのだ。
私のような「管理者」ではなく、彼の弱さを肯定し、共有してくれる「理解者」が。
「……はぁ」
私は深いため息をついた。
どうやら、私の管理プランに大幅な修正が必要なようだ。
「ペット(巨大ドラゴン)の飼育」という項目を追加しなければならない。
ヴォルクスが私を振り返った。
「セレスティアさん! イグニスも一緒に住んでいいですよね!?」
目がキラキラしている。
だめと言っても聞かないだろう。彼は頑固だ。自分の「好き」を守るためなら、世界を消し去る力を持っているのだから。
「……いいわよ。ただし!」
私は条件をつけた。
「彼(竜)の食費と温泉の管理は、貴方が責任を持ってやりなさい。私は手伝わないわよ」
「うん! やる! イグニスとならできる!」
ヴォルクスは嬉しそうにドラゴンに抱きついた(火傷しないのかしら)。
私はその様子を見ながら、少しだけ胸がチクリとした。
疎外感?
まさか。
私は管理者。彼らは管理対象。それだけの関係よ。
でも、夕暮れの中庭で、マシュマロを焼く一人と一匹の背中は、どこか温かそうで……少しだけ、羨ましかった。
私の「魔王更生計画」は、ますます前途多難だわ。




