冷静になる奴
静奈と共に午前中の授業を終え、昼食になる。手洗いを済ませ、席につき弁当を広げる。今日もまたお気に入りのおかずばかりが入った夢のような弁当である。
「静奈は今日、何食うんだ?」
「……………もちろん、これ。」
「お前チキンラーメン好きだな!?」
「うん。……………メイマロちゃんの、次に、好き。」
「シロミちゃんは次じゃねぇのかよ。」
「………………同率なの。」
「そ、そうか。」
したり顔で静奈はチキンラーメンの封を切っていく。隣で眺めながら、少し羨ましく思いつつ。いやまぁ、俺の弁当だって美味いが。
ポテトサラダにコロッケに肉じゃが。まずいわけがない。芋が多いだとかの文句は聞くつもりはない。
「あれ?でもお湯どうすんだ。」
「………………あ。」
「教室にはポットねぇぞ。……お湯入れんなら食堂行かねぇと。」
「…………………食堂。…………あの食堂……。」
「どの食堂だか分かんねぇけど、別に普通の食堂だぞ。」
「普通じゃ、ない。………お昼の食堂は、魔境。人が塵みたいにいる。」
「お前も人なんだから一緒だろ…。」
「…………………。」
よほど人混みに入るのが嫌なのだろう。静奈は沈黙したままチキンラーメンとにらめっこする。まさかそのまま食べるつもりじゃないだろうな。
「……………………柳くん。…………これ、あげる。」
「?メイマロの鉛筆?どうしたんだ急に。」
「…………あげるから………ついてきて。食堂まで……。」
「あー、そういうことなら良いぜ。でも、メイマロは良いかな。」
考えてみれば、静奈は人目が駄目なのだった。登校しているだけでも怯えていたのだから、人が集う食堂は彼女にとって困難な壁だろう。
俺は早速静奈と食堂に向かうことにした。幸い1年の教室と同じく食堂は一階にあった。廊下を行き交う生徒は多いものの、無駄に幅の広い通路のおかげで密集はしていなかった。が、それも食堂入り口までのこと。
残念ながら食堂入り口は人がごった返していた。広々としているはずなのだが、それでも密集地となっている。入り口の自動ドアが役割を果たすことなく、永遠に開きっぱなしだ。
「………………………。」
「?静奈?…………!?おい!」
静奈はその光景を前に、まず俺の後ろに移動する。かと思うと、突然柔らかい感触が背に伝わった。ぴったり、彼女がひっついてきたのだ。
「どどどど、どうしたんだよ。」
「……………貴方を盾にして進む。……………行こう。」
「行こうっつったって……。」
そうはいっても、此方は気が気でない。意識しないようにすればするほど、静奈の体温が感じられてしまうのだ。
変態ではない。断じて変態ではないのだが。
「あ、あああああああああ!」
「!?」
壁に頭を幾度かぶつける。冷静になれ。クラスメイトを邪な目で見るとはなんてことだ。これでは頼ってくれた静奈に申し訳がたたない。
「ああああああああ!」
頭を、そして心を鎮めるため、衝撃を与える。壁は存外固く、前頭部がじんじん痛んだ。
「な、何してるの…。」
「いやな。心頭滅却?ってやつだ。」
「……………なんで?」
「日本人たるもの、健全な精神を持つべきだろ!」
「……………う、うん。そう、だね…?」
釈然としない静奈。彼女は何故こうも平然としているのだろうか。無意識なのだろうか。
「……なんか……冷静になってきた。………柳くんが…変だから…。」
「そうか!そうか!なら良かった!」
本当は良くないけれど。まぁ、当初の目的であったカップラーメン用のお湯に辿り着きそうなので結果オーライだろう。




