修学旅行・大阪
関西修学旅行の最終日。
京都の旅館で朝食を終えた5人は、ロビーに集まって今日の予定を相談していた。昨夜の陽斗と美月の告白の余韻が残る中、みんな少し複雑な気持ちを抱えながらも、最後の一日を楽しもうとしていた。
「今日はどこに行こうか?」陽斗が地図を広げながら尋ねた。いつもの明るい笑顔だが、昨夜のことを思い出してか、時々美月を見つめている。
美月も少し照れながら地図を覗き込んだ。「大阪城は行ってみたいですね」
「投資的観点から言うと、大阪は商業の街ですから、道頓堀の活気も体験すべきでしょう」豊が眼鏡をクイッと上げた。
颯太は窓の外を見ながら呟いた。「大阪か...賑やかな街だからな」
明は少し遠慮がちに言った。「僕は皆さんに合わせます。でも、せっかくなので大阪の名所を回れたらいいですね」
旅館をチェックアウトした5人は、京都駅から大阪に向かう電車に乗り込んだ。車窓から流れる関西の風景を眺めながら、それぞれが今回の修学旅行を振り返っていた。
4人掛けのボックスシートに美月、陽斗、颯太、豊が座り、明は隣の席に座っていた。美月と陽斗は昨夜のことを思い出して、時々目が合うと照れてしまう。
「美月さん、顔が赤いですよ?」明が心配そうに尋ねた。
「え?あ、電車が暖かくて...」美月は慌てて答えた。
颯太はその様子を見ていて、何かを察したようだった。でも、何も言わずに窓の外を見つめている。
豊も美月と陽斗の微妙な変化を感じ取っていた。「何か昨夜、進展でもあったのかな?」と心の中で思いながらも、表面上は普通に振る舞っていた。
大阪に到着すると、まず大阪城に向かった。
「すごく立派なお城ですね」美月が感嘆の声を上げた。
「昔の偉い人が築いたお城なんだよね」陽斗が説明した。
「戦国時代の話か...」颯太が興味深そうに天守閣を見上げた。「昔の武将たちも、この景色を見てたのかな」
明は城内の展示を真剣に見ていた。「歴史って面白いですね。昔の人たちの生き方が、今の僕たちにも通じるものがあります」
天守閣から大阪の街を見下ろしながら、美月は昨夜のことを思い出していた。陽斗に自分の気持ちを伝えたこと、でも颯太への想いも整理しなければならないこと。
「美月、どうかした?」陽斗が心配そうに近づいてきた。
「いえ、景色がきれいで...」美月は微笑んだ。
「君と一緒だと、どんな景色も特別に見えるよ」陽斗が小さく呟いた。
美月の頬が赤くなった。昨夜告白し合ったとはいえ、まだ恥ずかしさが残っている。
颯太はその様子を見ていて、やはり何かがあったのだと確信した。でも、美月の幸せを願う気持ちもあり、複雑な心境だった。
昼食は道頓堀で取ることになった。
「うわあ、すごい人だね」明が驚いていた。
「これが大阪の名物、たこ焼きですね」豊が説明した。「投資的観点から言うと、この賑わいは経済効果が相当なものでしょう」
「豊君、今日は投資理論は少し控えめにしない?」美月が苦笑いした。
「あ、すみません」豊は照れながら眼鏡をクイッと上げた。
たこ焼き屋の前で5人は並んで待っていた。お店のおじさんが関西弁で話しかけてくる。
「学生さんたちかい?修学旅行?」
「はい、そうです」陽斗が答えた。
「ええなあ、青春やなあ。たこ焼き、美味しく作ったるわ」
出来立てのたこ焼きを頬張りながら、みんなで道頓堀の賑やかな雰囲気を楽しんだ。
「熱い!」明が慌てて水を飲んだ。
「明ちゃん、急いで食べちゃダメだよ」陽斗が笑いながら注意した。
美月は陽斗の優しい一面を見て、改めて彼への気持ちを実感していた。
午後は心斎橋を散策することになった。
「せっかくだから、お土産を買いましょう」美月が提案した。
「そうだね。家族に何か買って帰ろう」陽斗が同意した。
5人はそれぞれ別々に買い物をすることになった。美月と陽斗は自然と一緒に行動していたが、明が「僕も一緒に回らせてください」と加わった。
「明ちゃんは何を買うの?」陽斗が尋ねた。
「弓道部のみんなにお菓子を買って帰ろうと思います」明が答えた。「あと、お母さんにも何か...」
「優しいね、明ちゃんは」美月が感心した。
「美月さんこそ、いつもみんなのことを考えてくださってます」明は照れながら答えた。
一方、颯太と豊は別の店を回っていた。
「稲荷井、お前気づいてるだろ?」颯太が突然口を開いた。
「何をですか?」豊は眼鏡をクイッと上げた。
「美月と陽斗のこと。昨夜、何かあったんじゃないか?」
豊は少し考えてから答えた。「投資的観点から言うと...いえ、普通に考えても、お二人の関係に進展があったようですね」
「やっぱりか」颯太は複雑な表情をした。
「嵐山君は...大丈夫ですか?」豊が心配そうに尋ねた。
「大丈夫って何がだよ」颯太は苦笑いした。「まあ、予想してたことだしな」
「でも、辛いでしょう?」
颯太は少し黙ってから答えた。「辛くないといえば嘘だ。でも、美月が幸せならそれでいい」
豊は颯太の言葉に、自分と同じような気持ちを感じ取った。
「僕も同じ気持ちです」豊が静かに言った。「美月の幸せが一番大切ですから」
「お前もか...」颯太は豊を見直した。「意外と男らしいじゃないか」
「嵐山君もです。最初はちょっと怖い人だと思ってましたが」豊は苦笑いした。
