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再び集いし時

あれから十年が過ぎた。


美月は市役所の政策企画課で、地域振興の仕事に携わっていた。結婚して照井美月となった今も、市民のために働くという信念は変わらない。


「照井さん、お疲れさまでした」


同僚が声をかけてくる。もう夕方の六時を過ぎていた。


「お疲れさまです」美月は書類を整理しながら答えた。


今日も一日、地域の高齢化対策について検討していた。故郷の陽向市も例外ではなく、少子高齢化が進んでいる。でも、不思議と美月は諦めることができなかった。この街には、特別な力があると信じているから。


家に帰ると、陽斗が夕食の準備をしていた。


「お疲れさま、美月」陽斗は太陽のような笑顔で迎えてくれた。「今日はどうだった?」


「お疲れさま。今日もいろいろあったけど、充実してたわ」美月は陽斗にキスをした。


陽斗は地元の陽向小学校で教師をしている。子どもたちからは「太陽先生」と慕われていた。その明るさで、多くの子どもたちの心を照らしている。


「そういえば、明日から三連休だね」陽斗が言った。


「そうね。久しぶりにゆっくりできそう」


その時、テレビのニュースが緊急速報を伝えた。


『関東地方で大規模な地震が発生しました。震度6強、マグニチュード7.2...』


美月と陽斗は画面に釘付けになった。震源地は隣県だが、故郷の陽向市にも大きな影響があるだろう。


「美月...」陽斗が振り返る。


「私たち、帰らなきゃ」美月も同じことを考えていた。


それは理屈ではなく、魂の奥底からの衝動だった。故郷が危機に瀕している今、自分たちがいるべき場所は決まっている。


同じ頃、福岡県警で勤務していた颯太も、ニュースを見て同じ想いに駆られていた。


「嵐山、お前の故郷は大丈夫か?」同僚が心配してくれる。


「分からないが...すぐに帰る」颯太は有給休暇の申請書を書いた。「故郷に帰らなければならない」


颯太は警察官として正義を貫いてきた。須佐之男命としての本質である「悪を退治し、弱者を守る」精神で、多くの事件を解決してきた。今も、その力が故郷で必要とされている気がした。


