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第五話 (元)婚約者様、番様は何処へ?①

 執事長が言うには、エリアスは番と出会った事を丸ごと忘れてしまっているらしい。その間、何処で 何をしていたのかも覚えておらず、気付いたら邸の敷地内の果樹園に佇んでいたと語ったと言う。


 「そう、それで……お医者様と神官様には診せたの?」

「はい、勿論でございます。どちらの診断も、『原因不明の記憶喪失』との事でした。ただ、神官が言うには、『詳細については不明だが、僅かに魔術の形跡を感じた』と」


 エリアスは、今から凡そ六時間ほど前、突然邸に戻て来たらしい。その後身体を担当する医師とメンタルや呪術面を担当する神官の診察を受け自室で過ごしていたという。


「そう、わかったわ。原因不明の記憶喪失……ねぇ。何があったのか全て不明、というね……」

「それで……お会いになりますか? エリアス様はずっとお待ちではありますが、もしフォルティーネ様が……」


(こういう気遣い、我が家(リビアングラス侯爵家)の使用人では一度もされた事無かったからジーンと来ちゃうのよね。兄や姉には誠心誠意仕えている癖に。まぁ、私が平凡過ぎて尊敬される面が無かったから仕方ないけど)


 執事長の気遣いに軽く感動しつつ、フォルティーネは緩やかに口角を上げた。


「会うわ。どの道、直接会って話し合わないとどうしようもないものね。着替えて準備してから行くから、今から一時間半後に応接室で」

「承知致しました。そのように手筈を整えます」

「そうそう、番様の行方はどうなの?」

「はい、そちらも一族の影を使って総力をあげて調べております」

「有難う、抜かりないわね。さすがだわ」

「恐れ入ります。勿体ないお言葉にございます」


 そんな経緯を経て、入浴を済ませ、化粧と着替えを済ませる。美容担当の侍女三人に


「ビジネス用とまでいかなくて良いけど、それに準ずる感じのメイクと衣装でお願い」


と指示を出せば後はお任せだ。想像以上の仕上がりでいつも大満足だった。仕上がる迄の間、ただリラックスして彼女たちに任せれば良い。その間、思考を休ませて頭を空っぽにしたり、または心が赴くまま自由に夢想したり、或いは考え事をしてみたりして自由気ままに過ごしている。


 (あーぁ、婚約解消したらここは出て行かないといけないし。当たり前の事なんだけど、何だかエリアス様の番がここに住んで、行く行くは大公妃になるんだと思うと何だか癪に障るというか……どんな努力の積み重ねも《《宿命》》の前では無力っていうのを見せつけられるのって、空しいというか真面目に生きているのがつくづく阿保臭くなるというか……)


 お手入れを少しでも怠ると、あちこちクルクルと好き勝手な方向へ巻いてしまう髪を、侍女三人が真剣な眼差しでお手入れをしている。どうやらハーフアップにしてパールを髪にちりばめようとしているようだ。鏡越しに、彼女たちの汗の結晶を毎回有難いなと思いつつ眺めながら、ふと思う。


 (そうよね、よく聞いてみないと分からないけど。今は番の事を忘れているみたいだけど。再会したらどうせ《《宿命の力》》とやらで惹き合うんだろうし。迷う必要無いわ。それに、なんて言ったって、あの天下の皇帝陛下の『秘書官』の話もあるし。何も悪い事ばかりじゃないよね。……裏が有りそうで怖いけど、短期間で一人でも生きていけるお金を貯める事を目標にすればイケる! 気がする)


 「このような感じで如何でしょうか?」


侍女の声で、現実に立ち返る。堅めの職場的な雰囲気よりは砕けた感じで、これから初商談に向かう新人のような初々しい雰囲気だ。紺色のマーメイドラインのワンピースに白のレース襟がさり気なく可愛らしい。パールが編み込まれたハーフアップの髪は、すっきりと上品に仕上がっている。


 「有難う。毎回イメージしていた以上のものに仕上げてくれて嬉しいわ」


フォルティーネのその一言で、全てが報われたというように満面の笑みを浮かべる侍女たち。


 (このまま、ずっと仕えてくれたら良いのに……)


と、どうしても感じてしまう。同時に、この侍女たちはエリアスの番に仕える事になるのだという現実に遣る瀬無い気持ちが拭えない。


 控えめなドアノックの音が、戦いのゴングに聞こえた。執事長だ、時間が来たので迎えに来たのだろう。


 ……気が重い、血液が鉛に取って代わったみたいだ。それでも平静を装い、執事長と共に応接室へと足を運ぶ。先ずは彼の記憶喪失の状態把握と、何よりも番がどうなっているのかを探らなければならない。


 (本当に、何も覚えていないのかしら? 番と出会った事自体、記憶喪失だなんて。そんな都合の良いファンタジーな記憶喪失なんて本当にあるかしら? 僅かに、魔術の形跡があった、て話よね……)


 果たして、エリアスはどのような反応を見せるのだろうか?


「フォルティーネ! 本当に申し訳ないっ!!!」


 応接室に足を踏み入れるなり、沈痛な面持ちの彼が額を床につける勢いで頭を下げて来た。


「え? あの、エリアス?」


 フォルティーネが許可を出すまで頭を下げ続けるつもりでいるエリアスに、面食らった。予め用意して来た質疑応答の事も瞬時に真っ白になってしまった。


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