逆転する奴
俺と先生が見守る中、静奈は再び紙切れを玄関から投げてきた。内容はただひとつ。
『ひと目が怖い。誰かに見られたくない。視線が嫌だ。』
それだけだった。だが、彼女にとっては何よりも重要だ。なぜなら、この内容が静奈が学校へ行けない理由なのだから。
俺と先生は顔を見合わせる。理由を聞いたのだから、あとはどうにか対処法を考えるのみだ。
「ひと目…ですか…。どうしましょう。……試しに学校に人が少ない時間帯に来てもらう…とかですかね。」
「でも、登下校の時に人と会うんじゃないですか。……やっぱり、ひと目は避けようがないかもしれないです。」
「そう、ですよね…。」
行き詰まってしまった。どうしたものか。
俺も人並みには注目を集めるのが恥ずかしくは感じる。しかし、学校へ行けないほどではない。それは今の今まで注目を集めてトラウマとなった経験がないからだ。恐らく、静奈にはあるのだろう。
ならばどうする。学校へ来させるのを諦めるか。それは嫌だ。クラスメイトに囲まれるというのは俺のエゴでもある。だがその前に、たった一度きりの高校生活をこのまま終えてしまうのが勿体なく感じたのだ。どうせならば、共に3年間を過ごして笑顔で卒業をしたい。
「あっ!そうです!学校へ行くのが嫌なら、学校が来れば良いんですよ!」
「え?学校が…?留唯くん、つまりどういうことです?」
「つまりは…。家で授業を受けられるようにすればいいんです!それで、学校の雰囲気に慣れてもらって…。」
「なるほど。試してみる価値はありますね。それでは、静奈さんに提案してみますね。」
先生はメモ帳にペンを走らせる。
『静奈さん。まずは学校がどんな様子か見てみませんか。先生、タブレットを用意します。それでビデオ通話を繋いで学校を見たり、授業を受けてみるのはどうでしょう。もちろん、カメラを付けなくても音声だけでも構いませんから。』
先生の顔を見て、頷く。そして俺は受け取ったメモ用紙を玄関の下の隙間に挟み込んだ、先生はインターホンを押して手紙を書いたことを伝える。
やや間が空き、挟まれた紙切れが中に吸い込まれる。
少しして、違う紙が俺と先生の前に投げられる。
『見るだけなら、やってみる。』
「「!!」」
俺は先生の顔を見る。先生も俺の顔を見る。きっと、2人の顔は喜びが目一杯に弾けていたことだろう。何せ、一歩前進したのだ。
「やりました!よし!それでは、先生、早速タブレットを準備してきますね!」
「はい。他に俺に出来ることがあったら、言ってください。」
「もちろんです!それでは、今日はこれで!」
先生は静奈の家から駆け出していく。タブレットの用意を急ぐようだ。俺は取り敢えず静奈の家の前で小さくお辞儀をして、自宅に帰るのだった。




