体育の奴
中々喧しいホームルームを終えた俺の隣の隣には、柊静奈に繋がるタブレットが立てかけてあった。まずは第一歩。学校の雰囲気を感じてもらうための、案だ。
先生が渡したタブレットはカメラが付いており、此方の様子がバッチリ把握できるようになっているらしい。もちろん、音声を拾うこともできる。ビデオ通話の形だ。
「次、体育らしいぜ。よいしょっと。」
タブレットと体操着を入れた袋を抱えて体育館へ向かう。
「………?私も、行くの…?」
「おう。あっ、でも体育担当すんのは新米先生だから心配ねぇよ。」
「体育担当だったんだ…。そうは、見えなかったな…。」
「聞いて驚け!摩訶高はクラス担任が全部の教科をやるらしいぜ!」
「ぜ、全部…。それって小学校とかだけじゃないの…?」
「だよなだよな。俺もそう思った。」
頷きながら、体育館に。まっすぐコートへ向かうことなく、出入り口付近にある金属製の扉を開けた。そこは更衣室になっているのだ。俺は手早く着替えるために、早速制服のブレザーを脱ぐ。
「ま、待って。脱ぐの…!?」
「?おう。だってほら、体操着に着替えねぇと。そうだ。静奈も着替えたほうがいいんじゃねぇか。」
「そういう問題じゃなくて……私、カメラついてる…から、だから、目の前で着替えないで…。」
「!そりゃそうだな。よし、じゃああっち向いててくれ。俺、お嫁に行けなくなっちまう。」
「き、気色悪いこと言わないで…。」
静奈から手厳しいことを言われてしまったので、俺は仕方なく更衣室の外にタブレットを置いた。まぁ、異性に下着姿を晒すのは恥ずかしいものだ。たとえブリーフでもパンツスタイルでも。
着替えを終えて更衣したを出る。体育館内のコートには、ジャージ姿の新米先生が既にいた。俺は急いでタブレットを回収して先生のもとに行く。丁度チャイムが鳴った。
「さて。これから体育を始めますよ。準備運動を終えたら、今日は基礎体力づくりとします!良いですね?」
「はい!」
元気よく返事をして、準備運動にうつる。タブレットは自立型のスタンドで地面へ立たせておいた。静奈側のカメラはオンにしていないので、実際に彼女が運動しているか分からなかったが、僅かな息遣いが聞こえたので恐らくしっかり運動しているのだろう。
準備運動を終えたら、いよいよ基礎体力づくりだ。
「まずはウサギ跳びです!元気にやっていきましょう!そう!メイマロちゃんのように!」
「………………メ、メイマロちゃんは、うさぎのお人形さんだから…四足歩行じゃない…。」
「それでは、メイマロちゃんの隣にいるシロミちゃんのように!」
「シロミちゃんもお人形だから四足歩行じゃない…。」
「……………先生、もしやメイマロちゃんに詳しくないですね。」
「せ、先生はメイマロちゃんの顔が好きです!それ以外は知りません!さっ、それよりもウサギ跳びですよ!」
「ビジュアルしか見てないんですね…。……………なぁ、ファン的にはどうなんだ?あぁいうの。」
隣のタブレット越しに静奈へ聞いて見る。すると案外、静奈は怒っている様子もなかった。
「……………メイマロちゃんの見た目に魅了されるのは…し、仕方ない。……最初は見た目が好きでも…だんだんメイマロちゃんの存在が好きになってくる…から…。」
「な、なるほどな。深ぇんだな。メイマロちゃんってのは。」
随分達観した、専門家のような意見が出てきた。メイマロちゃんとやらのミニキャラには俺も詳しくないが、子ども向けの容姿とは裏腹に奥深いコンテンツなのかもしれない。
後で調べてみよう。なんて思いながら、俺はウサギ跳びに挑む。




