表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

 第四章 チエちゃんはタヌキとラブラブ?

 翌日ぼくら三人と人形を抱いた瑠璃左衛門さんとでオニヘーの家をたずねた。

 人形はまだ回復しないらしくしゃべらない。

 家の中に声をかけるとオニヘーの代わりにミクのおばさんが出て来た。

 おばさんを見たミクが声をあげた。

「あら? なにやってんのおばさん?」

「おやミクちゃん。浜崎さんね入院したのよ。それで下着とかを取りに来たわけ。浜崎さん身寄りがないから」

 おばさんが例の病院に目を向けた。

 コトブーがハッと息を飲む。

「死にかけ病院? じゃオニヘー?」

 おばさんがコクンと首を縦にふった。

「あと二ヶ月だって。お酒はやめろって言ってたんだけどねえ」

 ぼくらは下着を詰めたバッグを持つおばさんについて病室に入った。

 ベッドに寝たオニヘーはやせ細っていた。

 三ヶ月会わなかっただけなのにげっそりだ。

 顔がガイコツみたい。

 ベッドのわきには車イスが置かれている。

 オニヘーは自力で歩けないようだ。

 瑠璃左衛門さんは病室の外で人形と待機した。

 医師や看護師に顔を憶えられると困ると。

 ぼくらが入るなりオニヘーが怒鳴りはじめた。

 上半身だけを起こして。

「こら悪ガキども! くたばりぞこないを笑いに来たか!」

 ぼくらは腰が引けた。

 まあまあとおばさんがオニヘーをなだめる。

 コトブーが恐怖を押さえつけて口を開く。

「オニヘー。ひとつ聞きたい。チエちゃんって誰?」

 オニヘーの怒鳴り声が窓ガラスをビリビリ響かせた。

「バカヤロー! そんなのどうだっていいだろ! なんてことを聞きやがる!」

 ぼくらは三人で並んだ。

 口を閉じたまま無言でオニヘーが冷静になるのを待つ。

 オニヘーとぼくらのにらみ合いがつづく。

 おばさんがぼくらの真面目な顔に席をはずした。

 体力の尽きかけているオニヘーが先に白旗をあげた。

「いや。わしももう死ぬからいいか。話してやろう。チエちゃん。つまり横川智恵子はわしの小学校時代の同級生だ。歌がうまかったよ。わしはよくほめたものだ。チエちゃんの歌う赤とんぼの歌がわしは特に好きだったな。戦時中チエちゃんは小学校の避難訓練で足の骨を折った。食べ物が足りない時代だ。骨がもろくなってたんだろう。この病院に入院したところを空襲にあったらしい。たしか夏至の夜だったな。当時この県に海軍の秘密兵器工場が作られてた。アメリカさんはこの病院をその工場だとかんちがいしたんだ。町も空襲を受けてわしらもその夜焼け出された。大勢の人が死んだよ。チエちゃんはついに帰って来なかった。どこでいつ死んだのかすらわからん。死体は見つからずじまいだ。当時はそんな時代だった」

