表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/24

中間試験の攻防

十月の下旬、紅葉狩りから一週間が経ち、陽向学園では中間試験が近づいていた。


美月は図書館で試験勉強をしていた。いつものように完璧な計画を立てて、各科目の対策を進めている。でも今日は、なぜか集中できずにいた。


先週の高尾山での出来事が頭から離れないのだ。陽斗と手を繋いだ瞬間のドキドキ、そして麗奈の複雑そうな表情...


「美月、お疲れさま」


振り返ると、陽斗が参考書を抱えて立っていた。


「照井君、勉強?」


「うん。でも数学が全然分からなくて...」陽斗は困ったような表情をした。「美月は数学得意でしょ?」


「まあ、そこそこは...」


「よかったら、教えてもらえない?」陽斗が遠慮がちに尋ねた。


美月の胸がドキドキした。二人で勉強するなんて、まるでデートみたいで恥ずかしい。


「い、いいですよ」


陽斗は嬉しそうに美月の隣に座った。参考書を開いて、分からない問題を指差す。


「この三角関数の問題なんだけど...」


美月は陽斗に寄り添うようにして、問題を見た。陽斗の香りが近くに感じられて、心臓がバクバクする。


「えーっと、まずはこの公式を使って...」


美月が丁寧に説明すると、陽斗は真剣に聞いていた。時々「なるほど」「そういうことか」と相槌を打ちながら、熱心にメモを取っている。


「美月の説明、すごく分かりやすいよ」陽斗が感心した。「先生になれるんじゃない?」


「そんな...」美月は照れながら答えた。


「本当だよ。美月に教えてもらうと、難しい問題も楽しく感じる」


美月の頬が赤くなった。陽斗にそんな風に言われると、とても嬉しくなってしまう。


その時、図書館の入り口から颯太が現れた。いつものように着崩した制服姿で、手には英語の参考書を持っている。


颯太は美月と陽斗が並んで勉強している姿を見て、少し複雑な表情を見せた。


「よお、勉強中か」颯太が近づいてきた。


「颯太君」美月が振り返る。


「勉強熱心だな、お前ら」颯太は参考書を机に置いた。「俺も混ぜてくれよ」


「もちろん」陽斗が答えた。「颯太は何が苦手?」


「英語だ」颯太は苦笑いした。「長文読解が全然ダメで」


美月は颯太も加わって、三人で勉強することになった。不思議と気まずい雰囲気はなく、みんなで教え合いながら勉強を進めていく。


「颯太君、意外と古文が得意なのね」美月が驚く。


「まあな。昔の言葉遣いの方が、なんか分かりやすいんだ」颯太は照れながら答えた。


「僕は古文が苦手なんだ」陽斗が言った。「教えてくれる?」


「いいぜ」颯太は陽斗の参考書を見た。「この問題か...」


颯太が古文を説明している様子を見て、美月は新鮮な驚きを感じた。普段は不良っぽい颯太が、こんなに真面目に勉強している姿は意外だった。


「颯太の説明も分かりやすいね」陽斗が感心した。


「お前に言われると照れるな」颯太は頭を掻いた。


三人で勉強していると、あっという間に時間が過ぎていた。


「もうこんな時間か」美月が時計を見た。


「今日はありがとう、美月」陽斗が感謝した。「おかげで数学が理解できたよ」


「颯太君の古文の説明も、とても分かりやすかったです」美月が言うと、颯太は少し照れた。


「また明日も勉強しようか?」陽斗が提案した。


「いいね」颯太も同意した。


美月は頷いた。三人で勉強するのは、思ったより楽しかった。


翌日、三人は再び図書館に集まった。今度は豊も加わっていた。


「豊君も?」美月が驚く。


「投資的観点から言うと、優秀な人たちと勉強した方が効率的です」豊は眼鏡をクイッと上げた。「それに、美月と一緒だと集中できるしね」


美月は豊の本音を察して、少し申し訳ない気持ちになった。


四人で勉強していると、今度は明もやってきた。


「先輩方、失礼します」明が丁寧にお辞儀した。「僕も一緒に勉強させていただけませんか?」


「もちろん」陽斗が答えた。「明ちゃんも試験?」


「はい。特に英語が苦手で...」


「英語なら俺も苦手だ」颯太が笑った。「一緒に頑張ろうぜ」


こうして、五人の勉強会が始まった。


美月は中心になって各科目の勉強計画を立て、得意な科目を教えていく。陽斗は数学と理科、颯太は古文と現代文、豊は社会科、明は体育の実技以外は全般的に優秀だった。


「明ちゃん、1年生なのにすごいね」陽斗が感心した。


「照井先輩に褒められると嬉しいです」明は顔を赤らめた。


豊は明の様子を見て、少し複雑な表情をした。


「どうしたの、豊君?」美月が気づく。