大阪で起業家として成功していた豊も、テレビを見て即座に決断した。


「すみません、緊急事態で故郷に帰らなければなりません」豊は秘書に連絡した。「投資的観点から言うと...いえ、今は理屈じゃありません。必要なんです」


豊は稲荷神として、人々の繁栄と豊かさを支える仕事をしてきた。今度は故郷の復興支援で、その力を発揮する時だ。


一方、京都で弓道の指導者をしていた明も、同じ衝動を感じていた。


「先生、どうされたんですか?」弟子が心配する。


「故郷で大地震があったんです」明は弓を置いた。「すぐに帰らなければ...」


明は春日神として、平和と調和をもたらす使命を果たしてきた。青少年の心の教育に携わる中で、多くの若者を導いてきた。今、その経験が故郷で必要になる。


翌朝、五人は偶然にも同じ電車で故郷に向かっていた。


「美月?」


「颯太君?」


新幹線のホームで、美月と陽斗は颯太と出会った。十年ぶりの再会だったが、まるで昨日別れたばかりのような感覚だった。


「おお、みんな同じ考えだったんだな」颯太は苦笑いした。「なんか、帰らなきゃって思ったんだ」


「私たちも同じよ」美月が答えた。


電車の中で、三人は互いの近況を報告し合った。それぞれが違う道を歩んでいたが、根本的な部分は変わっていなかった。


「豊君と明さんはどうしてるかしら?」美月が心配した。


「大丈夫だよ」陽斗が言った。「きっと同じことを考えてる」


陽向市に到着すると、駅は避難者で溢れていた。建物の一部が損壊し、多くの人が不安そうな表情を浮かべている。


「想像以上に被害が大きいな」颯太が周りを見回した。


その時、駅前の避難所設営を手伝っている人影が見えた。


「あれは...豊君?」美月が指差した。


豊は避難所の物資管理を手伝っていた。眼鏡をクイッと上げながら、効率的に作業を進めている。


「投資的観点から言うと、物資の配分は計画的に行う必要があります」豊が避難所のスタッフに説明している。


「豊!」陽斗が声をかけた。


「陽斗?美月?颯太まで?」豊は驚いた。「みんな、やっぱり帰ってきたんですね」


「明さんは?」美月が尋ねる。


「あそこで高齢者の世話をしてます」豊が指差した方向を見ると、明が年配の方々に寄り添って話をしていた。


五人は揃って再会した。こうして五人で何かに取り組むのは高校生以来だった。髪型や服装は変わっていたが、その本質は少しも変わっていない。


「みんな...」美月が感慨深く呟いた。


「懐かしいな」颯太も微笑んだ。


「こうして五人で集まるなんて久しぶりですね」明が駆け寄ってきた。「でも、なぜかこうなる気がしてました」


避難所は混乱していた。物資が不足し、高齢者や子どもたちが不安を抱えている。行政の対応も追いついていない状況だった。


「みんな、手伝おう」美月が提案した。


「当然だ」颯太が頷いた。


五人はそれぞれの得意分野で避難所の運営を支援し始めた。


美月は行政経験を活かして避難所全体の統括を担当し、陽斗は子どもたちの心のケアを、颯太は危険地域の安全確認を、豊は物資の調達と配分を、明は高齢者の介護を担当した。


「照井さん、助かります」避難所の責任者が美月に感謝した。「経験豊富な方がいてくださって」


「いえ、私たちにとっても大切な故郷ですから」美月が答える。


三日間、五人は休む間もなく働き続けた。不思議なことに、疲れをあまり感じなかった。まるで、この活動こそが自分たちの本来の姿であるかのように。


三日目の午後、美月は避難所の一角で子どもたちの声が聞こえることに気づいた。楽しそうな笑い声が響いている。


「何かしら?」美月が近づいてみると、子どもたちが円になって座り、一人の女性が絵を教えていた。


女性は長い黒髪を後ろで束ね、落ち着いた雰囲気を纏っている。子どもたちに優しく語りかけながら、色鉛筆で絵を描いている。


「みんな、好きな色を使って、楽しかった思い出を描いてみて」女性が優しく言った。


美月はその声に聞き覚えがあった。まさか...


女性が振り返った瞬間、美月は息を呑んだ。


「麗奈さん?」


「美月さん?」麗奈も驚いた表情を見せた。「どうしてここに...」


「私こそ、麗奈さんがどうして...」


二人は10年ぶりの再会に、しばらく言葉を失っていた。


「美月お姉さん、知ってる人?」子どもの一人が尋ねた。


「ええ、高校時代の同級生よ」美月が微笑んで答えた。


麗奈は立ち上がって、美月に近づいた。


「信じられない...こんなところで再会するなんて」麗奈が感慨深く言った。


「麗奈さん、どうしてここに?確か美術の道に進まれたって聞いてましたが...」


「今はニューヨークで画家をしてるの」麗奈が説明した。「でも、ニュースで故郷の災害を見て、居てもたってもいられなくて」


「そうだったんですね...」


「子どもたちの心のケアができればと思って、絵画療法のボランティアを申し出たの」麗奈は子どもたちを見回した。「絵を描くことで、少しでも心が軽くなればいいなって」


美月は麗奈の優しさに改めて感動した。


「素晴らしいことですね。子どもたちもとても楽しそうです」


その時、陽斗が子どもたちの笑い声に気づいて近づいてきた。


「美月、どうし...」陽斗は麗奈を見て驚いた。「厳島さん?」


「照井君...」麗奈も少し緊張した表情を見せたが、すぐに微笑んだ。「お久しぶりです」


「本当に久しぶりだね。元気だった?」陽斗も自然に微笑み返した。


この10年間で、お互いに成長し、それぞれの道を歩んできた。高校時代の複雑な関係も、今では懐かしい思い出になっていた。


「照井君も美月さんも、変わりませんね」麗奈が嬉しそうに言った。「お二人、結婚されたって聞きました。おめでとうございます」


「ありがとう」陽斗と美月が同時に答えた。


その時、颯太、豊、明も子どもたちの様子を見に来た。


「おお、これは賑やかだな」颯太が言いかけて、麗奈を見て驚いた。「厳島...?」


「嵐山君、稲荷井君、春日君も」麗奈が懐かしそうに微笑んだ。「皆さん、お久しぶりです」


「投資的観点から言うと...いえ、こんなところで再会するなんて運命的ですね」豊が眼鏡をクイッと上げた。


「皆さんがここにいらっしゃるということは、きっと意味があるんでしょうね」明が感慨深く言った。


麗奈は5人が揃っているのを見て、不思議な感覚に包まれた。まるで、この再会が偶然ではないような...


