新任の奴
「さて、ホームルームを始めます。…………えーと、みなさん、元気ですかー?」
「…………………。」
先生の問いかけに固まる。はて、ホームルームとは、アントニオ猪木のモノマネをするような時間だったか。というか、クラスには俺しかいないし、さらに言えば俺の席は教壇の真ん前だしで気まずさが加速する。
「聞こえませんね。元気ですかー?」
「先生!ホームルームってそういうのじゃないですよね!?」
「え、そうなんですか…。ごめんなさい。先生、新任なんです。つい最近まで大学生だったので…。許してください。若気の至りってやつです。」
「到底教師の発言とは思えない…。」
本当にこの人は教員免許を持っているのか。甚だ疑問だったが、それよりも今はホームルームを進めてもらおう。
「はい、先生。まず、先生の名前を教えてください。」
「あぁ!名前!いいですよ!改めて、私は新米舞子です。馴れ馴れしく舞子って呼んでもいいですよ。」
「馴れ馴れしくって…。」
随分な言葉遣いだなこの教師は。
自己紹介を終えた新米先生は無意味にチョークを握って、高らかに言う。
「さてと。ここまでで質問のある生徒はいますか?」
「………………はい。」
「はい!どうぞ留唯くん!」
さすがは担任。俺の名前と顔は一致していたらしい。名を呼ばれた俺は中腰になりながら質問をする。
「………その、俺のクラスメイトがいないんですけど、ホントにこれで学校生活送るんですか…?ていうか、ずっと来ないってわけじゃないですよね。」
そもそも高校は義務教育ではないのだ。出席日数が足りなければ容赦なく留年を下されるだろう。まぁ、程度は学校によりけりかもしれないが。
新米先生はウェーブの髪を人差し指に巻きつけながら、申し訳なさそうに答える。
「えーっと。そのことについては…。先生が何とかします…!さすがに鹿組の生徒みんなが来ないっていうのは看過出来ませんし…。」
「そりゃあそうですよね…。ていうか、来ないと卒業出来ないですもんね。」
「それがそうでもないんです。」
「え?」
片手に持つチョークで新米先生は摩訶高と大きく書く。
「ここの高校はちょっとほかと毛色が違って…。登校しなくても卒業は出来るんです。」
「通信制みたいな?」
「いえ。通信制でも結局は単位というくくりがあります。ですが、摩訶高は違うんです。…………その、何もしなくても卒業出来るというか…。」
「ありなんですか!?そんなの!?」
「ありなんです。そんなの。」
さすが摩訶高というべきか。例外であるべき様が普通の顔でまかり通るらしい。それにしても恐るべき高校だ。まさか登校すらしなくとも卒業できるとは。
「………というか、留唯くんは受験の時にここについて調べなかったんですか?」
「……………えーっと、校内の構造については、完璧です。マッピングしたんです。見ます?」
「い、いえ。やめておきますね。………それではホームルームを終わりますね。きょう一日、頑張りましょう。」
ふたりきりの寂しいホームルームはこうして終わった。前も後ろも左右でさえも、生徒がひとりもいない教室は中々寂しかった。




