玄関から出る奴
目覚ましの音が鳴る。俺は手探りで頭の上にあるであろう、ボタンを押す。音は鳴り止み、静まった。
「ふわぁ。」
朝だ。今日もまた、学校へ行こう。
いつも通りに思える日だが、昨日と違う点がひとつある。それは、柊静奈が学校に対して前向きになったことだ。
恐らく今日もタブレット越しだろうが、それでも彼女はクラスメイトとして居てくれるはず。寂しい教室とはおさらば、というわけだ。
「いってきまーす!」
朝食と用意を終えて玄関を出る。手にはタブレット。静奈と共に擬似的に登校する為に家から学校まで一緒に行くつもりなのだ。
「………ん?電源つかねぇな。」
タブレットの電源ボタンを押し込んでいるはずが、画面は真っ暗で音ひとつしない。機能のことを考えれば、静奈の声が聞こえてくると思ったのだが。
「どうしたんだ…。まさか、俺、壊しちまっ……、あっ!?」
応答のない画面と格闘しつつ、隣の家を通る。素通りはしなかった。もとより静奈に待っててほしいと言われたからだ。だがそれは、タブレット越しに一緒に登校気分を味わうためだと思っていたのだ。
故に。目前に、摩訶高の制服を着た女生徒がいることに驚いた。
「お、おはよう……柳くん。」
「お前、まさか、静奈か!?」
「…………………うん。その、改めて………よろしく。」
「お、おおう!よろしくな!でも、大丈夫だったのかよ!外に出て…。」
「………………実は、ちょっと怖い…………。でも…変わりたいから………。だから………何かあったら助けてほしい………なんて……。」
「よし!分かった!任せろ!そんじゃ、行こうぜ!学校に!」
なんだか夢を見ているようだった。まさかこんなにも早くクラスメイトひとりが教室へ来てくれるとは。
隣にはどっしりとした前髪に長い紫髪の静奈が歩いている。キョロキョロせわしなく周囲を見ているが、如何せん背が高いので目立つ。
「!?」
「ど、どうした?」
急に静奈が大きく肩を震わせる。彼女の視線の先に何かあったのか、俺も6時の方向を見る。そこには何の変哲もない、長く黒い車が狭い道路を低速で走っているだけだった。
静奈は車を指さす。
「あ、あれ……誘拐犯とかが……使うやつ……。も、もしかして………私達も危ないんじゃ……。」
「平気だ平気!あの車、ここらへんでよく見るからな!それに、俺のイメージじゃ、ああいう車ってキャバ嬢とかホストが乗ってるイメージだな。」
「……………そう、なの……?」
「いやぁ。イメージだけどよ。ほら、広い車内でシャンパン開けて、パーティしてるんじゃねぇか?」
「あぁ……黄色いシャンパン…?」
「そうそう!やっぱりシャンパンって言えばそれだよな!」
どうやらシャンパンのイメージは万人に共通するようだ。思えばキャバクラでもホストでもシャンパンといえば黄色いイメージがある。
無論、未成年なので飲めやしないがワイングラスをゆらゆら揺らしながら格好つけてみたいというのは、誰もが夢見る姿だろう。
「…………………柳くん……売れないホストみたいな髪型だし、シャンパン似合うと思う………。」
「褒めてんのかそれ!?つぅか、髪型は自慢のセットなんだぞ!?」
「…………青髪、傷んでる。………ワックスとか、付けすぎないほうが、良いよ。」
「ぐっ。……気をつけるぜ。」
はねさせた髪をつまみ、見てみる。確かに彼女の言う通り、スカイブルーの髪はやや枝毛が目立っていた。




