分からない奴
体育を終えて昼休み。俺はいつも通り、昼食を取ろうと思った。いや、取らなければと思った。しかし、気は進まない。
食事自体が嫌なのではない。ただ、静奈達と食事をするという行為が、俺の身体を鈍くしているのだ。別段、静奈達が嫌いな訳では無い。ただ、他人と食事をする気分ではなかった。
「…………柳くん。……大丈夫?」
「あ、あぁ。」
顔色が優れないように見えたのか、静奈が顔を覗き込んでくる。正直、今、彼女と真っ向から顔を合わせたくはなかった。感じが悪いようだが、俺はつい顔を背けてしまう。
「あらら。留唯くん、体調が優れないのね。私が保健室に連れてくわ。だから、安心して頂戴。せいちゃん。」
そっと、肩に触れたのは美奈さんだった。彼女の柔らかな声音が、頭に優しく染み込む。
「………うん。分かった。……柳くん、お大事に。」
「おう…。悪いな。」
その謝罪が何に対してなのか、定かではないまま、俺は美奈さんと教室を出た。
***
美奈さんは保健室へ向かうことなく、むしろ真逆の屋上に行く。俺も抵抗することなく、手を引かれるままついて行った。
今日は風が少し冷たい。その為か、屋上は無人であった。閑散とした空間に花壇とベンチがぽつり、置いてある。
「それで、留唯くん。貴方、静奈ちゃんと喧嘩中なのかしら?」
「…………いえ。喧嘩ってわけじゃ、ないです。俺が一方的に避けてるというか…。」
そう。喧嘩にすらなっていないのだ。俺は静奈を嫌いになれない。高校で初めて出来た友人なのだから、当然だろう。
「あら。そうなのね。じゃあ、どうして避けているの?」
「それ、は…。………わからないです。静奈が嫌いだとか、ではないんです。でも、一緒にいると苦しくなるんです。」
言ってしまうと、まるで俺が静奈に恋をしているみたいだ。しかし、これが恋だとは思わない。誰かを好きになるというのは、もっとこそばゆくて眩くて、ポジティブな感情なはずだ。今の俺とはほど遠いものだ。
「なるほど。そうなのね。」
静奈へ抱く感情の答えを求めるように、俺は美奈さんを見る。彼女ならば、このヤキモキした気持ちにぴったりと納得のいく言葉を当てはめてくれるかもしれない。
だが、俺の期待は彼女の笑顔に打ち砕かれる。
「自分の気持ちを言語化するのって難しいものね。仕方ないわ。」
「…………美奈さんは、どう思います?俺の静奈への気持ち…。」
「え?うーん。それは私が定義するものじゃないと思うの。」
「……でも、俺、ちっとも分からないんです。なんで静奈の側にいたくないのか。」
「なら、試せばいいじゃない。」
「試す?」
美奈さんは頷く。何を試すと言うのだろうか。俺には見当もつかない。
「えぇ。そうよ。貴方はどんな時に静奈さんから離れたいと思うのか。その時の状況全てを考慮してみるのよ。」
「………なんだか実験みたいですね。」
「確かにそうね!ふふっ。なら、そう考えてみましょう。一度、自分と向き合って答えの手掛かりにする為に、ね。………大丈夫よ。私にも手伝えることがあったら、手伝うわ。」
「ありがとうございます。」
やはり、俺よりも年上だからか。美奈さんはとても頼りになる。そんな彼女に感謝しつつ、これからすべきことを決めることにするのだった。




