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第十二話 冷血皇帝の打ち明け話は更に続く

 ……皇帝は《《綺麗に始末した》》との事、それの意味するところは、死罪。あたかも最初から何も無かったかのように《《抹消した》》のだ、と推測がつく。その『異世界から召喚した神力を持つ美少女』とやらは、表向きは強制的に異世界へと召喚し返した、とされているが……


 (真相を知りたいような、知らないままの方が良いような……だけどこれ以上は、聞かない方が身の為ね)


 そう直感した。


 だが、皇帝はそんなフォルティーネの感じた事を察したように笑みを浮かべた。一見、親しみ易そうなその微笑。けれども、その暗青色の双眸には何処か冷酷で嗜虐的な光を放っている。フォルティーネは戦慄した。まるで背中を中心に氷水をかけられたかのようだ。しかしさすがに、皇帝を前にそのような怯えを見せる訳にはいかない。


 「あの!」

「そうそう、その『異世界から召喚した神力を持つ美少女』とやらの末路なんだけども……」

「そ、そうだ! 良かったら何か占いますよ? ……」

「表向き、異世界に送り返したとされているが……」


 本能的にな危険を察知し、話題を変えようと試みた。だが彼は何も耳に届いてないかのように会話を続ける。そうなると、皇帝の話を遮るのは無礼千万。そのまま大人しく耳を傾ける事しか出来ない。


 「それは間違いではないんだ。だけど、異世界から召喚とか送り返すとか、虚構の物語世界では偶然、または儀式なんかで難なく出来るように描かれているが現実は違う。儀式を行う時期、時間帯、タイミング、呼吸、印結び、呪文、供え物等の一言一句に至るまで全て完璧に滞りなく行われないと成功しないんだ。非常に繊細な儀式だから、召喚される対象物少しはタイミングがズレただけで異空間と時空の狭間で切り取られたり、消滅したりする事は珍しい事ではない。だから、失敗して動植物が召喚される程度なら未だ良い。体の一部。場合によっては内臓の一部なんかがスプラッタ状態で召喚される事も少なくない。体の一部がスッパリ綺麗に切り取られている場合はマシだが、肉体や内臓の一部がズタズタに引き裂かれて召喚される場合もあるからな。ま、何にでもある『華やかな世界の裏側』ってヤツさ」


 彼はそこで言葉を切り、たっぷりと間を置く。何処となく嗜虐的な笑みを浮かべて。


 皇帝の言葉通りに、脳内に凄惨な場面が広がって行く。喉がカラカラに乾いて発声に支障をきたしそうだ。彼はフォルティーネの怯えている姿を楽しんでいるのだ。だが、ここは会話を広げるべきタイミングだ。小さく息を吸い込むと、声がしっかり仕事をしてくれる事を祈りつつ言葉を紡ぐ。


 「で、ではその……い、異世界から召喚された美少女とやらは、もしや……?」


僅かに舌がもつれ、どもってしまったが何とか台詞になった事に安堵する。皇帝は満足そうに微笑し、頷いた。


 「そう、お前の推測通りさ。故意に召喚術を失敗させた。まぁ、体の一部が切り取られたのかもぎ取られたのか、或いはミンチになったか……塵芥となって霧散したのか迄は知らんがな」


 ゾクリと背筋が寒くなり、全身に鳥肌が立つ。


(絶対に、この人の不興をかってはいけない!)


そう感じ取った。


 (でも、異世界の少女……こちらの悪魔崇拝集団が勝手に召喚して魅惑魅了が使えるように呪術をかけただけなのに、その処罰は厳し過ぎる気がするんだけど……)


 フォルティーネの疑問が伝わったかのように、皇帝は話を続けた。


「勿論、その少女に悪意が何もなくただ巻き込まれただけだというなら、極めて危険を伴う術ではあるが『時の神クロノス』の力を借りて、召喚する前の元の世界に戻してやったろうさ」

「え? という事は……」

「そういう事だ。その元の世界でのこの少女は、所謂裏社会のドンと呼ばれる男の一人娘でワガママ放題に育って。幼い内から少しでも気に入らないものには手下に命じて惨殺したり、肉欲に溺れた苛烈な性格の持ち主だったのさ。そういうヤツを厳選して召喚したらしいから当たり前といえばそうだが。そのまま元の世界に返しても害悪にしかならない、と判断した」

「……そうでしたか……」


 そうこたえるしか方法が無かった。しばらく、気不味い沈黙が場を支配した。皇帝が、ミントティーの入ったカップを手にし、喉を潤す。それに倣って、フォルティーネもミントティーで喉を潤した。


 皇帝はハッとしたように瞠目すると、身を乗り出した。どんな話が飛び出すのか若干身構えつつ、フォルティーネは姿勢を正す。


 「そうだ、占いがどうとか言ってたな?」


その台詞を意外に思いながら、笑みを浮かべて「はい」と朗らかにこたえる。フォルティーネとしては、今後仕事をして行く上で少しでも皇帝の機嫌を取りたいところだ。


 「あ、あのな……」


これはどうした事だろう? あれほど傲岸不遜だった彼が、心なしか頬を染め、視線をさ迷わせ言い淀んでいるではないか。


 (ははーん、これは恋の話ね! それも恐らく秘密の)


フォルティーネはピンと来た。それと同時に気分が高揚した。これは、腕の見せ所だ。何より、寸前まで全身を支配していた恐怖が消えて行くのが願ったり叶ったりの状態だ。


 (ここは正念場ね。今後の立場に左右するわ。ここでしくじれば……)


異空間と時空の狭間で肉塊となった己が脳裏に浮かび、身が竦む。理性を総動員させ、笑顔で彼を見つめる。


 「宜しければ、占わせて頂きますよ? お悩みの詳細をおっしゃって頂かなくても、『あの人の気持ちは?』とか、『今すべき事は?』等の簡単な質問でも占えますので」


 と出来るだけ気軽な感じで伝えた。……上手く出来た方だと、思う。多分、恐らく、きっと……


「うん、そうだな……あのな、その……」


 皇帝は頬を染めたまま、何かを逡巡している様子だ。


(うん、これはやっぱり気になる人がいるんだわ。状況的に見て、多分片想いじゃないかしら。へぇ? そうしていると未だ十代の少年みたいに見えるわ。言い出し易くなるように少し手助けしてあげよう)


 「どなたかのお気持ちでしょうか?」


 冷血皇帝、暴君。そんな異名を持つ彼の想い人に興味が湧いた。途端に、耳まで真っ赤に染まる皇帝。


(あらあら、意外に純情派なのかな?)


 微笑ましく思いながら、狼狽えている彼には全く気づかないようなふりをしつつ、傍らに置いていたバッグよりタロットカードを入れたポーチとタロットクロスを取り出した。

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