タブレットの奴
今日も今日とて、俺は摩訶高校へ向かう。だが、昨日と違うのは俺のクラスには新たな生徒がやって来るということだ。正確に言えば新しいわけではないが、今まで会わなかったのだから同じことだろう。
浮足立つ心をなんとか抑えつつ、教室の扉を開ける。やって来るであろうクラスメイト、柊静奈はまだいない。今か今かと頬杖なんてついて待ってみる。
そんなことをしているとあっという間にホームルームを告げるチャイムが鳴った。その瞬間に、教室の扉が開く。入ってきたのは担任である、新米先生だ。しかし、昨日の彼女とは少し様子が違う。
具体的に言うと、彼女の手には四角いタブレットが。
「お、おはようございます先生!もしかしてそのタブレット…。」
「御名答!このタブレットこそ、静奈さんに繋がっているタブレットなのです!」
「おお!」
「さっ、朝のホームルームを始めますから座ってください。」
「はい!」
つい、興奮のあまり席を立ってしまった。先生の言う通り、落ち着いて席に座る。それを見た先生は、手を叩き昨日と同じくホームルームを始めた。
「みなさんおはようございます。さて、今日はクラスメイト同士、自己紹介をしてもらおうと思います。まずは留唯くんから!」
「はい!」
指名を受け、再び起立する。俺はなるべく大きな声で、タブレット越しの静奈にもしっかり届くように声を出す。
「俺は柳留唯だ!好きなものは…学校!得意なことは…マッピングだ!特に学校の!よろしくな!」
「はい。ありがとうございます。それじゃあ次は先生も自己紹介しますね。」
先生は教壇から離れて生徒の席がある方に立つ。彼女と向かい合う形で、教卓の上にタブレットが立てかけてある。
「はじめまして。私は新米舞子と言います。私の好きなものは…そうですね…学校です!得意なことは…うーん…散財ですかね!これからよろしくお願いします!」
元気いっぱいの声が教室にこだまする。自己紹介を終えた先生は満足げに教壇へ戻った。そして、咳払いを一度してからホームルームの進行をする。
「さてと。それでは最後に貴方の自己紹介をしてもらえますか。文字でも、声だけでも構いませんから。私達、貴方のことが知りたいんです。」
優しい声音でタブレットの先にいるであろう静奈へ話しかける。俺は灰色のサウンドオンリーと表記された液晶画面を見る。そこに文字が映されるか、はたまた声が聞こえてくるか、身構えた。
静寂が広がった数分後。すこしのノイズが聞こえたあと、か細い声が耳に入る。
「柊静奈。………好きなものは…うさぎのメイマロちゃん…。と、得意なことは…タイピング…。…………その、よろしく。」
「えぇ!えぇ!よろしくお願いします!静奈さん!静奈さんはメイマロちゃんが好きなんですね!先生、メイマロちゃん、知っていますよ!可愛いですよね!よくその子の隣にいるシロミちゃんも好きだったりしますか!?」
「先生!落ち着いてください!引かれますよ!?」
突然、まくし立てるような早口になった先生。よほど生徒の声を聞けたのが嬉しかったのだろう。がしかし、いきなりこんな教師と出会ったら、タブレット越しといえど静奈が引いてしまうかもしれない。先生の気持ちは分かるが、ここはなんとか落ち着いてもらおう。
俺の静止に気を取り戻したのか、先生はハッとした表情をして再び咳払いをする。
「し、失礼しました。」
「え、えっと…。大丈夫…。その、私、シロミちゃんも、好きだから…。」
「!そうなんですね!そ、それじゃあ、タブレットのケースをメイマロとシロミちゃんの柄にしておきます!あっ、そうです!机もデコっておきます!?」
「先生!だから、落ち着いてくださいってば!」
興奮冷めやらぬ先生を抑えつつ、朝のホームルームは過ぎていくのだった。




