だれかゴワモシャを知りませんか
ちきゅうからとおい星に、ネコばかりがくらす国がありました。
ネコの国にはおうさまや、じょおうさまがいました。
そしてヌルモッフとゴワモシャは、ネコの国のおうじさまです。
二人はあそんだり、ごちそうを食べるのもいつもいっしょです。
二人はエメラルドのようにキラキラした目と、ビロードのようにつやつやとした黒い毛なみをしていました。
まちを歩くとき、二人はむねをはってとくいげにシッポをふります。
「えっへん、どうだい!」
「まあ、なんてすてきなのかしら!」
うつくしいすがたにあこがれて、みんなが二人をほめたたえます。
ある日ヌルモッフとゴワモシャは、うちゅうせんに乗ってりょこうに出かけました。
けれども流れ星のあらしにあって、うちゅうせんがこしょうしてしまいます。
「ヌルモッフ、たいへんだ! どうしよう」
「ゴワモシャ、あわてるな! だっしゅつしてちかくの星に逃げよう」
二人はひなんようのパラソルで、ちきゅうをめざして外にとびだしました。
「ゴワモシャ、がんばるんだ! しっかりつかまっているんだぞ」
「ヌルモッフ、そんなこといわれても。ああっ、もうだめだ!」
ゴワモシャはとちゅうで、パラソルから手をはなしてしまいました。
朝になって、ヌルモッフは目をさましました。
あたりを見るとそこは砂浜で、目のまえには海が広がっています。
「ああ、助かったんだ。よかったねゴワモシャ、えっ?」
けれどもヌルモッフのとなりには、ゴワモシャはいませんでした。
一人ぼっちになったヌルモッフは、さびしくて何度もゴワモシャを呼びました。
「どうしたっていうの、そうぞうしい。だれかを探しているの?」
たまらず海がヌルモッフに声をかけました。
「海さん、海さん、ゴワモシャを知りませんか? いつもいっしょにいた、だいじな弟なんです」
「さあ知らないわ。海のなかにはいないわよ。だってネコはおよげないでしょう? そうね、陸のうえなら太陽が知っているかもしれないわ」
海にそういわれて、ヌルモッフは太陽に話しかけます。
「太陽さん、太陽さん、ゴワモシャを知りませんか? エメラルドの目をした、おんなじ黒いネコなんです。高いところからならすぐ見つけられるでしょう?」
「馬鹿を言いなさんな。わしからすればネコなんて、ゴマつぶみたいなもんだ。見分けがつくわけがないだろう?」
太陽にそう言われて、ヌルモッフはがっかりして途方にくれてしまいます。
「そうだわ、川をのぼっていってごらんなさい。だれかが何か教えてくれるかもしれないわ」
海にそう言われて、ヌルモッフはゴワモシャを探しにいくことにしました。
そうしてヌルモッフは、川にそってどんどんのぼっていきました。
「森さん、森さん、ゴワモシャを知りませんか? いつもいっしょにいた、だいじな弟なんです」
「キツネさん、キツネさん、ゴワモシャを知りませんか? エメラルドの目をした、おんなじ黒いネコなんです」
ヌルモッフは歩きながら、とちゅうでみんなにたずねました。
「さあ、知らないねそんなネコ」
「黒いネコなんて、たくさんいるからねぇ」
しかしだれも首をふるばかりでした。
そしてヌルモッフがもっと歩いていくと、ニンゲンのまちがありました。
まちには木のかわりに、四角いビルがにょきにょきと建っています。
かたい地面のうえを、クルマがびゅんびゅん走っています。
「あの、ゴワモシャを知りませんか? いつもいっしょにいた、だいじな弟なんです」
つめたいコンクリートでできたビルは、返事をしません。
「あなたはゴワモシャを知りませんか? エメラルドの目をした、おんなじ黒いネコなんです。ひゃあっ!」
かたい鉄でできたクルマも、何もこたえず目のまえを通りすぎていきます。
「だれかゴワモシャを知りませんか? いつもいっしょにいた、だいじな弟なんです」
「あなたはゴワモシャを知りませんか? エメラルドの目をした、おんなじ黒いネコなんです」
しかしニンゲンたちは忙しそうに歩いていて、立ちどまってヌルモッフを見てくれません。
夜になって、ヌルモッフは疲れてへとへとになっていました。
おなかもすいていたので、食べるものを探して路地裏を歩いていました。
しかしそこにはカラスが先にきていて、ゴミをあさっていました。近づこうとするヌルモッフにどなりごえをあげます。
「なんだお前は? ここはおれのナワバリだぞ。さっさとよそに行っちまえ!」
くちばしでこうげきするカラスに、しかたなくヌルモッフはごはんをあきらめました。
けれどもやっぱり、ゴワモシャのことをきかずにはいられません。
「カラスさん、あなたは空をとべるんでしょう? ゴワモシャを知りませんか? いつもいっしょにいた、だいじな弟なんです。エメラルドの目をした、おんなじ黒いネコなんです」
するとカラスはわらいながら言いました。
「そんなことはおれにはかんけいないな。それに子供のネコなんて、とっくにだれかのエサになっているだろうよ。ははは!」
カラスのいじわるにヌルモッフは泣きたくなりました。
くやしさをがまんして、ふらふらと路地裏を出ていくのでした。
よろよろとまちをさまよううちに、ヌルモッフはちいさな公園にたどりつきました。蛇口からこぼれる水をごくごくと飲んで、ふうとひとつためいきをつきました。
「明日からどうしたらいいんだろう。だけどもう今日はつかれて動けないや」
ヌルモッフはベンチの下にもぐりこんで、新聞紙にくるまって眠ることにしました。
しかし次の日、ヌルモッフはクッションのうえでタオルケットにくるまっていました。
「まあ、パパ! ネコちゃんが目をさましたわ」
「ほんとかい? ああ、よかったねママ!」
ヌルモッフが見あげると、やさしそうなひとたちがヌルモッフをのぞきこんでいます。
「公園をさんぽしていて、あなたを見つけたのよ。ほんとうによかったわ!」
そうしてママは、ヌルモッフにあたたかいミルクを飲ませてくれました。
パパはひざの上で、ヌルモッフが眠るまでずっとなでていてくれました。
それからヌルモッフは、ママとパパの家でくらすことになりました。
もうおなかがすいてこまることはありません。
だれかにいじわるされて、かなしくなることはありません。
だけれども……
ヌルモッフがゴワモシャのことを探しに行きたいとせがんでも、ママとパパはドアにカギをかけて外に出してくれません。
「ここにいれば何もしんぱいしなくていいんだよ」
「ここでいつまでもいっしょに、しあわせにくらしましょう」
今のヌルモッフにできるのは、窓から外を見ることしかできません。
それでも一人でおるすばんの日には、とおりすがりの風や雲にゴワモシャのことをたずねてみるのです。
「風さん、風さん、ゴワモシャを知りませんか? いつもいっしょにいた、だいじな弟なんです」
「雲さん、雲さん、ゴワモシャを知りませんか? エメラルドの目をした、おんなじ黒いネコなんです」