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すれ違う奴

 金属製のドアノブが動き、頼りないドアがキィと音をたてて開く。


 中から出てきたのは茶髪を緩くカールさせた恵体の女性だ。彼女こそ、クラスメイトのひとり、竜上(たつかみ)美奈(みな)さんなのだろう。

 やや見惚れていた俺より先に、先生が口を開く。


 「こんにちは。私、摩訶(まか)高校で担任をしております、」

 「舞子(まいこ)先生、よね?ふふっ。さっきも紹介してもらったわ。」

 「そ、そうですよね!すみません。」

 「それで…今日はどんなご要件かしら?」


 印象に残る涙黒子。その近くにある瞳が、ちらりと先生、そして俺に向く。つい緊張してしまう。彼女からは柔軟剤か香水か、はたまた化粧品か、よく分からないが同級生からはしない種類の匂いがした。


 「えっと。その、学校が始まってから一度もいらっしゃってないので…。誘いに来たというか…。」

 「あら。それは変ね…。父の葬儀があるからしばらくお休みするって連絡したのだけれど…。」


 困ったように髪を耳へかける。


 「え!?そうだったんですか!?」

 「えぇ。……電話に出た方がしっかり舞子(まいこ)先生に伝えるって仰っていたのよ。」

 「それは失礼しました…。すぐに確認してきます!」


 先生はそう言って俺達に背を向ける。少し高いヒールだというのに走り出す姿勢だ。俺は流石に驚かずにはいられない。


 「え!?今すぐですか!?」

 「はい。伝達がいっていないのは此方の責任ですから!すぐに確認します!」

 「あらら。お気をつけて。」


 腕を振って、走り去っていく。俺はただひとり、初対面の美奈(みな)さんと取り残されてしまった。


 「良ければあがっていく?」

 「え!?いや、でも、お父様の葬儀があるんですよね。忙しいんじゃ…。」

 「いえ。もう終わったわ。それに少し寂しいのよ。だから誰かとお話ししたくて。」

 「わ、分かりました。…俺でよければ。」


 漢、(やなぎ)留唯(るい)。初対面の女性の部屋に入ることとなった。いやしかし、邪な思いを抱いてはいけない。相手は、つい最近両親を亡くしてしまった人。寂しさに付け込んでしまおうなんてのは、失礼極まりない考えだ。


 「お、お邪魔します…。」

 「ふふっ。いらっしゃい。……そういえば、お名前を聞いていなかったわ。私は竜上(たつかみ)美奈(みな)。よろしくね。」

 「俺は、(やなぎ)留唯(るい)です。貴方のクラスメイト…ってことになりますね。」

 「あら、そうなの。よろしくね、(やなぎ)くん。」

 

 どこか上品な仕草で美奈(みな)さんはお盆を持ってくる。上には湯飲みと煎餅が入った木製の器だ。祖父母の家で出されるようなランナップである。


 俺は勧められるまま畳の敷かれた茶の間に座る。深いブラウンのテーブルにお茶の入った湯飲みが乗せられていく。


 「さっ、どうぞ飲んで。」

 「は、はい。頂きます…!」


 ふたりきりの状況にほんの少しドギマギしながらも、なんとか理性を働かせて湯飲みへ手を伸ばす。取り敢えず煩い心臓を黙らせて、熱いお茶を胃に流し込むのだった。

 

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