 ぼくは感心した。

 コトブーの大正解だと。

 コトブーが外に出た。

 人形を手にもどって来る。

「じゃオニヘー。この人形に見憶えは?」

 オニヘーの目が見開いた。

 コトブーから人形を奪い取る。

「ど? どこでこんなものを見つけた? これはわしがチエちゃんに彫ってやった細工だ。この黒髪はチエちゃんのだぞ?」

 オニヘーに抱かれた人形がピクッと身じろぎをした。

 かすかな声が聞こえる。

「平……吉……さ……ん」

 ま……まさかとオニヘーが手に持つ人形に視線を落とした。

 人形の表情が動く。

「戦争が……終わったら……そう約束……した……わね」

 オニヘーがポロポロ涙をこぼしはじめた。

「ああ。約束した。遠い遠い約束だ」

 すこしずつ人形の声が鮮明に変化する。

「果たしに……来たわその……約束。人形になった……けど」

「かまうもんか。チエちゃんはチエちゃんだ」

 不意にコトブーが人形を指でつついた。

「ところでチエちゃん。その約束ってなんだ? おれたち外に出てようか?」

 チエちゃんがコトブーに顔を向ける。

「戦争が終わったら……手を握ってあげる。そう平吉さんに……約束したの」

 コトブーがひたいに青すじを立てた。

「こらあ! 手を握るぅ? だめだめそんなの。八十年前はそうだったかもしれねえ。でもいまはそれじゃだめだ。ここはひとつキスだな。ぶっちゅーと再会のド熱いやつをぶちかますんだ。いくらじじいとばばあでも時代遅れなことを言ってんじゃねえ。勇気を出すんだチエちゃん!」

 あきれたぼくとミクで熱弁をふるうコトブーを病室の外に引きずる。

 半世紀を越えた再会の邪魔をするんじゃないと。

 ぼくらが病室から出るとチエちゃん人形とオニヘーが見つめ合った。

 コトブーとミクが病室の戸をちょっとあけた。

 中をのぞき見る。

 悪趣味だぞお前ら。

 そう思ったけどぼくものぞいた。

 瑠璃左衛門さんもちらちら見ている。

 よく考えればだよ。

 腕のないコケシ人形のチエちゃんがどうやってオニヘーの手を握るつもり?

 ぼくらは見た。

 オニヘーと向き合っているのが人形じゃなくおかっぱ頭の少女に変わったのを。

 オニヘーはアキのほうが可愛いと言った。

 でもチエちゃんもなかなか。

 チエちゃんがオニヘーの両手を握った。

 オニヘーにほほえみかける。

 オニヘーの目から涙がとめどなく頬につたった。

 チエちゃんのおかっぱがそっとオニヘーの顔に寄った。

 揺れる黒髪がオニヘーの頬にふれる。

 やった!

 そうミクとコトブーがこぶしを固めた。

 ぼくも思わずガッツポーズ。

 ぼくはチエちゃんが想いを遂げたら成仏すると考えていた。

 でもキスを終えたチエちゃん人形はそのままオニヘーと話し合っている。

 ふたりは楽しそうだ。

 ぼくは病室の戸を音を立てずにしめた。

 ふり返ってミクとコトブーに声をかける。

「ひょっとしてチエちゃん。エネルギーが尽きるまであのまましゃべりつづける?」

 コトブーがぼくに向く。

「気力がエネルギーだとすると当分切れねえぞ?」

 ミクが困った顔を見せた。

「どうしよう? でも邪魔すると悪いよ。なにせ半世紀以上も離れ離れだったんだもの」

 ぼくらは相談した。

 このままチエちゃんを置いて帰るかと。

 するとオニヘーが病室の中から声をかけて来た。

「コトブー。ひとつ聞きたいんだが」

 なにを?

 ぼくら三人が病室に入るとオニヘーがつづけた。

「どうやってチエちゃんは人形になったんだ? わしも人形にしてもらえんか?」

 へ?とコトブーの口が丸まる。

 ぼくらは病室の外にいる瑠璃左衛門さんを見た。

 瑠璃左衛門さんが入室して来た。

 オニヘーに説明をはじめる。

 瑠璃左衛門さんが話し終わるとオニヘーが頭をさげた。

「たのむ。わしにもその『封魂の術』とやらをほどこしてくれ。わしはあと二ヶ月も生きられんそうだ。チエちゃんと同じく人形になってチエちゃんといたい。たのむ瑠璃左衛門どの!」

 すこし考えて瑠璃左衛門さんがうなずいた。

「わかりました。やりましょう。でも失敗すればあなたはただ死にますよ。魂が人形に移るとはかぎらない」

「かまわん。どうせ二ヶ月の命だ。うまく行けば儲けものさね」

 瑠璃左衛門さんが果物ナイフを手に取った。

 お見舞いの果物かごの横に置かれたナイフだ。

 さやを払った。

 刃先を指でたしかめる。

 決意した顔でぼくらを病室の外に招いた。

 室外に出た瑠璃左衛門さんが声をひそめる。

「封魂の術には代償がひとつある。術者の命と引き替えに魂を物に封じるんだ。それでこころみる者がいない。私も不死身とはいえ死ぬのは痛くて苦しい。だがやってみよう。私が死んだら車イスに乗せて屋敷まで運んでほしい。三日もすれば傷がふさがり生き返るはずだから」

