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秋の紅葉狩り

十月の半ば、陽向学園では中間試験も終わり、生徒たちにはほっと一息つける時間ができていた。


美月は生徒会室で書類整理をしていたが、なぜか今日は集中できずにいた。窓の外を見ると、校庭の木々が少しずつ色づき始めている。


「美月、お疲れさま」


振り返ると、陽斗が現れた。


「照井君、お疲れさまです」


「今度の休日、みんなで紅葉を見に行かない?」陽斗が提案した。「せっかくいい季節だし」


美月の心がぱっと明るくなった。「いいですね。どこに行くんですか?」


「高尾山はどうかな?紅葉がきれいだって聞いたことがあるんだ」


その時、生徒会室のドアが開いて颯太が入ってきた。


「よお、何の相談だ?」


「紅葉狩りの話をしてたんだ」陽斗が説明した。


「紅葉か...悪くないな」颯太は窓の外を見た。「俺も行くぜ」


「豊君と春日さんも誘いましょう」美月が提案した。


「あと、厳島さんも誘ってみない?」陽斗が続けた。「美術部の人だから、紅葉の風景とか喜びそうだし」


「そうですね。照井君から声をかけてもらえますか?」


「分かった。明日、厳島さんに連絡してみるよ」


こうして、休日の紅葉狩りが決まった。


当日の朝、高尾山口駅で待ち合わせた6人。私服姿のみんなは、いつもより気分も軽やかだった。


「おはよう、美月」豊が手を振ってきた。


「豊君、おはよう」


「投資的観点から言うと、紅葉の時期の高尾山は観光価値が最高ですね」


「豊君、今日は投資理論は忘れて楽しもうよ」美月が苦笑いした。


「おはようございます」


少し遅れて麗奈も到着した。スケッチブックとイーゼルを持っている。陽斗以外のメンバーを見て、少し驚いたような表情を見せた。


「厳島さん、おはよう」美月が手を振った。


「あ、おはようございます」麗奈は戸惑いながらお辞儀した。「皆さんもいらっしゃるんですね...」


「うん、みんなで紅葉を見に行こうって話になったんだ」陽斗が説明した。「厳島さんも美術部の課題があるって言ってたから、ちょうどよかったよね」


麗奈は少し複雑な表情をしたが、すぐに笑顔になった。「はい、ありがとうございます。皆さんとご一緒できて嬉しいです」


「もちろん」陽斗が快く答えた。「みんなで行った方が楽しいよ」


「ありがとうございます」麗奈は嬉しそうに微笑んだ。


こうして、6人での紅葉狩りが始まった。


ケーブルカーで山を登りながら、窓の外に広がる紅葉の景色にみんな感動していた。


「きれいですね」美月が声を上げた。


「本当だ。まるで絵みたいだね」陽斗も同じように窓の外を見つめている。


麗奈は陽斗の横顔を見ていて、その自然な表情の美しさに見とれていた。紅葉を見つめる時の優しい眼差し、感動した時の素直な笑顔。思わずスケッチブックを取り出したくなる。


