放っておかない奴
美奈ちゃんの横でサンドイッチを食べながら、私は空を見上げる。雲ひとつなく青空の頭上は晴れ晴れとしていて、それだけで外に出て良かったと思えた。
「………今日は、良い天気……。」
「そうねぇ。」
ゆったりとした返答がくる。
そういえば、食事をしている時に人間はリラックス状態になるという話を聞いたことがある。緊張がほどよく解れて話しやすくなるのだとか。
美奈ちゃんとの距離を縮めるためにも、ここは頑張って話してみよう。
「…………あのね、私…………小学校からずっと………学校に行ってなかったの………。」
「…………そう。」
彼女は少し驚き、目を見開く。
もしかすると、昼食の話題としては不適切だったかもしれない。しかし、今更別の話をするのも不自然な気がしたので、ここはもう諦めて話を続けることにした。
「……虐められてたわけじゃないの……ただ、一回ずる休みしちゃって……そこから、家を出ると………誰かに責められてるんじゃないかって………思うようになったの……。」
「それで、行けなくなったのね。でも、どうして今は行けるようになったの?」
「それは…………クラスメイトが、来てくれたから……。一緒に、学校に行きたいって……言ってくれたから……。」
数日前の出来事を思い出す。向けられた真っすぐな言葉を浮かべる。
他人が出来て当たり前のことすら出来ない自分に、それでも共に学校生活を送りたいと言ってくれたのだ。その人からは、確かな意思を感じたのだ。
故に、私もその思いに報いたいと、もう少し頑張ってみようと思えた。
「今ね、楽しいんだ……。授業を受けて、ご飯を食べて………放課後は遊んで……。……だから、この楽しさを……美奈ちゃんとも、共有したい……。」
「………………。」
美奈ちゃんは押し黙ったまま、地面を見ている。下はただのアスファルト。おかしなところはない。
彼女は内で迷っているのだろう。返答にか、己のうちで生じている考えにか、それは分からない。だが、今はとにかく待つ。彼女の答えを、彼女自身の言葉を。
「楽しさの共有ってのは素敵ね。でも、私はその輪に入るべきじゃないわ。だって23よ?同い年の子は皆、働いてるもの。……私なんかが若い子達の輪に入って楽しむなんて、不相応じゃない。」
「ううん。不相応なんかじゃない。」
悲しそうに笑う美奈ちゃんの言葉を否定する。真っ向から、瞳を見つめる。ブラウンの瞳には私が映る。彼女の視線には、しっかり私が入っている。
「同じクラスになったんだから…………色んなことを共有するのは、普通だと思う………ううん、普通だって願ってる……。だから……美奈ちゃんが、距離を置こうとしても…………私は仲良くなりたいよ……。」
心からの気持ちを伝えた。すると彼女は私に背を向ける。驚いたが、無理に表情を見るつもりはない。何より、彼女がどんな想いなのかは彼女自身の声音と言葉で理解した。
「……………そう。私もね、仲良くなれたらって、そう思ってたのよ。」
震えている声。なんとか安心させるために、硬い表情筋を駆使して明るく告げる。
「……………うん。私も。……嬉しいよ。」
鼻をすする音がした。
相変わらず、外は寒い。しかし、空は青く遠い。