「いや、何でもない」豊は眼鏡をクイッと上げた。「ただ、みんなそれぞれ色々抱えてるんだなって思って」


「豊君、そういう分析はやめなさい」美月が慌てて止めた。


一週間後、ついに中間試験が始まった。


美月はいつものように完璧な準備をしていたが、なぜか今回は緊張していた。陽斗や颯太の成績が気になってしまうのだ。


「頑張ろうね」陽斗が試験前に声をかけてくれた。


「照井君も頑張って」美月は微笑んだ。


颯太も「お前らなら大丈夫だ」と励ましてくれた。


試験は三日間にわたって行われた。美月は順調に問題を解いていたが、時々陽斗や颯太のことを考えてしまう。


特に数学の試験では、自分が教えた問題が出題されているのを見つけて、陽斗が解けているかどうか心配になった。


試験が終わった後、五人は中庭で結果について話し合った。


「数学、美月に教えてもらった問題が出た!」陽斗が嬉しそうに言った。


「本当?よかった」美月はホッとした。


「古文も颯太に教えてもらったところが出たよ」陽斗は颯太に感謝した。


「お互い様だ」颯太は照れながら答えた。「お前の理科の説明も役に立ったしな」


豊は満足そうに言った。「勉強会の効果が出たね。投資的観点から言うと、大成功です」


明も嬉しそうだった。「先輩方のおかげで、英語がよくできました」


一週間後、試験結果が発表された。


美月は今回も学年1位だったが、驚いたのは他のメンバーの成績だった。


陽斗は数学で90点を取り、前回より20点もアップしていた。颯太も英語で80点を取り、大幅に成績を上げている。豊と明も、それぞれ苦手科目で良い結果を出していた。


「みんな、すごく成績が上がってるじゃない」美月が感心した。


「美月のおかげだよ」陽斗が感謝した。


「みんなで勉強したからだよ」颯太も同意した。


豊は分析的に言った。「勉強会の相乗効果ですね。一人で勉強するより、効率的でした」


明は嬉しそうに跳び上がった。「また今度も一緒に勉強しましょう」


放課後、美月は陽斗と二人で帰り道を歩いていた。


「今回の試験、楽しかったね」陽斗が言った。


「楽しかった?」美月が首をかしげる。


「うん。みんなで一緒に勉強して、お互いに教え合って」陽斗は笑顔で続けた。「美月がいてくれたから、勉強も楽しくなった」


美月の胸が温かくなった。「私も楽しかったです」


「美月は本当にすごいよ」陽斗は真剣な表情になった。「勉強もできるし、みんなをまとめるのも上手だし」


「そんなことないです」


「本当だよ。僕、美月と一緒にいると、もっと頑張ろうって思えるんだ」


美月は陽斗の言葉に心を動かされた。陽斗といると、自分も前向きになれる気がする。


「照井君...」美月が口を開きかけた時、後ろから声がかかった。


「美月、陽斗」


振り返ると、颯太が立っていた。


「颯太君」


「今回はありがとうな、二人とも」颯太は素直に感謝した。「おかげで成績が上がったよ」


「颯太君の古文の説明も、とても分かりやすかったです」美月が答えた。


「そうそう、颯太の教え方は上手だった」陽斗も同意した。


颯太は少し照れながら言った。「お前らと勉強してて思ったんだ。こうやって一緒に頑張るのも悪くないなって」


美月は颯太の素直な一面を見て、改めて彼の魅力を感じた。不器用だけれど、本当は優しい人なのだ。


「また今度も一緒に勉強しようね」陽斗が提案した。


「ああ」颯太は頷いた。「でも次は、俺ももっと美月の役に立ちたいな」


美月は二人を見比べた。どちらも素敵だった。陽斗の前向きで明るい優しさ、颯太の不器用だけれど真っ直ぐな想い。


でも、最近は陽斗といる時間が一番心地よく感じられる。一緒に勉強していても、自然に笑顔になれるし、彼の頑張る姿を見ていると応援したくなる。


(これが恋愛感情なのかな...)


美月は自分の気持ちが、少しずつはっきりしてくるのを感じていた。


その夜、美月は自分の部屋で今回の試験のことを振り返っていた。


みんなで一緒に勉強したのは楽しかったし、みんなの成績が上がったのも嬉しかった。でも一番印象に残っているのは、陽斗の嬉しそうな笑顔だった。


数学の問題が解けた時、試験結果が良かった時、陽斗の笑顔はいつも太陽のように明るくて、見ているだけで幸せな気持ちになった。


窓の外を見ると、今夜は満月が美しく輝いている。


(お月様...陽斗君への気持ちは確かになってきました。でも、颯太君への想いも整理しなければ。そして、自分の本当の気持ちを確かめる時が来ているような気がします)


美月は心の中でそう呟いた。来月の修学旅行で、きっと何かが変わるような予感がしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