写真を撮る奴
授業を終え、帰りのホームルームとなる。無論、教室の状況は変わらず生徒は俺ひとりだった。先生が教壇に立つ。
「えーっと、それでは帰りのホームルームを始めますね。今日は放課後、写真撮影があるので終わり次第移動しましょう。」
「写真撮影…ですか?」
「はい。ほら、卒業アルバムとかに入学の様子を貼るので、それ用ですよ。今年は近くの公園で桜満開なのでそこまで行きます。」
「へぇ。ピクニックみたいですね…。」
とはいっても、写真に写るのは俺と担任の先生だけになるだろうが。まぁ、撮影兼花見だと思えば自ずとワクワクしてくる。花見なんてするのはいつぶりだろう。花をつけている様子を見るのは勿論、俺は何よりもあの匂いが好きだ。濃すぎず薄すぎず、風に運ばれるほどの軽さを持つあの匂い。まさしく春の象徴だ。
「さて、連絡事項は以上です。それでは公園へ行きましょう。」
「……………。」
「それでは!公園に!行きましょう!」
「は、はい。」
「ふふっ。良いお返事です。」
俺の返事に満足したのか、先生はニコニコとした表情で教室の出入り口に立つ。俺も席を立ち、出る。戸締まりを終えると、昇降口へ行き靴を履き替えた。他のクラスは当然、生徒同士で駄弁っていたが、残念ながら俺は不可能であった。クラスメイトがいないのだ。仕方なし。
外履きに履き替えて外に出る。眩しいほどの日差しが俺を照らす。
「来ましたね。それじゃあ、行きましょう。」
先生の後をついて行く。目的地の公園というのはあまり遠くないようで、直ぐに到着した。各クラスが綺麗に咲く桜の前で写真を撮る。あっという間に俺達鹿組の番だ。
「はいはーい。良い顔で撮ってあげるからねぇ。」
カメラマンのおじさんはそう言って構える。俺は先生と2人きりで横並びになった。シャッター音が2回鳴る。うまく撮れたのか、おじさんは満足そうに手で輪っかを作りオーケーと合図をした。
「「ありがとうございました。」」
2人で礼をして桜の前から離れる。随分あっけなく終わったものだ。
「よし。終わったことですし、あとはゆっくりしましょう。はい、どうぞ。お団子です。」
「ありがとうございます。」
先生は手にしていたビニール袋からお団子を取り出す。みたらし団子を受け取り、早速頬張ってみる。タレの味がしっかりとしていて、弾力のある餅とマッチしていた。2人だけの写真撮影は寂しかったが、お団子が食べれたので悪くない。
「美味しいですね。」
「ふふっ。そうですね。」
先生も団子を頬張りながら笑う。しかし、その顔は直ぐに曇ってしまう。
「……………ごめんなさい留唯くん。予定では、もっと沢山のクラスメイトとこうしてお団子を食べる予定だったんですが…。私の力が及ばないばかりに…。」
「そんな落ち込まないでください。いくら先生とはいえ、15人の生徒全員を学校へ来させるのは大変だと思います。」
「…………ありがとうございます。先生は、良い生徒を持ちましたね。」
串に刺さった団子を食べ終わった頃、先生はこっそり呟く。
「私、自分が子供の頃に出会った先生に憧れて先生になったんです。」
「へぇ。良いですねそういうの。」
「………はい。………私、その人のように生徒に楽しい学校生活を送らせるような先生になるよう、頑張ります。」
教師としては今でも充分頑張っているのではないか。そんなことを思ってしまう。だって、どれだけ生徒が少なくとも授業は真面目に行っているのだ。それに加えて、登校しない生徒ひとりひとりの家を訪ねているとも聞いた。これ以上頑張るだなんて、いささか心配だ。
この人は、少なくとも良い先生だと思う。だからこそ、あまり重荷を背負ってほしくない。
「先生、俺もクラスメイトを引っ張り出すの手伝いますよ。」
「い、いえ。ありがたいですが、生徒の手を借りるわけには…。」
「…………分かりました。じゃあこれから俺クラスメイトの家に行くことにします。たとえそこで先生に会っても、それは手伝いじゃなくてたまたま会ったってことですよね。」
「…………………………。」
先生は唖然とする。手伝いを断っても食い下がる俺に呆れているのかもしれない。いや、この人ならそう思うことはないかもしれない。
なんにせよ、俺はこの人を手伝いたい。故に、あと一押し言葉をかける。
「やっぱり、俺、クラスメイト皆と授業受けたいです。ううん。授業だけじゃなくて、色んな行事だって。だから、これから会いに行きます。」
「そう、ですか。………分かりました。そういうことなら、正式にお手伝いを頼みます。」
「え?手伝いを?でも、俺は生徒だから…。」
「そうですが、貴方はクラスメイトに会いに行くんですよね?なら、私がしっかりお願いします。ですからトラブルがあっても安心してください。」
「……………はい!それじゃあこれから、一緒に頑張りましょう!」
こうして、俺と先生のクラスメイトととの戦いが始まった。




