のんびりしている奴
定期検診を終えたあと。俺は帰路についていた。ひとり、ただ帰り道を歩く。少し寂しいのでこんなことなら誰か来てもらえばよかったかもしれない。
いや。病院の付き添いに友人を選ぶのは変か。
なんて、ひとりで歩いていると信号が赤になる。勿論、俺は止まる。そんな俺の隣に別の歩行者がやって来た。学校帰りなのか、制服を着ている。茶色いブレザーに、チェックのスカート。そして青色のリボン。
紛うことなき、摩訶高の生徒であった。
そのうえ、リボンは青。我が高校は男子生徒はネクタイで女子生徒がリボン。色は学年別に分けられている。青はというと、今年の1年が使用している色だ。
もしかすると、未だ登校していないクラスメイトの可能性がある。俺は声をかけようとした。
その瞬間、ピヨピヨという音と共に信号が青になる。
目標の女生徒はなんと、何事もないように後ろを向き、そのまま信号を渡る。幸い、他の車や歩行者はいない。
「な、何してんだよお前!?」
「?おまえって、わたしのこと?」
「そうだよ!」
思わず叫ぶ。信号を渡りきった後、女生徒は変わらず後ろ向きに歩こうとしていた。
「何だって、後ろ向きに歩いてんだ?危ねえよ。」
「でも、今まで事故に遭ったことないよ?」
「そ、そういう問題じゃねぇ!」
「じゃあどういう問題なの?」
女生徒は小首を傾げる。俺より背の低い彼女の肩に、色素の薄い髪がさらさらとかかった。
「どういうって…。怪我してからじゃ遅いだろ。」
「その時はその時だよ。入院生活も悪くないかも。」
「お前な…。…………あっ!ほら!もし車がお前を轢いたら、運転手の過失になるかもしんねぇんだぞ!」
「ドライブレコーダーがあれば大丈夫だと思うよ?今どき、みんな付けてるだろうし。」
「そ、そうなのか…?」
「うんうん。そうだよ。」
言い返す言葉がなくなってしまい、口を閉ざす。なんというか、この女生徒はまるで暖簾だ。ことわざにもあった気がするが、暖簾をいくら押しても手応えなんてものはない。彼女に対しても同様だった。
だが、このままさよならということはしたくない。彼女がクラスメイトの可能性もあるのだから。
どうにか策を練っていると、相手の女生徒が俺を下から覗き込んできた。
クリーム色のまるっとした瞳が、しっかり俺を捉える。
「きみ、どこか悪いの?」
「な、なんで、そう思ったんだよ。」
「だって病院から出てきたから。」
「………………友達のお見舞いとかかもしれねぇだろ。」
「うーん。でも、きみ、友達がいるようには見えないし。」
「失礼な奴だな!?まぁ、入院してる友達はいねぇけど!っておい!何してんだよ!」
俺が話している内に、女生徒は座り込みスマートフォンを手にしていた。
カシャッと音がする。どうやら写真を撮っていたようだ。スマホを向けた先にはマンホールがあった。
「何って、写真撮ってた。」
「マイペースだな、お前…。……………なぁ、もしかして鹿組の奴なのか?」
「うん。そうだよ。よく分かったねぇ。」
「ま、まぁな。」
やはり読み通り、女生徒は俺のクラスメイトであった。今まで見掛けなかったということは、彼女も登校拒否をしているのだろう。
俺は決心する。必ず彼女を学校へ来させようと。




