ようやく来た奴
「楠橋不和です。よろしくお願いします。」
朝のホームルーム。教壇の前に立った不和はあっけからんと自己紹介をした。昨日の約束通り、彼女はしっかり学校へ来てくれたようだ。
「不和さん!よろしくお願いしますね!私はここの担任の新米舞子です!それで、右の席から…。」
新米先生はそう言ってクラスメイトを紹介し始めた。鼻息は荒く、新たな生徒に対して興奮状態だ。圧を感じられる様子だが、不和は変わらずヘラヘラとしている。
「思ったより、生徒が少ないんですねぇ。」
「そうなんです!ですから、貴方が来てくれて嬉しいです!困りごとがあったら言ってくださいね!先生、いつでも相談にのりますから!」
「あははっ。ありがとうございます。でも大丈夫ですよぉ。私、学校大好きですから。」
「!そうなんですね!先生と一緒です!」
学校が大好きだなんて、大嘘だ。つい先日、学校が大嫌いだと言ったばかりではないか。いや。それこそが嘘で今語ったことこそが真実なのか。そもそも、不和の言葉にそれ程の意味はないのか。
なんだか混乱してきたが、何はともあれクラスメイトがまたひとり学校に来てくれたのだ。今は喜ぼう。先生も喜んでいることだし。
「それじゃあ席は…。美奈さんの隣で!」
「分かりました。よろしくねぇ美奈ちゃん。」
「えぇ。よろしく。ふふっ。新しいクラスメイトだなんて嬉しいわ。」
今まで見てきたマイペースさとは打って変わって、不和は周囲に溶け込むように何の変哲もない一般生徒と化した。
朝のホームルームが終わる。俺は1限目の用意にとりかかる。すると、隣の静奈が話しかけてきた。
「………柳くん。……もしかして、不和ちゃんを……登校させる為に、頑張ってたの?」
「え?あー、まぁな。つっても、アイス奢ったりしただけだな…。」
「そう、なんだ…。……私にも手伝えることがあったら、言って……。手伝うから、ね。」
「お、おう。ありがとう。」
陰りのない、優しい笑み。そんな彼女の表情によって、俺の心に僅かな淀みが表象する。
静奈は善意から手助けを言い出しているというのに。俺と来たら、自分一人で何とかしたいだなんて考えてしまう。彼女を、遠ざけたいと頭の隅で思ってしまう。
「そ、そういや、のぞみと格闘ゲームしたんだよな?どうだ?勝てたか?」
「…………ううん。まだ…。でも、きっと勝つ。」
話題を逸らすように関係のない話をふる。そして、俺と静奈の間に入るように、のぞみが鼻を鳴らして言う。
「はっ!言っとくけどな、静奈はまだまだだぜ!あたしの技に対して反応が遅ぇからな!」
「…む。………でも、のぞみちゃんも……私の技に……反応出来なかった時、あった。」
「あ、あれはまぐれだ!まぐれ!」
「ふぅん…。どうだろう、ね…。」
なんて、2人は仲良く語り合う。俺には分からない、割ってはいることの出来ない空間が狭い教室の中で形成されていた。