 コトブーが瑠璃左衛門さんを見た。

「うわあ! こ? ここで死ぬ気?」

「術を成功させるには夏至の日が最適だと聞いた。きのう夏至だったからきょううまく運ぶかはわからん。だが次の秋分の日を待つよりはいいだろう」

 コトブーが納得顔を返す。

「たしかにそのころオニヘーはもう死んでるかも」

「では」

「で? ではってさ? ちょいと五百歳以上のお兄さん」

 瑠璃左衛門さんが病室に入った。

 空ぶりしたコトブーの手がかける相手をなくしてさまよう。

 瑠璃左衛門さんがナイフに伸ばす手を止めた。

 ベッドのオニヘーとぼくらを交互に見る。

「ところでと。魂を封じる物だがなんにするかね? どんな物にでも封じられると聞いてるが?」

 オニヘーがそこまで考えてなかったって顔をした。

「チエちゃんみたいな人形じゃだめなのかい? しかしおもちゃ屋で売ってるリカちゃんの恋人じゃいやだな」

 瑠璃左衛門さんがぼくらに顔を向ける。

「ふむ。小さな物がいいと私は思うね。大きいと動くのにエネルギーがいっぱいいる」

 瑠璃左衛門さんの目はミクのズボンのポケットに貼りついていた。

 そこにはミクの小銭入れが入っている。

 小銭入れにはミニサイズのタヌキがぶらさがっていたはずだ。

「ボ。ボクのタヌキさんをオニヘーにしようっての? お気に入りのタヌキさんなのにぃ」

 ミクがくちびるをとがらせた。

 けどチエちゃん人形は目を輝かせた。

「まあ! あの可愛いタヌキさんに平吉さんがなるの? わたしとってもうれしいわ」

 昨夜の動けない状態でもチエちゃん人形はミクの小銭入れを見ていたらしい。

 コトブーがぼくの耳に口を寄せる。

「なにも聞いてねえぞこの人形。天然かこいつ?」

 ぼくは思う。

 丸太を削っただけだからそうだろうと。

 自然素材百だ。

 そんなことを考えているとコトブーがぼくをにらんだ。

 お前も天然だよなという目で。

 ぼくの胸ポケットのウルルがクククと声を殺して笑った。

 ぼくらの心の動きを感じてそれぞれの思惑がすれちがうのがおもしろいらしい。

 ミクの意見は無視された。

 瑠璃左衛門さんが呪文を唱えはじめる。

 夏至に一秒でも近いほうが成功率が高い。

 そう感じているようだ。

「闇に向かいし者。その目を開け。迷いし魂よ。安らかにくつろげる場所を探せ。救いは来たり。光はなんじの眼前より射す。なんじ浜崎平吉に見えぬものはなし。まどうなかれ。なげくなかれ。罪を悔やむなかれ。なんじ浜崎平吉よ。目は前だけを見よ。ドソス・グレロ・バリオ! 光を望みし者! 扉をあけよ!」

 タヌキのぬいぐるみとオニヘーの前で瑠璃左衛門さんが自分の心臓にナイフを突き立てた。

 瑠璃左衛門さんの手がナイフを抜く。

 血が病室中に噴きすさぶ。

 血の奔流を浴びたオニヘーがうわあと悲鳴をあげかけた。

 ぼくはオニヘーの口を手でふたする。

 病室に舞う血しぶきに動転しつつだ。

 大声を出されちゃやばいもの。

 瑠璃左衛門さんの血の噴出が勢いをなくした。

 オニヘーの全身が光りはじめた。

 キラキラした光の球がオニヘーからタヌキのぬいぐるみに吸いこまれた。

 瑠璃左衛門さんががっくり床に崩れた。

 入れ替わりにタヌキがぼくらに口を開いた。

「この兄さん死んだぞ。いいのか? おい?」

 あんたのせいだろ!