「麗奈さん」美月が尋ねた。「もしよろしければ、私たちと一緒に活動しませんか?」


麗奈の顔が明るくなった。「ぜひお願いします」


そして四日目の夜、大きな余震が発生した。


避難所の建物が大きく揺れ、停電になった。人々がパニックになりかけた時、五人は自然と手を繋いだ。


その瞬間、十年前と同じ温かい光が五人を包んだ。


光は避難所全体に広がり、人々の不安を和らげていく。子どもたちは泣き止み、高齢者の表情も穏やかになった。


麗奈はその光景を目の当たりにして、言葉を失った。そして、自分の手からも薄い虹色の光が漏れ出していることに気づいた。


「これは...」避難所の責任者が驚く。


光は数分間続いた後、静かに消えていった。でも、避難所の空気は明らかに変わっていた。希望に満ちた、温かい雰囲気に包まれている。


「みんな」美月が振り返った。「私たち、やっぱり特別な存在なのね」


「ああ」陽斗が頷いた。「でも、今はそれを受け入れられる」


「十年前より、ずっと自然に感じるな」颯太も同意した。


「投資的観点から言うと、この力は正しく使われるべきです」豊が眼鏡をクイッと上げた。


「僕たちの使命は、人々を守り、支えることなんですね」明が確信を込めて言った。


麗奈は自分の手を見つめていた。まだ薄っすらと虹色の光が残っている。


「私にも...力が?」麗奈が驚いて呟いた。


「麗奈さんも、私たちと同じなのかもしれませんね」美月が優しく言った。


「市杵島姫命...美と芸術の神」明が気づいたように言った。「麗奈さんの名前と、美術への才能...偶然ではないんですね」


麗奈は涙ぐんだ。自分もこの特別な仲間の一員だったということに、深い感動を覚えた。


一週間後、避難所の状況は大幅に改善されていた。六人の献身的な働きにより、物資の配給も順調になり、避難者の心のケアも行き届いている。


「みんな、本当にありがとうございました」避難所の責任者が深くお辞儀した。「皆さんがいなかったら、こんなにスムーズにはいかなかったでしょう」


六人は故郷の山が見える場所に集まっていた。高校時代によく来た思い出の場所だ。


「十年ぶりにみんなで来たね」陽斗が感慨深く言った。


「麗奈さんも一緒で、より完全になった気がします」美月が微笑んだ。


「俺たちの絆も、使命も」颯太が空を見上げた。


「でも、今の方が自分たちの役割を理解してる」豊が分析した。


「はい。今回のことで、改めて確信できました」明が頷いた。


「私も仲間に入れていただいて、ありがとうございます」麗奈が感謝した。


美月は仲間たちを見回した。それぞれが異なる人生を歩んできたが、根本的な部分では何も変わっていない。むしろ、経験を積んだことで、より深い絆で結ばれている。


「これからも、私たちはそれぞれの場所で頑張ろう」美月が言った。「でも、本当に必要な時は、また集まりましょう」


「もちろん」五人が同時に答えた。


「美月」陽斗が妻の手を握った。「君と結婚して本当によかった」


「私もよ」美月は陽斗の手を握り返した。「一緒にいれば、どんなことでも乗り越えられる」


颯太が少し照れながら言った。「俺も、お前らが幸せそうで嬉しいよ」


「颯太君も、きっと素敵な人に出会えるわ」美月が励ました。


「まあ、焦る必要はないさ」颯太は笑った。


豊が眼鏡をクイッと上げた。「投資的観点から言うと、真の価値は時間をかけて見つかるものですからね」


「豊君、まだその口癖続けてるのね」美月が笑った。


「これは僕のアイデンティティですから」豊も笑い返した。


明が真剣な表情で言った。「僕は皆さんと出会えて、本当に良かったです。これからも、皆さんを支えていきたい」


「明ちゃんも立派になったわね」美月が感動した。


その時、避難所の入り口から金髪の男性が現れた。絵の具の汚れた作業着を着て、子どもたちの作品を持っている。


「Reina, how are the kids doing?」男性が英語で声をかけてきた。


「Michael!」麗奈が嬉しそうに手を振った。「Come here, I'd like you to meet my old friends from high school.」


マイケルと呼ばれた男性が近づいてくる。背が高く、優しそうな笑顔を浮かべている。


「皆さん、紹介させてください」麗奈が日本語に戻った。「私のパートナーのマイケルです。彼も画家で、今回一緒にボランティアに参加してくれています」


「Nice to meet you all. I'm Michael」マイケルが流暢ではないが、日本語で挨拶した。「麗奈からhigh school friendsのこと、たくさん聞いています」


「こちらこそ、はじめまして」美月が代表して答えた。「麗奈さんを支えてくださって、ありがとうございます」


「彼はとても理解のある人で」麗奈が嬉しそうに説明した。「私が故郷の災害のことを心配していたら、一緒に来ようって言ってくれたの」


夕日が山の向こうに沈んでいく。六人は並んで、その美しい光景を見つめていた。


高校生だった頃から十年。それぞれが成長し、社会で役割を果たしながら、神々としての使命も自然に果たしている。


「また会おうね」美月が言った。


「もちろん」みんなが答えた。


六人は最後にもう一度手を重ね合わせた。温かい光が再び六人を包み、その光は夕日と溶け合って、美しい輝きを放った。


神々として覚醒した六人は、もう迷いはなかった。それぞれの人生を歩みながら、必要な時には必ず集まる。人々を守り、支え、導いていく。


それが、彼らに与えられた使命であり、同時に最大の喜びでもあった。


故郷の空に星が瞬き始めた頃、六人はそれぞれの日常に戻っていった。でも、心は永遠に繋がっている。


神々の絆は、時間も距離も超越していた。

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