あっさりな奴
「それで、その時、のんちゃんが子猫を見つけてね…。」
テーブルを挟んで前に座る美奈さんは、楽しげに話をしている。
かれこれ30分ほど、俺は彼女の話を聞いていた。今はのんちゃんという少しヤンチャな少女の話をしている。
「傘、さしてたのよ!子猫によ!」
「おぉ。不良が子猫に優しいってのはベタですね…。」
「ふふっ。そうよねそうよね。でも、その時の、のんちゃんがとっても可愛くて…。」
彼女曰く、のんちゃんとやらはバット片手に街を駆けずり回る不良少女だったらしい。だが、美奈さんの説得が功を期して大人しくなったと。
そんな会話をしていると、チャイムが鳴る。恐らく、学校に戻った先生が再びやって来たのだろう。
玄関へ向かう美奈さんについていくと、やはり息を切らせた先生が立ち尽くしていた。ヒールを履いているというのに走ってきたのだろう、腰を曲げて膝に手を置いている。
「は、はぁ、はぁ、美奈さん!す、すみません、でした!本当に、学校を休む、れ、連絡を、入れていたのですね!確認不足、でした、はぁ。」
「あらら。良いのよ。それより疲れたでしょう?あがってお茶でも飲みましょう?」
「い、良いのですか…?マトモに連絡すら受けられなかった教師が、生徒の家にあがってしまって…。」
「どんだけ気に病んでるんですか…。」
確かに休みの連絡が伝達されていなかったのは問題だが、流石に気にしすぎだと思う。俺と同じ考えなのか、美奈さんは片手を頬に当てて笑う。
「ふふっ。そう自罰的になることはないわ。気にしていないもの。だから、今はひと息つきましょう?」
「…………………!美奈さん………!私は、本当に良い生徒を持ちました!……ぐすっ。……卒業しても、忘れません…!」
「気が早いですし、泣いてないで早く入りましょう!?」
涙ぐむ先生を引っ張って茶の間へ行く。美奈さんは俺の時と同じように湯飲みを持ってブラウンのテーブルへ置いた。
注がれた熱々のお茶をひと口すると、落ち着いたのか、先生は急に背筋を伸ばして大人の顔になる。
「……お見苦しいところをお見せしました…。……えーと、美奈さんは今までお父様の葬儀で欠席していたということは…。」
「えぇ。葬式も落ち着いたし、明日から登校しようと思っていたのよ。……改めて、よろしくね。舞子先生、留唯くん。」
俺は心の中でガッツポーズをした。
全くやって来ないクラスメイトを、学校へ引っ張り出す。前途多難に見えていたが、今のところ怖いくらいに順調なのだ。寂しい教室も、きっとすぐに生徒で埋まることだろう。
隣を見ると先生も弾けんばかりの笑みを浮かべていた。だらしなくも見えるが、まぁ、喜びが綻んでいるのだと考えれば此方にもその気持ちが伝播するようだった。