 そうぼくは怒鳴りたかった。

 でも仲間割れをしている場合ではない。

 ぼくはオニヘーのベッドのシーツを引き抜いた。

 瑠璃左衛門さんの身体を包む。

 コトブーがどっひゃーって顔でベッドのオニヘーと瑠璃左衛門さんの首に指を当てる。

 ミクはガタガタふるえるだけだ。

 男まさりだけどやっぱり女の子なんだ。

 コトブーがぼくにまっ青な顔を向けた。

「オニヘーも瑠璃左衛門さんも死んでる。脈がねえ」

 ぼくはうなずく。

「とにかく瑠璃左衛門さんの指示どおり車イスでここから逃げよう。これじゃ殺人現場だ」

 ぼくとコトブーでお互いの血をそなえつけのタオルでぬぐった。

 指をふるわせながら車イスに瑠璃左衛門さんとチエちゃん人形とオニヘーダヌキをつむ。

 病室の外に人がいないかキョロキョロと見回した。

 確認後ミクの手を引いて病室から出る。

 コトブーがぼくからミクの手をうばった。

 つづいて車イスを押すコトブーがぼくに目で示した。

 先行して誰か来ないかたしかめろと。

 ここは末期専門の病院だけあって車イスの老人も多い。

 休日を孫とすごす老人もまた多い。

 ぼくらは怪しまれず外に出た。

 そのとたんあとにした病院内をけたたましい女の悲鳴が貫いた。

 血まみれの惨劇を看護師が発見したらしい。

 コトブーが青い顔ながらコメントをつける。

「『オニヘー殺人事件』だ。日頃からケンカを売る一方だったからな。仕返しに殺されたんだ。人の恨みは買うもんじゃないぜおっさん」

 オニヘーダヌキが口をとがらせた。

「なにをぬかすこの悪ガキが。おめえこそ泥棒じゃねえか。いつもいつもわしの丹精こめた桃や柿を盗みやがってよ」

 車イスを押すコトブーがタヌキに顔を近づける。

「だってよ。オニヘーの桃とぶどうと柿がこのあたりじゃいちばんうめえんだ。自慢しろよオニヘー。このおれさまがほめる味なんだからよ」

「自慢になるかそんなもの! ペットボトルデブに味がわかってたまるか!」

 タヌキになってもオニヘーはオニヘーらしい。

 ぼくらは必死で人目を避けた。

 タヌキのぬいぐるみがしゃべるのを見られるのと死体を見られるの。

 どっちがよりまずい?

 そう悩みながら。

 瑠璃左衛門さんを乗せた車イスを幽霊屋敷の門から中に入れる。

 そのころにはぼくは安堵できるまでに落ち着いていた。

 理由はこうだ。

 殺されたのがオニヘーだと警察が思っているうちはぼくらは殺人犯にされない。

 だってオニヘーは傷ひとつなく死んだもの。

 血まみれのオニヘーとナイフが病室に残っているけどね。

 要するにぼくらはとぼけてりゃいい。

 知らなかったって。

 警察は病室でなにが起きたかわからないはずだ。

 ぼくだって本当のところはわかってない。

 見ず知らずの他人の病室で初対面の若者がいきなり果物ナイフで心臓を刺して自殺する?

 そんなのありえなーい。

 起きた事実を正直に話すほうがうさんくささ満点だ。

 ぬいぐるみのタヌキに魂を移すため自殺した不死身のお兄さん?

 日本語かいそれ?

