席決めする奴
美奈さんのアパートを訪れた翌日。早速、彼女は制服に身を包んで教室にやって来た。
朝のホームルームということもあり、先生は意気揚々と告げる。
「さて!今日から共に過ごすクラスメイトを紹介します!」
「竜上美奈よ。よろしくね。」
笑顔で手を振る美奈さん。先生は満足げにして、手を合わせる。
「では!早速席を決めましょう。そうですね…。」
「私は後ろで構わないわ。皆のお邪魔になってしまうもの。」
眉尻を下げて、制服の裾をいじる。どこか遠慮を感じさせた。彼女はなるべく俺達から離れた場所で学校生活を送りたいということなのだろうか。
それは、少し寂しい。
「邪魔なんかじゃないですよ。俺、クラスメイトが増えてうれしいですし。」
「留唯くんもそう言っていますから、他の生徒と近い席にしましょう!ねっ!」
「………………そうね。ありがとう。」
先生の後押しもあり、美奈さんは俺達に近い席へ座ることになった。
ふと、横を見るとのぞみが蚊の鳴くような小さな声で何か唱えていた。念仏だろうか、と耳を澄ませる。
「隣は嫌だ隣は嫌だ隣は嫌だ隣は嫌だ隣は嫌だ隣は嫌だ隣は、」
「………どんだけ嫌なんだよ。」
「う、うるせぇな。柳も苦手なもんのひとつぐらいあんだろ。」
それにしてものぞみは美奈さんに怯えすぎな気がする。
「じゃあ、私はここに座るわ。よろしくね、のんちゃん?」
「ひっ!よ、よろしく、みな姉…。」
哀れのぞみ。美奈さんはするりと彼女の後ろに座った。残念ながら近くで生活を送ることとなりそうだ。顔を見てみると、みるみる内に青白くなっている。よほどトラウマでもあるのか。
あんまりにも可哀想になってきたので、俺はつい口を挟んでしまう。
「あの、美奈さん。のぞみも、もうそんなにヤンチャはしてないんで叱ったりはしないでやってください。」
「あんた、あたしの何なんだよ、偉そうにしやがって…!」
フォローのつもりがのぞみの怒りに触れてしまったようだ。彼女の鋭い視線が突き刺さる。
「……………のんちゃん?駄目よね。お友達にそんな口調じゃ。」
「あ、いや、その、これは…。」
笑顔ではあるものの、謎の圧を感じてのぞみは縮こまる。可哀想だと感じていたが、撤回しよう。やはり少し面白い。
「ですよね美奈さん!友達に乱暴な口調はいけませんよね!俺、悲しいです!」
「こ、こいつ…!」
思えば初対面から乱雑な対応をされてきたのだ。このくらい調子に乗っても構わないはずだ。俺はここぞとばかりに笑顔で美奈さんにすり寄る。
「……………留唯くん。随分、嬉しそうに悲しがるのねぇ。………私、嘘は嫌いよ。発言の訂正をするなら待ってあげるわ。」
「あ、いやぁ、やっぱり悲しくはないです!全然元気!元気です俺!」
「ふふっ。なら良かった。」
のぞみの何か言いたげな目線を感じる。言いたいことは分からなくはないが、これ以上は辞めよう。お前だってチョークスリーパーは受けたくないはずだ。
目配せをしてこれ以上の口論はしないようにするのだった。




