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第十三話 暴君の秘めたる想ひ人

 バッグの中からタロットカードを取り出そうとした際、皇帝は右手を軽く挙げた。すると、テーブルの上のカップやスイーツなどが音を立てずに中心から左右に分かれ端に避けて行く。さながらモーゼの十戒を連想させた。無言で占うスペースを作ってくれたのだ、これは「占って良し!」という事に他ならない。フォルティーネは軽く頭を下げ、礼を述べた。


 「何を占いましょうか? 例えば、お相手のお気持ちとか。お相手への接し方のアドバイスとか。ちょっとした事でも良いですし。具体的におっしゃって頂けましたらより詳細に占えます。当然の事でございますが、守秘義務は徹底しておりますのでご安心下さいませ」


 出来る限り、話易いよう気安く自然に問いかける。


「あー、うん、アイツの気持ち……気持ちな、うん、そうだな……」


 あの傲岸不遜な皇帝が!? あの俺様男が?! 戸惑い、言い淀み、頬を染め照れてモジモジしている皇帝の姿。その意外な姿を目の当たりにして、まさか「何だか可愛らしい人だ」等と思う日が来るとは! それに、ほんの少しだけ嬉しく感じた。何だかほんの少し、自分を信頼して心を許してくれているような気がして。信じられなくて凝視してしまいそうになる自分を必死に律しながら、タロットクロスをテーブル上に広げる。


 ウェイト版78枚のタロットカードの束を、裏に返してテーブルに乗せする。次に、マルセイユ版タロットカードを取り出し、裏返しにしたまま大アルカナ22枚の束に。小アルカナ56枚の内、人物が描かれたコートカード16枚の束、数字が描かれたヌーメラルカード40枚をカップ、ワンド、ソード、コイン(ペンタクル)の四種類のスートに分け各10枚ごとの束にしてそれぞれ横に並べて行った。他に、アドバイスカード向けに、別種類のウェイト版タロットの大アルカナカード、コートカード、スートカードを別々束ねたもの。それと同じように、別種類のマルセイユ版タロットを大アルカナカード、コートカード、スートカードごとに分けて束ねたヌーメラルカードを素早く並べた。


 これは、クライエントの相談内容に応じて臨機応変に出来るだけ素早く対応する為に考え出した、フォルティーネ流の占い方だった。特に顔が見えない魔法電話や魔法SNS通信機器系での占いには、素早さが要求される。……まぁ、そうやって努力しても、結局はどこの『占い会社』からも使用期間に満たない内に解雇となってしまったのだけれど。


 「うーん、あの()の俺への気持ち……かぁ。でも、あー、うん……」


先ほどからずっと、何をどう占って貰うのか葛藤している様子だ。フォルティーネは、皇帝がどのような内容の占いを希望するのか、静かに待った。相談内容を決めて依頼をする前に、このように迷うクライエントは珍しい事ではない。


 やがて彼は、気持ちに区切りをつけるように大きく溜息をついた。それから、自嘲するように口角を上げると、力の無い声でこう切り出した。


 「いや、アイツの気持ちは、分かっているからその事については、占わなくてもいい」

「畏まりました。では、これから占って行く上で質問をさせて頂く事が出て参りますが、質問をさせて頂いても宜しいでしょうか?」

「勿論だ、一々畏まる必要はないからな。遠慮なく聞いてくれ」

「有難うございます、それでは早速。お相手のお気持ちは分かってらっしゃるとの事ですが、その理由を差し支えない範囲で良いのでお伺いしても?」


 ロンドンブルートパーズの双眸が、寂しそうに陰るように見えるのは気のせいだろうか? そう感じつつ、占う上で必要な情報を探って行く。彼が本当に占って欲しいのは何か? それを知る為に必要な質問を続ける。尤も、余計な情報は無しで質問された事だけを占い、その結果をそのまま伝える方がクライエントにとって最適な場合もある。どのような鑑定方法が良いのかは、時と場合によるのだが。


 彼は何処か諦めたように笑った。その様子に、僅かに胸が締め付けられる思いがした。


(ん? もしかして、秘めたる恋? 禁断の恋とか? 思い込みはダメダメ、占い師たるもの、常に冷静で公平、ニュートラルな状態で居ないと)


 「……もうずっと、片想いなんだ」


溜息混じりに、彼はこたえ困ったように微笑んだ。


 「片想い、なのですか?」


予想はしていたが、潔いほど『片想い』だと言い切る彼に軽く疑問を持つ。


 「あぁ。そうなんだ。だってアイツは俺の想いを知らない」

「そうなのですね?」

「そもそも、想いを告げるほど親しく接する機会が無かったしな。第一、アイツには心に決めた相手がいるんだ」


 苦しそうに、眉を顰め視線を落とす。


(もしかして人妻、なのかな。それは、辛いだろうな……)


 フォルティーネは、まるで自分の事のように胸に痛みを覚えた。しかし、己の身分を嵩に強引に手に入れたりせず、想いを秘め続ける彼に人として好感が持てた。


 「そうでしたか……」


占う内容を問うより、今は彼の気持ちに寄り添おうと思った。


 「あぁ。だから、俺の想いが成就するより、彼女が幸せに暮らせる世の中をつくり上げる方を選んだんだ。俺は、彼女が幸せで居てくれたら、それでいい」


痛みを堪えるようにして、それでも懸命に微笑む彼が痛々しくて健気で。そんな風に深く想って貰える相手が少し羨ましくなった。これぞまさに、無償の愛と呼べるものではないだろうか!! 


 ……冷血皇帝の恋。それはあまりにも崇高で、神聖なまでに美しかった。


 フォルティーネは深く心を動かされた。私情を挟むのは鑑定をする上でマイナスになる事を知りつつ、彼の想い人に興味を覚えてしまう。


 「このような事を申し上げるのは烏滸がましいですが、陛下、素敵です。本当に素晴らしい事だと感じます。きっと、素敵な方なのでしょうね」


不敬に当たるかもしれないと思いつつも、感情が迸るままに言葉が流れ出てしまう。彼はそんなフォルティーネの言葉に意外そうに瞠目すると、はにかんだように笑った。


 「そうか? そう思って貰えるなら……」

「はい。もし宜しければ、その御方の出会いをお伺いしても?」


 満更嫌でも無さそうな彼の様子に安堵し、話に耳を傾けた。


「……あれは、俺が六歳、彼女が四歳の誕生日を迎える直前だった。初めて出会った彼女は、夜明けの花園の中に居たんだ。朝日を浴びて黄金色に輝く彼女の綿菓子みたいな髪がとても綺麗で。最初は『花の妖精』だと思ったんだ」


 暴君の語る秘めたる想い人の話は、清廉で純粋で。切ないまでに透明で麗しい物語のように静かに流れ、フォルティーネの胸に迫った。


 

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