山頂近くの展望台に着くと、一面に広がる紅葉の絨毯が見えた。


「すごい!」明が感激の声を上げた。


「写真撮ろうよ」陽斗が提案した。


6人で記念撮影をした後、それぞれ自由に散策することになった。


美月と陽斗は展望台の端で、景色を眺めていた。


「美月、紅葉ってなんでこんなに心が落ち着くんだろうね」陽斗が呟いた。


「そうですね...季節の移り変わりが感じられるからでしょうか」


「君といると、季節の美しさがより深く感じられる」陽斗が振り返った。


美月の頬が少し赤くなった。「そんな...」


「本当だよ。美月がいてくれると、何を見ても特別に感じる」


美月は陽斗の真っ直ぐな言葉に心を動かされた。こんな風に素直に気持ちを伝えてくれる陽斗に、だんだん惹かれていく自分を感じていた。


少し離れたところで、麗奈がそっと二人をスケッチしていた。陽斗の穏やかな表情、美月との自然な会話の様子。どれも美しくて、思わず絵に残したくなってしまう。


一方、颯太は一人で別の場所にいた。豊と明が近づいてくる。


「颯太君、一人で何してるの?」明が尋ねた。


「ちょっと考え事だ」颯太は苦笑いした。


豊が眼鏡をクイッと上げながら言った。「投資的観点から言うと、美月さんと照井君の関係はかなり進展してますね」


「分かってるよ」颯太は呟いた。「でも、まだ諦めるつもりはない」


明は颯太の複雑な気持ちを察した。「嵐山先輩...」


「大丈夫だ、明」颯太は明の頭を軽く撫でた。「俺は俺なりに頑張るさ」


昼時になると、6人は山中のベンチでお弁当を食べることにした。


「みんなでお弁当って、なんか遠足みたいですね」美月が楽しそうに言った。


「高校生の遠足だね」陽斗が笑った。


麗奈は自分の描きかけのスケッチを見せた。「皆さんの自然な表情を描かせていただいてます」


「わあ、上手」明が感心した。


スケッチを見ると、陽斗が紅葉を見上げている時の表情が美しく描かれていた。


「照井君、とてもいい表情してるじゃない」颯太が言った。


「照れるなあ」陽斗は頭を掻いた。


「厳島さんの絵、本当に上手ですね」美月が褒めた。「照井君の優しさがよく表現されてます」


麗奈は美月の言葉を聞いて、少し複雑な気持ちになった。美月は何気なく言っているのだろうが、その言葉が自分の想いを的確に表していた。


午後は、もう少し山を登って違う景色を楽しんだ。


途中で小さな神社を見つけて、みんなでお参りをした。


「何をお願いしたの?」陽斗が美月に尋ねた。


「それは秘密です」美月は微笑んだ。


実際は、陽斗との関係がもっと深まるようにと願っていたのだが、それを言うのは恥ずかしかった。


麗奈も手を合わせて祈っていた。陽斗が幸せになれますように、そして自分の想いが届きますようにと。


夕方、山を下りる途中で、美月が足を滑らせそうになった。


「危ない!」


陽斗が咄嗟に美月の手を取って支えた。


「大丈夫?」


「はい...ありがとうございます」


二人の手が繋がったまま、しばらく時が止まったような瞬間だった。美月は陽斗の手の温かさを感じて、胸がドキドキした。


その様子を見ていた麗奈は、少し切ない気持ちになった。でも、陽斗の優しさを改めて感じて、ますます彼に惹かれていく自分もいた。


「大丈夫ですか、美月さん?」麗奈が心配そうに近づいてきた。


「はい、おかげさまで」美月は慌てて陽斗の手を離した。


颯太は少し離れたところからその様子を見ていて、複雑な表情をしていた。


帰りの電車の中で、6人は今日の思い出を語り合った。


「楽しかったです」明がみんなに向かって言った。


「うん。みんなで来てよかった」陽斗が答える。


「厳島さんの絵、完成したら見せてください」美月がお願いした。


「はい。でも、まだまだ未熟で...」麗奈は謙遜した。


「そんなことないよ」陽斗が励ました。「今日描いてくれた絵、とても上手だった」


麗奈は陽斗の言葉を聞いて、とても嬉しくなった。今日一日、陽斗の色々な表情を見ることができたし、絵に残すこともできた。


豊は窓の外を見ながら呟いた。「投資的観点から言うと、今日は全員にとって価値のある一日でした」


「豊君、今日は投資理論封印じゃなかったの?」美月が笑った。


「つい癖で」豊は苦笑いした。


駅で解散する時、麗奈が美月に近づいた。


「美月さん、今日はありがとうございました」


「こちらこそ。厳島さんがいてくれて楽しかったです」


「また、一緒にお出かけできたらいいですね」麗奈は微笑んだ。


美月は麗奈の優しさに触れて、改めて彼女を友達として大切に思った。でも、陽斗への想いについては、まだ複雑な気持ちもあった。


家に帰った美月は、今日のことを振り返っていた。


陽斗と手を繋いだ瞬間のドキドキ、紅葉を見ながらの会話、みんなでのお弁当タイム。どれも特別な思い出になった。


特に、陽斗の「君といると、季節の美しさがより深く感じられる」という言葉が心に残っていた。


(私も、照井君といると特別な気持ちになる...)


美月は自分の気持ちが、確実に陽斗に向かっていることを感じていた。


一方、麗奈は自分の部屋で、今日描いたスケッチを見返していた。


陽斗の様々な表情、特に紅葉を見つめる時の穏やかな横顔。どの絵も愛おしくて、見ているだけで胸が温かくなった。


(照井君の魅力を、もっとたくさんの人に伝えられるような絵が描けたら...)


麗奈は今日の体験を元に、新しい作品を描こうと決心した。そして、いつか陽斗に自分の気持ちを伝えられる日が来ることを願った。


秋の深まりと共に、それぞれの想いも深くなっていく。紅葉狩りの一日は、みんなにとって特別な思い出となった。

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