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縁結びの当て馬令嬢③

 βのその彼とはたまたま、学園で隣の席になった事から仲良くなった。彼の名はビクター・ウィル。薄茶色の髪と鳶色の瞳を持つ爽やかな美形。アゲート騎士爵の次男だった。フォルティーネとは不思議と馬が合い、学園内で自然と一緒に行動するようになって行く内に、プライベートでも会うようになった。周りからも、二人が一緒に居る事が当然のように馴染んでいった。


 「俺たち、付き合おうか」


休日、馬遠乗りに行った際。雨上がりの空に架かる虹を二人で見ながら、彼は言った。照れて赤くなった頬、ソワソワ落ち着かない視線を隠すように空を見上げていた。灰色の厚い雲を割って覗く陽光とスカイブルー、蒼穹に架かる大きな虹。初恋らしい初恋も未だで『恋に恋する』お年頃だ、その場の雰囲気を劇的に演出するのには十分過ぎるくらいだった。


 それからは何をやっても充実感が溢れる日々となった。家族から愛されていない訳ではないけれど、兄や姉に万が一の事があればフォルティーネが切り捨てられてしまうだろう。友達との関係もそうだ、それなりに仲は良いけれども決して彼女たちの一番の存在ではない。


 故に、生まれて初めて《《唯一無二》》の存在に選ばれて、モブキャラからヒロインに大抜擢されたような気分だった。彼の鳶色の瞳に、真っすぐに映し出された自分の姿がくすぐったくて、誇らしかった。


 それでも最初は『都合の良い夢』を見ているのではないかと半信半疑だったし、実は男同士の悪ふざけの一環で、モテない女子に告白して落ちるかどうかを賭けるという低俗際まりない「ゲーム」なのではないか? 明日にでも「ごめん、付き合うとか本当は嘘なんだ」と切り出されるのではないか? と警戒もしていた。

 何故ならこの彼は学園内でも女子に人気が高く、βの中でも成績はトップクラスで更にクリケットのエースでもあったからだ。その気になれば学園のマドンナグループと言われているハイスペック美形女子の中からも選び放題だろう。そんな彼が、何故自分のような凡人に? と大半の人が思うだろう。


 けれどもそんな素振りは一切見せず、すぐに信頼してしまった。単純で人を見抜く力が無かった自分を、後になって悔やむ事になるなんて、その時は微塵も思わなかった。


 フォルティーネが一人で居る時を見計らって、言いがかりをつけて来る一部の女子の群れ。教科書が無くなったり、ページが破られていたり。『死ね』『ブスの癖にいい気になるな!』『ビクターと別れろ! 無能女』などと学園内の掲示板に匿名魔法をかけて書き込まれたりして辟易したが、その度に彼が庇ったり慰めたりしてくれるのでさほどダメージは受けなかった。


 今にして思えば、優越感に浸っている部分もあったと思う。悲劇のヒロインに酔っていた事もあっただろう。出来る事なら消し去りたい、恥ずべき黒歴史だ……


 それからひと月ほど過ぎた頃だった。学園の昼休み、いつものように彼とランチを取ろうと裏庭の噴水前で待っていた。庭園内を行き来する学生や教師たちを何となく眺めながら、


 (今日もいい天気だ、幸せだなぁ……)


自然と口角が上がってしまう。その時、待ち望んでいた相手が目の端に移り込んだ。


 「あ、ウィル!」


彼がやって来た。いつものように笑顔で声をかける。しかし、今日の彼はどこか他人行儀だ。何故か、隣に見知らぬ女子を連れている。浮かれた気持ちが次第に凍えていくような錯覚を覚えた。彼の言葉を聞きたくない、逃げたい、と直感が告げる。


 (まさか……。でも、今朝も待ち合わせて一緒に登校して特に変化は無かったし、大丈夫よね?)


「フォルティーネ、俺たち別れよう」


 対峙するなり、笑顔でそう切り出す彼。


「え?」


 思わず聞き返してしまう。「飯食いに行こうぜ」「ライブ行こうぜ」と、いつもと変わらぬ自然な口調だったからだ。彼の左側に寄り添う女子は、違うクラスのようだ。ブロンズ色の髪をツインテールにしており、釣り目の焦げ茶色の瞳を持つ勝気な感じを受ける美少女だ。小馬鹿にしたようにフォルティーネを見ているのは気のせい……だろうか?


 「えっと、聞き違いよね?」

「いや、別れようって言ったのさ」

「ど、どうしていきなり……」


 何をどう対応すれば良いのか全く分からず、パニック状態となった。


「この状況見て分からない?」


 いきなり、ツインテールの子が蔑んだように口を開いた。あちらはフォルティーネの事を知っているようだが、こちらは何処の誰かも知らない。余りにも失礼過ぎて二の句が継げない。もっと理解出来ないのは、彼がその女子を愛おしそうに見つめている事だった。


 「ふん、意味不明、て感じね。手っ取り早く私が教えてあげるわ。私はイザベラ・モニカ。アナテース伯爵家の一人娘よ。ビクターの『真実の愛のお相手』と言えば馬鹿でも分かるでしょう?」


 仮にも侯爵家のフォルティーネにあまりも無礼な言動だ、だがそこを指摘するには思考が追い付かない。


「……え? 真実の愛? どういうこと……」

「そういう事だよ」


 相変わらずニコニコと人好きのする笑みで、彼は遮った。口調は親し気だが、何処か有無を言わさない圧力を持ってして畳みかける。


 「あのさ、巷でのお前の噂、知ってるだろう? お前と付き合うと、運命の女(ファム・ファタール)即ち《《真実の愛の相手》》に巡り合う、ていうさ」

「……え、あの……」

「もう! 鈍いわね!」


 イザベラは苛立ちを露わにした。


「だから、ビクターはファム・ファタールを見つける為にあなたと付き合ったのよ。つまり、最初から《《当て馬》》にされてたのよ。あなたは」


 稲妻に打たれたかのような衝撃が走った。ニュアンス的にそういう事だろうと把握はしていたが、いざ面と向かって言われると何をどう言えば良いのか? どんな態度を取るべきか分からない。


「そういう事だから。じゃーな、もうお前とは《《赤の他人》》だから話しかけてくるなよ?」


 彼はぞんざいにそう言い捨て、「行こうぜ」とイザベラの肩を抱いて立ち去って行った。


 茫然と立ちすくんだまま、いつの間にか周りを囲んでいた野次馬にも気づかず、膝から崩れ落ちた。


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