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第三話 その時、二人は確かに相思相愛だった

 「でも、恋愛に限らず。私と親しくしている方々には必ずと言って良いほど良き出会いに恵まれますの。ですから、『縁結びの当て馬令嬢』という通り名には我ながら納得するところもあるのでございます。有り体に申し上げましたら、この上無く理不尽であると思う部分もございますけれども」


 それは本当の事だった。特に親しい訳ではないが、兄には可愛らしい伯爵令嬢がお嫁に来てくれる事が決まっていたし、姉はゴールド公爵家の嫡男と婚約している。いずれも相思相愛の仲だ。親しくしている令嬢たちも、こぞって愛し愛されている婚約者が居る。彼らの今後、死が二人を分かつ迄仲睦まじくいられるかどうかはフォルティーネには分かりようがないし、そこは当人同士の心がけとそれこそ《《宿命のご縁》》》というものだろうと思う。


 「ですから、私自身には何の加護も力も無いですが、周りの人たちが噂するように、『良縁を呼び込んで結ぶ』という不思議な力は確かにある……ような気は致しますの」


 皇帝はそれを聞いてニヤリとニヒルな笑みを浮かべた。何か思いついた様子だ。


「ほう? 神懸り的な力か」

「いいえ陛下、お言葉ですがそこまで申してはおりませぬ」

「だが、何らかの《《根拠》》はあるだろう? ……例えば、お前を蔑ろにしたやつには《《悪縁》》が、お前に善くしてくれたものには《《良縁》》が、とか」

「ええ、おっしゃる通り。どういう訳か、私を便利な道具として使い捨てようとした人には、ご縁はご縁でも後に身の破滅に繋がる悪縁を引き当てるケースが多くて。純粋に私に好意的な方々には良縁がやってくるようなのです」


 皇帝に使い捨て扱いされぬよう、この辺りでさり気なく釘を刺しておこうとフォルティーネは思った。とは言っても、何の前触れもなく防音魔法を破って来るような人だ、心の内を読まれぬよう防御魔術をかけていても恐らくは無駄だろう。


 因みに、当人の許可無く防音魔法を破ったり、本音防御魔術を破るのは犯罪絡みで警察の立会いの下以外は、帝国法違反である。更に、当人以外は解けないように暗証魔法を複雑にかける術式になるので、通常は破ろうと思っても出来ない。しかし、当人の魔力よりも上の持ち主であれば破るのはさほど難しくはない上に、皇帝はその最高権力を持ってして合法となってしまうのだ。


 「なるほどなぁ。それも噂通りって訳か。でも、お前に取っては良い事でもあるんじゃないか? ビクター・ウィルやイザベラ・モニカみたいな姑息なヤツらには敬遠され易くなるだろうし」

「ええ、まぁ……何とも言い難い複雑な心境ではございますけれど……」


 そうなのだ、あれほどメンタルにダメージを受けたビクターとイザベラの二人だが、数か月の蜜月の後喧嘩が絶えなくなり互いに浮気、別れては復縁を繰り返した後に周りからの評判は最悪になり、今となっては仕事運にも見放されて事実上、社交界からは追放状態となっているのだ。彼らを筆頭に、フォルティーネに対して《《なおざり》》に扱い、私利私欲で近づいた者たちには『ご縁』はご縁でも『悪縁』を結びつける傾向にあるようだ。偶然なのか、それとも『因果応報』的なものなのかは今もって不明だが。


 皇帝は不意に真顔となり、真っすぐにフォルティーネを見つめた。その深く澄んだロンドンブルーの双眸に、心の奥底まで見通されてしまうような錯覚を覚えてドキッと鼓動が跳ねる。


 「正直に言おう。出会うのは最早『伝説の領域』と呼ばれる、獣人族αとΩの『魂の番』。もし出会えるものなら出会ってみたいのだ」


 (へぇ? 冷血漢だとか暴君だとかいう異名を持ち、恋愛ごとには興味無さそうなイメージだけど。人間離れした美形だし、皇帝だし。その気になれば女性の方が放っておかないでしょうに、『魂の番』に出会いたいなんて。意外にロマンチストなのかしら?)


 フォルティーネが微笑ましく思っているのを見透かしたように、フン、と皇帝は鼻で笑った。


「お前が思っているような事ではない。魂の番に出会うと理性を超えた本能で惹かれ合うと聞く。本当に理屈抜きで互いに一目で磁石のように惹かれ合うのか知りたい、という好奇心からなのだ。そこは、帝国を導く皇帝として是非知っておきたい。更に、もう一つ。俺は、お前の『歯に衣着せぬ占い』に興味があるのだ。皇室に代々仕える『専属占い師』は俺の顔色を窺って、鑑定結果よりも耳障りの良い事を伝えて来るから信用出来ぬ。かと言って、お前を専属占い師に据えてしまえば角が立ちそうだ。そこで、未だ空席の『皇帝の秘書官』という役職を新たに設けようと思うのだ」


 漸く、皇帝が個人的にフォルティーネに近づいた理由に行きついた。


「報酬面もお前にとって最善なように取り計らうつもりだ。詳細に至っては話し合おう。婚約者殿の件も色々と手続きやら整理やらが必要だろう? 一週間ほど時間をやる。返事を聞かせて欲しい」

「承知致しました。お気遣い、恐悦至極にございます」


 フォルティーネは深々と頭を下げた。皇帝の命には逆らえないとは言っても、すぐに返事をせず熟考すべきだろう。


 気が重いが、先ずは帰路について婚約者の件を片付けねばならない。魂の番と出会ってしまって、行方を晦ましてしまった婚約者。


 しかしその時その瞬間まで、二人は確かに相思相愛だったのだ。


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