二人は意外な連帯感を感じながら、お土産選びを続けた。
夕方近く、5人は再び合流して大阪駅に向かった。
「楽しかったですね」明が満足そうに言った。
「うん。最後の日にいい思い出ができた」陽斗が答えた。
美月は今回の修学旅行を振り返っていた。奈良での明の特別な体験、京都での自分の覚醒体験、そして陽斗との想いの確認。どれも忘れられない思い出になった。
「みなさん、この三日間ありがとうございました」明が丁寧にお辞儀した。「とても楽しかったです」
「明ちゃんがいてくれて、僕たちも楽しかったよ」陽斗が答えた。
「そうですね。春日さんがいてくれて良かったです」美月も同意した。
豊は分析的に言った。「投資的観点から言うと、今回の修学旅行は全員にとって価値のある経験でした」
「豊君、最後まで投資理論だね」美月が笑った。
颯太も笑いながら言った。「でも、今回は稲荷井の分析が当たってるかもな」
電車の中で、美月は窓の外を見ながら考えていた。
修学旅行で自分の気持ちがはっきりした。陽斗への想いは確かなものだ。でも、颯太への気持ちもまだ完全に整理できていない。
そして、豊の気持ちにも向き合わなければならない。彼はいつも自分のことを支えてくれているのに、その想いに応えられない自分が申し訳なかった。
「美月さん、大丈夫ですか?」明が心配そうに声をかけてきた。
「ええ、大丈夫です。ちょっと疲れちゃって」美月は微笑んだ。
「今回の修学旅行で、僕も色々なことを学びました」明が続けた。「特に、自分の役割について考えるようになりました」
「役割?」
「はい。僕は自分なりに、みんなを支えていく役割があるのかなって」明は真剣な表情で言った。「美月さんや照井先輩の幸せのために、僕にできることをしたいんです」
美月は明の真っ直ぐな気持ちに感動した。「春日さん、ありがとう」
一方、陽斗は颯太の隣に座っていた。
「颯太」陽斗が小さく声をかけた。
「何だ?」
「美月のこと...」陽斗が言いかけると、颯太が手を上げた。
「分かってる。お前たち、昨夜何かあったんだろ?」
陽斗は驚いた。「どうして分かるの?」
「見てれば分かるよ。お前たちの雰囲気が変わってる」颯太は苦笑いした。
「颯太...ごめん」陽斗が謝ろうとすると、颯太が首を振った。
「謝ることじゃない。美月が選んだのはお前だってことだろ?」
「まだ完全に決まったわけじゃ...」
「でも、お前への気持ちは確かなんだろ?」颯太が尋ねた。
陽斗は頷いた。
「なら、それでいい」颯太は窓の外を見た。「俺は美月の幸せを願ってる。お前がそれを叶えてくれるなら、俺は何も言わない」
「颯太...」
「ただし」颯太は陽斗を見つめた。「俺は昔お前を裏切った。お前にはそんなことをしてほしくない。美月を泣かせたら、その時はお前を許さない」
陽斗は颯太の友情を感じて、胸が熱くなった。「ありがとう、颯太」
学校に戻る途中、5人は今回の修学旅行について語り合った。
「いい旅行だったね」陽斗が言った。
「そうですね。みんなで行けて良かったです」美月が答えた。
「僕も勉強になりました」明が続けた。「特に、歴史の重みを肌で感じることができました」
豊は眼鏡をクイッと上げながら言った。「投資的観点から言うと、今回の経験は将来への大きな資産となりそうです」
颯太も頷いた。「俺も色々考えさせられたよ。友情とか、想いとか...」
5人はそれぞれ違う思いを抱えながらも、この修学旅行が特別な思い出になったことは共通していた。
学校に着いて解散する時、美月は陽斗と少し距離を置いて歩いていた。まだ恥ずかしさが残っているのと、みんなの前で特別な関係を見せるのは気が引けたからだ。
「美月」豊が声をかけてきた。
「豊君?」
「今回の修学旅行で、美月は何か変わったね」豊は優しく微笑んだ。「いい変化だと思う」
美月は豊の言葉に、彼が自分の気持ちの変化を察していることを感じ取った。
「豊君...」
「大丈夫、心配しないで」豊は手を振った。「美月の幸せが一番大切だから」
そう言って豊は先に帰って行った。美月は豊の後ろ姿を見送りながら、改めて彼の優しさを実感していた。
「美月」今度は陽斗が声をかけてきた。
「照井君」
「明日からまた学校だね」陽斗が言った。
「そうですね...」
「その...昨夜のことは、無理しなくていいからね」陽斗は優しく言った。「美月のペースで」
美月は陽斗の気遣いに心を動かされた。「ありがとうございます」
颯太と明も「お疲れさま」と声をかけて帰って行った。
家に着いた美月は、自分の部屋で今回の修学旅行を振り返っていた。
奈良、京都、大阪。それぞれの場所で感じた特別な体験。特に京都の月読神社での不思議な感覚は、今でも鮮明に覚えている。
そして、陽斗への想いを確認できたこと。でも、まだ整理しなければならない気持ちもある。
窓の外を見ると、今夜も美しい月が輝いている。
(お月様、修学旅行で色々なことがありました。私の気持ちも、少しずつはっきりしてきています。でも、まだ時間が必要です)
美月は月に向かってそう呟いた。
明日からまた日常が始まる。でも、今回の修学旅行で得たものを大切にしながら、自分の気持ちと向き合っていこうと思った。
関西修学旅行は終わったが、美月たちの青春はまだまだ続いていく。