騙された奴
「よし。まずは名前、教えてくれ。俺は柳留唯。お前のクラスメイトだ。よろしくな!」
目前の女生徒へ自己紹介する。彼女は意外にも、すんなり名前を教えてくれた。
「わたしは、楠橋不和。きみとよろしくするかは、決めてないかな。」
「そ、そうか。」
相変わらずマイペースな返事だったが、問題ない。とにかく俺は、彼女に学校へ来てもらいたかった。
「それで…お前は、学校が嫌いなのか?」
「どうしてそう思うの。」
「だって来てねぇから…。先生から、登校拒否中って聞いたんだ。」
「へぇ。そうなんだ。でもわたし、別に学校嫌いじゃないよ。」
「!?そうなのか!?」
「うん。」
嫌いではないと語る不和の様子は、悪いものではなかった。学校という居場所に対して特別嫌な思い出があるようにも見えない。これはもしや、すんなり登校してくれるのではないか。
「じゃ、じゃあ学校来てみないか?楽しいぜ!嫌なことあれば、俺が助けるぜ!」
「へー。すごいねぇ。」
「おう。そうだろ!ど、どうだ…?」
「うんうん。いいよ、別に。」
「まじか!?じゃ、じゃあまた明日な!俺、待ってるな!」
「うんうん。それじゃあばいばい〜。」
抑揚のない声で不和は俺に手を振る。無論、俺も振り返す。まさかこれ程早く登校してくれるとは。かなりの収穫だ。
明日へ期待をして、やや弾み足で帰宅するのだった。
***
翌日。俺は教室で不和を待っていた。教室には既に静奈、のぞみ、美奈さんがいる。ここに不和が加わるのだ。鹿組は俺と先生を含めて7人にもなる。
俺ひとりであった教室と比べ、なんと賑やかになることか。早く不和が来ないだろうか。楽しみで仕方ない。
が、いくら待てども不和は来ない。そうして朝のチャイムが鳴る。ホームルームの時間だ。
もしや、彼女に嘘をつかれたのだろうか。いや、まだ分からない。久々の学校で寝坊したのかもしれないし。きょう一日、気長に待とう。そう、気長に。
なんて思っているとあっという間に放課後になってしまった。残念ながら不和は登校して来ていない。
「な、なんでだ…。」
ひとり苦悶している俺の耳には、他のクラスメイトの声が入る。
「…………今日も、ゲームセンター……行かない?」
「あら。良いわねぇ。さっ!のんたんも行くわよ。」
「えっ!?あ、あたしもか…!?」
美奈さんに声をかけられたのぞみは動揺を隠すことなく慌てる。そしてあろうことか、俺に矛先を向けてきた。
「………お、おい柳。あんたも行くだろ?まさか今日も用事あるなんて言わないよな…?」
「悪いけど、今日も用事あるぜ。………まぁ、グッドラックだ!のぞみ!」
「なにがグッドラックだよ!全然グッドなラックじゃねぇよ!」
のぞみは怨嗟を巻き散らせながら美奈さんに引っ張られていった。そんな中、静奈は振り返り俺を見る。
「柳くん。………その、用事って………私も手伝い、出来る?」
「い、いや。別に大事ってわけじゃねぇから大丈夫だ。ゲームセンター行くんだろ?気をつけてけよ。」
「…………うん。……じゃあ、また明日。」
静奈に嘘をついてしまった。
正直なところ、俺にとってはこの件は大事だ。クラスメイトが増えるかもしれないと、出来るなら協力して欲しいと頼むべきだったかもしれない。
しかし、俺の中で何かがそれを止めた。
意地か、見栄か。どちらかは分からない。それでも、俺ひとりでなんとかしたいと、そう思ったのだ。




