逃げる奴、追う奴
お手洗いに行くといって教室を出た私は、トイレのある方向とは真逆の方向に歩き出す。柳くん達に嘘をついたようで少し後ろめたいが、それはそれとして気になることがあるのだ。
「美奈ちゃん………こっちに、いるのかな……。」
取り敢えず上を目指す。私の勘でしかないが、美奈ちゃんは屋上などの人が少ないところでひっそりとお昼をとっている気がした。
校内に慣れないながらも、なんとか屋上につく。幸い、鍵はかかっていないので扉はすぐに開いた。春だというのに冷たい風が体を通り抜ける。なるほど。今日は少し寒いから、人が少ないのだろう。
「あら。静奈ちゃん。どうかしたのかしら。」
「………………美奈ちゃんと、お昼……食べようと思って。………柳くん達も、食べたいって………言ってたから……。」
美奈ちゃんは花壇の近くにあるベンチに腰掛けていた。膝には簡易的なサンドイッチが置かれている。
「お昼?私と?………ふふっ。無理に誘わなくていいのよ。ほら、若い子は若い子と仲良くなさい。」
「………………そんなに、歳………変わらないと、思う。」
「そんなことないわよ。貴方達は15,6でしょう?私は23。8,9歳差って大きいと思うわ。」
「…………だから、距離……置こうとしているの。」
「…………………………。」
彼女はやや驚いた顔をした。もしや、無意識だったのだろうか。
兎に角、私は美奈ちゃんの態度や反応が気になって仕方なかった。登校して席を決める時から、何処か一線を引いているような、そんな気がしていたのだ。
それが年上だという意識からだったとしても、年上として振る舞う為だとしても、必要以上に距離を取られるのは悲しい。
折角クラスメイトになったのだから仲良くしたい。いや、すべきだろうと思う。誰かの押し売りかもしれないが、それでもやはり自分でそう思うのはここ数日が楽しいからか。
「…………何歳差でも……同級生なのは、一緒。…………だから、私……貴方と仲良く、したい……。」
「そう。………ありがとう。嬉しいわ。本当に。」
目を細めて美奈ちゃんは笑う。
「……………大人数で、食べるのが……嫌だったら……私とだけでも………一緒に食べよう。」
「ふふっ。そうね。じゃあ、お言葉に甘えようかしら。」
「……………うん。………ちょっと、待って…。」
懐からスマートフォンを取り出して柳くんにメッセージを送る。
『急用、出来たから、お昼一緒出来ない。のぞみちゃんと仲良く食べてね。』
頭を下げているメイマロのスタンプと共に送信。そして、美奈ちゃんの隣に座る。私の昼飯は机の横にぶら下げてあるカップ麺なのだが、今更取りに戻るつもりはない。ここを離れてしまえば、美奈ちゃんが何処かに逃げてしまうような気がするからだ。
「あら。お昼、食べないの?」
「…………うん。……お腹、空いてない。」
「まぁ。でも、少しは食べないと駄目よ。私のサンドイッチ、分けるわ。」
「…………いいの?」
「えぇ。勿論。」
「…………ありがとう。」
正直お腹はペコペコだったので助かった。彼女に感謝をして、雛鳥のように口を空けて待つ。すると、美奈ちゃんは瞬きをして動きを止める。
「…………?どうしたの?」
「あっ、いえ。その、私、分けるだけだと思ってたのよ。」
「あーんって………食べさせてくれないの……?」
「い、良いわよ!えぇ。だからそう悲しそうにしないで!ほ、ほら。あーん。」
「あーん。」
顔を赤らめながら美奈ちゃんはサンドイッチを近付けてくれる。
よく考えてみれば図々しいかもしれないが、まぁ口に入ったレタスとトマトの風味が心地よかったので考えないことにした。




