帰宅する奴
そんなこんなで朝のホームルームを終え、入学式もあっという間に過ぎる。本当にあっという間だ。長々しい校長の話などなく、そもそも体育館に集まって入学を祝われるなんてこともなかった。ただ席について放送を聞くだけ。俺の入学式は簡素なもので終わった。なんと虚しい。
隣にも前後にも生徒はいないのだ。登校拒否をしているのだ。俺がウサギだったらとっくに死んでいる。
「えーっと、帰りのホームルームを始めます。」
担任の新米先生が教壇に立つ。さっきぶりのような気がする。ホームルームとホームルームの間隔が短すぎるだろ。
「………特に言うことはないですね…。うん。みなさん、安全に気を付けて帰りましょう!それでは元気にまた明日!」
先生の声がガラガラの教室にこだまする。
「それでは元気にまた明日!」
「…………な、なんで2回言ったんですか。」
「さようならって言ってほしいんです!さぁ!」
「さ、さようなら。先生。」
「はい!さようなら!」
挨拶を聞いて満足気な先生は黒いバインダーを片手に教室から出る。無論、俺も帰宅一択だ。本来であれば、友人を作るべく付近の人間に話しかけに行くのだが、肝心のクラスメイトが居ないのだ。友達作りなどできるはずもない。
意気揚々と登校した朝。それとは反対に、トボトボと帰るお昼すぎ。こんなはずではなかったのに。帰り道、そんなことを思って歩いているとふと見知った顔を見つけた。見知ったと言うか、会ったばかりというか。
「新米先生。こんなとこで何してんですか?」
「留唯くん!さっきぶりですね!先生は今…。あっ、」
「?」
先生は一軒家の前で立ち止まっていた。そして、今しがた家の窓が少し開いて紙切れが此方へ飛ばされる。先生はそれを拾って見る。俺も横から内容を確認してみた。そこには小さな字でたったふたこと。
『学校は嫌だ。行かない。』
「………この家、鹿組の生徒の家なんですね。」
「はい…。なんとか説得しようと思って来てみたんです。」
「とんだ偶然ですね。俺の家の隣だとは…。」
そう。紙切れが飛んできた家は俺の家のお隣さんなのだ。とはいってもご近所付き合いは無かったのでどんな人がいるのかは知らないが。しかし、これも何かの縁。俺は登校拒否のお隣さん兼クラスメイトともっと交流したいと思った。
「先生、俺も説得付き合いますよ。」
「!それは、嬉しいですが…。」
先生は意外にも渋っている様子だ。てっきりすぐにでも協力を受け入れてあちこちの生徒の家へ向かわせられると考えていたのだが。
「ですが、留唯くんは生徒です。ほら、生徒は学業優先。学校生活に注力してほしいですから…。ここは、先生に任せてください!ね!」
「分かりました…。でも、手伝いが必要な時は言ってくださいね。俺、先生の生徒ですし。」
「ふふっ。ありがとうございます。先生、良い生徒を持ったようです!」
そう言って、俺は帰宅した。正直、意外である。新任ということもあり、頼りないように見えていたが教師としてしっかりした面もあるようだ。新米先生は予想より教師というイメージに近しい人だったな。
自室に戻って、そんなことを思うのだった。