 ぼくの頭がおかしいとしか思えない証言だ。

 小学六年生のたわごととしか受け取るまい。

 どんな名探偵だってオニヘー殺人事件は解けないだろう。

 血まみれのオニヘーに外傷はないんだもの。

 殺害方法が不明のはず。

 ぼくは完全に息が止まった瑠璃左衛門さんをプレハブ小屋のベッドに寝かせた。

 瑠璃左衛門さんの胸から垂れた血をぬぐう。

 ふとんをかけて死体の不気味さをごまかす。

 コトブーがぼくに顔を向けた。

「本当に生き返るのか? これ?」

 オニヘーダヌキがわめき出す。

「死んでるって! まちがいなく!」

 ぼくとコトブーの口が同時にオニヘーに開いた。

「あんたのせいだろ!」

 シュンとタヌキが口を閉じた。

 ミクはまだ青い顔でふるえている。

 ぼくはコトブーとミクにオニヘーダヌキを目で示す。

「オニヘーがタヌキになったんだ。瑠璃左衛門さんも生き返るんじゃないかな? ウルルはどう思う?」

 胸ポケットからウルルがヒョコッと顔を出した。

 ウルルが首をかしげる。

「たしかに死んでる。なんの意識もない。これで生き返るのかねえ?」

 オニヘーダヌキが目を丸めた。

「ネ。ネズミがしゃべった」

 やっと動くようになったミクの口がオニヘーダヌキに釘を刺した。

「あんただってタヌキのぬいぐるみだよ! 驚くツボが変! あーあ。ボクのお気に入りのタヌキがしゃべる頑固ジジイになっちゃったぁ。あーん。ボクのストラップぅ」

 コトブーがミクの肩に手を置いた。

「なげくなミク。おれが代わりを買ってやるからよ」

 ミクがコトブーの手を払った。

 ぼくに寄る。

「やだ! ボクはユーヤがいい。ユーヤ買ってよぉ。もっと可愛いのを。タヌキもリスも赤ネズミもやだからさあ」

 ウルルがムッとした。

 ウルルがべーとミクに舌を出す。

 ミクもレロレロと返す。

 ウルルとミクが変な顔コンテストをはじめた。

 ぼくとコトブーは顔を見合わせて肩をすくめた。

 いつまで待っても瑠璃左衛門さんは息を吹き返さない。

 オニヘーダヌキとチエちゃんがいちゃつきはじめた。

 ぼくは眉をひそめた。

 こんな後悔がふと浮かんだ。

 ひょっとしてぼくらってさ。

 人形とぬいぐるみのバカップル成立に手を貸した大バカ者?

 そこへスマホに連絡が来た。

 警察がオニヘー殺人事件でぼくらを探していると。

 あわててぼくらは口裏を合わせた。

 ぼくらはオニヘーにチエちゃん人形の話をしてもらった。

 そのあと病室を出た。

 そのときオニヘーはまだ生きていた。

 ぼくらが病室を出たあとなにが起きたかぼくらは知らない。

 そう押し通そうと。

 ぼくらはそれぞれ自宅に帰った。

 そのあと親につき添われて病院に向かった。

 血まみれの病室の前で刑事たちがぼくに質問をした。

 入れ替わり立ち替わり。

 ぼくは寸分変わらぬセリフをくり返した。

 刑事たちの顔に不審の色が浮いた。

 でもそれ以上は追求して来なかった。

 ぼくの推測どおりオニヘーの死因がケガによるものじゃなかったからだ。

 ミクとコトブーも個別に同じあつかいを受けたらしい。

 ふたりとも打ち合わせどおり知らぬ存ぜぬで切り抜けたそうだ。

 ぼくの父さんが代表して刑事たちから事情を聞いた。

 その父さんが帰宅後説明してくれた。

 警察はタチの悪いイタズラと結論しそうだと。

 自然死したオニヘーの病室で誰かが保存用の血液をまき散らした。

 そして車イスとシーツを盗んだ。

 殺人事件ではない。

 車イスとシーツの窃盗事件および病室を血でよごした器物損壊事件。

 そう捜査する方針だと。

 ぼくは胸をなでおろした。

 殺人でなければ警察は本腰を入れないだろう。

 あとでこっそり車イスとシーツを返しとこう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