隣の奴
写真撮影を終えた俺と先生は早速、登校拒否の生徒の家へ向かう。まず始めのターゲットは俺の家のお隣さんだ。名前は柊静奈というらしい。
「静奈って人は…確か紙切れ投げてきたんですよね。」
「はい。『学校は嫌だ。行かない。』と。」
「うーん。まずはなんで嫌なのか、考えるべきですかね。」
「ですね…。」
静奈の家へ向かいながら、先生は手持ちの黒革製の鞄をゴソゴソ探る。そして何か見つけたのか、あっと声を出して何かを握る。
「それは?」
「メモ帳とペンです!出てきてくれなくとも、これならお話ししてくれると思ったので。」
「なるほど。良いですねその案。」
「ふふっ。そうでしょうそうでしょう。先生のこと、もっと褒めてもバチは当たりませんよ。」
「スゴーイテンサーイ。」
「うんうん、そうですよね。よく分かってるじゃないですか。」
「………今ので良いんですね…。」
適当に褒めても満足している先生は、もしかすると生きるのにコスパが良い可能性がある。いや、生きるのにコストパフォーマンスを求めるのはおかしな話なのかもしれないが。
と、くだらない話をしている内に柊と記してある家に到着する。
先生は早速、メモ帳へペンを走らせる。
『担任の新米舞子です。どうして学校へ行きたくないか、教えてくれませんか?文字でも良いのでお話ししたいです。』
「よし。これで行きます!」
「良いですね。じゃあ渡しましょう。」
先生はチャイムを押すとインターホンへ話しかけた。
「こんにちは。あの、手紙、書きました!読んでくれませんか。」
「………………………。」
俺は先生の書いた紙を玄関の扉の下に挟み込む。静奈らしき声は聞こえない。しかし、彼女の家の扉が僅かに開いて下に置いてあった紙が中へと引きずり込まれた。
しばらくしてそこから紙が投げ出される。先生と俺はそれを拾い、内容を確認した。
『学校に行こうとすると、力が入らない。玄関までは行けても、足が止まる。』
「………………なるほど…。つまりは、行く意思はあるってことですかね。」
「そうなりますね…。うーん、となるとどうしましょう…。」
「なんで足が止まるか聞くとか…?いや、でも踏み込みすぎか…。」
意思とは裏腹に体が動かないとなると、学校に対して何らかのトラウマがある可能性が高い。俺も、そして先生も精神科の医師ではないのであまりむやみ矢鱈に掘り返すのも良くない気がした。
「確かに留唯くんの言う通りかもしれません。ですが、ここは一度聞いてみる価値はあると思います。」
そう言って、先生は再びメモ帳に文字を書く。
『そうだったんですね。どうして足が止まってしまうのか、心当たりはありますか。もちろん、書ける範囲で構いません。どうか教えて貰いたいです。』
俺はまた、玄関の扉に紙を挟んだ。
「お返事ありがとうございます。また、手紙を書いたので是非読んでください。」
さて、相手はどう出るか。俺と先生は静かに静奈がいるであろう空間を見つめる。




